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第9話 あたらしい?、友人

 先輩と話していたお姉ちゃんと咲恵を放って、さきに教室へ向かった。

 「ふぅ」

 席に座ってため息1つ。

 この身体で陸上やるのは楽しみだけど、確かに友達とか変わってしまうのは大変そう。今朝は咲恵に振り回されてるお姉ちゃんを見ているだけで済んだけれど、明日は我が身だ。

 「あれ、川田くん……」

 クラスメイトが話しかけてきた。あ、川田くん……?その呼ばれ方で気づいた。ここ理香のときの教室だった。

「あっ、ハハハ……。ここお姉ちゃんのクラスだったね。間違えちゃったな~」

 ガタンと、大きな音を立てて立ち上がり、教室から飛び出す。

 出入り口でなにかが胸からお腹辺りにぶつかってきた。

「う……」

 声を上げたのは何かと見下ろすとそれはお姉ちゃんで、ぶつかったのはお姉ちゃんの頭と胸だった。

 その胸の形が急に崩れた。

「ひゃあ!?」

 あれは、無理やり着けてるサイズの合ってない下着だから簡単にずれちゃったんだろうな。鞄で前隠してトイレに駆け込むなんてちゃんと女子として高得点だよ……。

 でもそのお姉ちゃんがそもそも俺といっしょに教室の方へ向かっていれば、クラスを間違えることもぶつかることもなかったんじゃないかな。むむむ……。お姉ちゃんのバカ……。


「よーっす、理久ー。昨日発売のファンコミ読んだ~?」

 今度こそ合っている教室に入ると清水くんが声を掛けてきた。そういえば友達って言ってたっけ。

 ファンコミってなんだろ。

「おはよう清水くん、ファンコミって何?」

「は?」

 ああぁー!これまたやっちゃったよ。無理だってこの生活!

「ファンコミはファンコミだろ、月間ファンタジーコミック。お前、いつも『続・TS美少女アイドル道のためだけでもこの雑誌を買う価値がある』とか言って読んでるのにどうしたんだよ……」

 お姉ちゃん、もっと硬派な読書家だと勘違いしていたよ。

「それになんだよ『清水くん』って、気持ち悪ぃ。いつも呼び捨てじゃんか」

 きっと、挨拶も他人行儀だとか、思われたかもしれない。

「そうだったっけ?寝ぼけてたわ」

「んー、なんだ寝不足か?予鈴鳴ったら起こしてやるよ、一眠りしたらどうだ」

 お願いしながら寝たら神様が出てきて、全部もとに戻してくれたりしないかな。双子の神様が間違えた性別でも別にいいよ。この生活続けることを思うと。

 ……男の力強い身体は惜しいけど。

「ああ、寝るわ……」

 そして机に伏して眠りに落ちた。


 ――起きなさい。

 この声は、もしかして。本当に神様来たかな。

 ――起きなさい。

 にしては一向にその姿を見せない。

 ――起きぬものは刑罰を与える。

 え?

 その直後、頭の中に背筋も凍るような性的に露骨な歌詞を、可愛すぎる声が歌い上げている音楽が流れた。

「何これ~~~!」

 声を上げ顔を起こすと、まわりの席は埋まっていて、皆こちらを見ていた。右前に影を感じたので視線を向けると理久の担任教師が立っている。耳にはまだ音楽が流れていたけれど、それはその教師により取り外された。

「お目覚めかな?」

「お、おはようございます?」

 神様は来てくれずに張り付いた笑顔の教師が来てしまった。寝入っていたみたい。清水くんが起こすと言っていたのはどうなったのよ。

「ところで今の音楽は……」

「2000年代に溢れた居眠り処刑用ミュージック、――男子用だ。これで起きない場合はジャンルを変える。ほら、今叩いたりすると体罰になるだろう?」

「先生ー、男子用ってなんですかー?」

 どこかから質問の声が上がる。

「こんなもの、女子生徒に聞かせてみろ、私はセクハラで捕まってしまう」

 男子相手でもやめてあげてください。逆に聞いてみたいとか、俺だったらあれにするなとか、叩かれる方がマシだななど、周りからもいろいろな反応が。

「とにかく、川田が夢から覚めたようなので始める。日直!」

「起立。礼。おはようございます」

 定型の挨拶とともに学校生活の一日が始まった。これまでは退屈な一日がまた始まるな~なんて思っていたけれど、こんなにも退屈な――何も問題の起きない、一日であるようにと祈るのは初めてのことかもしれない。

 時間割をチラリと確認すると、午前中は一般教科が並んでいるので、授業間の時間さえ狸寝入りしていれば、難なく過ごせるんじゃないかなあと期待しちゃう。

 そして問題なく昼休みまでこぎ着けた。神様の辻褄合わせにより、そもそも理久は勉強できないと認識されていた。そのため無茶振りをされることもなかったし、周囲の席から質問される、なんてこともなかった。

 問題は昼休み。ここは昼食もあるから寝て過ごすわけにもいかないし、そもそも陸上部に入りたいと教師に伝えなければならない。

「よし……」

 広げた弁当を前に気合を入れる。今日は好みの鮭ハラスが入っているけど一気に食べてしまい、他の人とかかわらない作戦でいこうと思う。ごめんね鮭ハラス。

「何を昼飯相手に気合いれてんだよ」

 清水くん……。作戦は瞬時に破綻した。

「それでファンコミは読んだのかよ」

 ずりずりと椅子に座ったまま引きずってこちらに寄ってくる。一緒に昼食を食べよう、ということなんだろう。

「いやあ、まだ読んでないなあ」

 それにしても神様も中途半端なことを。なんで勉強できない認識に変わっているのに趣味とか何もかわって無いわけ?

「そうか~、じゃあその話はまだ出来ないなあ。なんなら昼休みに読むか?俺、今持ってるけど」

「えーっと。この後用事あって……」

 嘘じゃないから内容はすぐに言えるのに、言葉遣いが気になってうまく口が回らない。

「なんだよわざわざ昼休みに勿体ねえなあ、まあ用事あるならしゃあねえか」

「ああ、部活変えようと思ってさ」

 そういった俺の言葉に清水くんは目を見開いた。

「ついにか!ついに我がオタク部……、もといパソコン部に変更か!?」

「いえ、陸上部に……」

「り、く、じょうおぉぉぉお?まあ確かにお前運動神経いいけどよ……俺は寂しい!」

「何!川田が陸上部!」

「陸上よりもサッカーやろうぜ!」

「いや、その身長はバスケに!」

 矢継ぎ早にクラス内の男子生徒から声が上がる。

「理久さあ。これまでは文化部だったから諦められてたけど、運動部はいるとコイツらずっとうるさいぞ。体育で運動神経良いのは知れ渡ってるんだから」

「いや、陸上って決めてるから」

「ふーん。急に何を思ったのか知らないけど。ま、頑張れよ」

「ああ。ありがとう清水く……」

 またくんと言うところだった。

 なおその後、職員室へ入部したいと言いに行った際、教師の間でも自分の受け持つ部へ来ないかと奪い合いが起きた。

 神様、やっぱり認識のさせかた偏りすぎじゃあないかな。

 でも変えるつもりはないよ。理香である頃に、短距離の楽しさ、知っちゃってるから。誰にも言えないけど。

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