第37話 選択への、原因暴露
理久に言われるがまま施設の外に出た。
まだ朝早いので空いている店なども少ないのに、どうするんだろう。
「あの、理久。どこ行くの?」
「……」
しかし理久は何も答えずに歩き続けている。
仕方が無いのでそれについていくと、いつしか道路の海抜は高くなり、眼下には断崖と海。
そこに降りる階段が出てくると、理久はそこを降りていった。
……どこいくのよ。
崖の下に降りて、しばらく海岸沿いに岩場を歩いていると、理久が口を開いた。
「姉貴……」
……。
「ねぇ理久、呼び方どっちでも良いから固定してよ」
「そう、だよな……。でもお姉ちゃんって呼ぶと詩織の元に戻れない気がして」
戻る気なんだ。
「いや、戻れなくて良いのか?自分でも分からないんだけど……。たぶん、シてしまってからおかしいんだ」
やっぱりシたんだ。
「あの時、陸上部や姉貴のことに絶望していた私を、詩織は相談に乗ってくれていたんだ」
あの時というのはきっと、佐々木さんにバレた時のことかな……?
あれ?そもそも私に絶望ってなによ。
「今となってはなぜか分からないけど、もういいやって思ってしまって、そのまま佐々木先輩を受け入れた。そしたらそこから離れたくない気持ちが芽生えて。どうせ、他はもうダメだって思ってたのもあるけど」
「じゃあ、今はどうして急にそれを振り返るようなことを?」
「久々に何度も姉貴を見てると、ふと我に返ったというか。あれ、俺何してるんだろうって。でも、それでも詩織から離れたくなくて。無理矢理最近のままを維持しようとして」
恋は盲目的な……?いや、恋じゃないんだろうな、きっと。
「今朝、詩織が起きなかったから、1人でご飯食べに出て、するとふと冷静になれた」
ここまで聞いて、理久が大変だってことはよく分かる。
よく分かるんだけど……!
「待って理久!話を聞いてあげたいのは山々なんだけど、こっちも大事な話が理久にあって……」
「……何?」
理久は急に冷めた態度になったけれど、私はそのまま神様からの話を伝えた。
決定の期限が明後日の朝だってことも。
「……女に戻りたい」
えっ!?
「待って理久!何が起きるか分からないじゃない!?危険すぎるとか思わないの?」
「思うけど、それ以上にもう男をやるのは……」
嫌って事か……。
歩き続けながら2人とも無言になってしまった。そして20メートルほど歩いた時、後ろから声がした。
「男になったことが全ての原因だと思ってるの?」
その声はやや離れたところからした。
「そもそもあなた自身の問題だとは思わないの?」
「詩織!?」
私と理久は、同時に後ろへ振り向いた。
そこには佐々木さんが立っていた。
「ごめんなさいね、理久。私、あなたがこんなにも私に溺れてしまうとは、溺れてしまうほど弱いとは思ってなかったの」
「何を……?」
急に謝られた理久は困惑している。
「そしてごめんね、川田さん。大丈夫っていったけど、結局大丈夫じゃなかったわ」
私も謝られた。佐々木さんは何を言ってるの……?
「どういうこと?詩織……」
「言っちゃうと台無しだけど、どうせこのままでは改善されないでしょうから、言うわね。理久、あなた協調性がなさ過ぎるのよ。自己中がすぎる」
……自己中というか、自分のことに夢中なところは確かにあるかもね、理久が理香だった時から。
「それを教えてあげて、改善してあげるついでに、私の恋人に、と思ってたんだけど……。理久が私に夢中すぎて、笑っちゃったわよ」
「そんなことない……!」
理久は否定するけど、そんなことあったわよ、誰が見ても。
「あれ?それなら佐々木さんは理久のこと本気じゃ無かったんです?」
「それはそれ。もちろん本気よ?あのね、流石に本気じゃ無いのに私の全てを渡すことはしないわよ……。あなたも女なんだから分かるで……、ああ、分からない可能性もあるのね」
いえ、仮に男のままでもそれくらい分かりますよ。ただ佐々木さんが非常識な人間だと思っていたので、とは言えない。
「まあ、そうかもですね」
適当に返しておいた。
「私から見た理久の自己中な点、教えてあげようか」
「いらない、わかるから。どうせ周りに合わせろとか言うんだろ」
……それは社会に生きる物として、ある程度しないとダメだと思うよ、理久。
「そうね、男子陸上部ではせめて練習以外の部分で毎日じゃ無くても他の部員と仲良くするべきだったし、できれば練習だって協力し合うべき、それが部活。そして川田さんに理想を求めすぎ。どうせ勝手に自分の理想を描いて勝手に絶望しただけなんでしょう」
佐々木さん、すごい切れ味で理久を攻めたてるけど……。
「なんで、そこまで俺のことが分かるんだ?姉貴とのやりとりとか詩織そんなに知らないはずだろ……」
「…………、乙女の秘密よ?決して直接見聞きしたり……、なんて、してないわ?」
してる!この人絶対してるよ!目がダンス決めてるもん!
「だから、このまま女に戻っても男のままでも変わらない、詩織はそういう意見なんだな?」
「そうよ?」
お願い理久、男のままでいて……!きっと戻ると私にも影響出る気がするから!
「もう1つ辛いと思ってた原因があったんだけど、それは詩織のおかげで解決したしな」
「……何?」
「実は、男で居ること自体が辛かった。……お姉ちゃんが咲恵とかにバラしてから、なぜか」
そうだったんだ……。
「でも詩織のおかげで、男でいることは苦じゃなくなったから、今のままの方向で前向きに考えるよ、お姉ちゃん」
お姉ちゃんに戻った。
「あれ、お姉ちゃんって呼んでくれるの?」
「お姉ちゃんに絶望してたのも、私の勝手な都合かもしれないし……。そこも考え直すから、保留!」
そう言った理久の表情は久々に厳しい物ではなくなっていた。
「こんなにあっさり考え直すなら、もっと早く直接言ってくれたらよかったんじゃないですか?佐々木さん」
「どうかしら?今なら、時間制限付きの男女の選択がある。だから効果があったかも知れないわよ?」
そんなこと言って、この人のことだから自分に都合が良いから言わなかったって可能性もあるよね……。
ひとまず、私に出来るのはここまでかな。
「じゃあ理久、今晩にでも結論教えてね」
そういって、私は二人を残してリゾート施設に戻った。
これにて四章終わりです。
次は五章。




