第29話 エンジョイ・リゾート(2)
用意されたコテージに入る。
「うわあ!オーシャンビューだあ!」
詩織が入るなり声を上げた。
「すごいなあ」
俺もそれに続いて、約一週間分の荷物を詰め込んだ鞄をリビングまで運びながら、中の様子に感嘆の声を漏らす。
中は十分な広さのLDKと、セミダブルが2つ置かれた寝室、それにお風呂とトイレがあった。
どれも明るくて綺麗で、不満などない。
「だね。……とりあえず荷物置いたら何しようか?」
詩織が問いかけてくる。
まあせっかく海に来たんだし、ビーチには行きたいけれど、他の人に会うのは避けたい。
特に姉貴に会うのは面倒だ。
「理久、顔に出てるよ」
「え、分かる?」
「ふふっ、もうエッチなんだから……。さっそく寝室に行きたいだなんて」
そんなことは思ってなかったけど。
「違うよ。でも、移動疲れたから一旦横にはなりたいかも……」
こんなホテル用意してくれるなら、マイクロバスじゃなくて観光バス用意してくれてもいいだろ。
……世話になってもらっておいて、そんな文句は声に出せはしないけど。
「一緒に寝転がったら、それだけじゃ済まないでしょ?」
「俺じゃなくて、詩織がそれを望んでるだけなんじゃ……。俺は一休みさえしたらビーチかプール行ってもいいけど」
そう言うと、詩織は不満げな表情でわざとらしく顔を膨らませた。
「分かってるなら私に合わせてよね!」
俺は、移動の汗をシャワーで軽く流し、寝室で休むことにした。
「理香先輩、それっ!」
——バッシャーン!
いきなり目の前からバケツに入った大量の海水が掛けられた。
「あっ、理香!?」
「うわっぷ!」
その海水から守るように手で顔を覆い、避けようとした。
——ドボーン。
が。私はバランスを崩し後ろ向きに倒れ、仰向けに海面下へと沈んだ。
「綾ちゃん、そのバケツどこから持ってきたの……」
「あ、その辺に浮いてたやつです」
——ザバァ。
私はそのやりとりを聞きながら起き上がった。
そこは膝丈くらいなので、すぐに起き上がることはできる。
できるんだけど、仰向けに倒れたら当然鼻には海水が……。
「鼻が痛くて泣きそう……。咲恵が聞いてくれて謎のバケツの出所はわかったけど……、こういうのって手でパチャパチャ掛け合うくらいじゃないの?バケツって……」
「お、面白いかなって思いまして……。ごめんなさい先輩、私こういう遊び慣れてなくて」
綾ちゃんは下を向いて本気で落ち込んでしまった。
これはこれで望んでないわ。
「あ、謝らないで。ほら、これはこれで楽しかったじゃない」
「理香先輩がそういうなら……」
きっと冷静になって見直すと、何をやっているんだろう、という瞬間に違いないと思う。
けれどその瞬間だけが楽しいっていうのも、きっと大事なんだと理香になってから気づいた。
服飾なんかの買い物が楽しいのだって、そういう面が少なからずあるんじゃないかな。
「理香がそう言うなら、これもありだよね?」
そう言った咲恵の方を見ると、やたらと大きな水鉄砲が。
「どうしたの?それ?」
「事前に買って持ってきた!どう?」
やる気満々じゃないの。
「……綾ちゃんも掛けて欲しいらしいよ」
「そ~う?」
そういわれた咲恵は綾ちゃんの方を向いて水鉄砲を構える。
「え、いや、私はべつにいいかな~。ほら~髪の毛とか」
ふうん?綾ちゃんがそれ言っちゃう?
「私はもうべっとりよ?」
「理香とは違うけど、私なんか最初に自分から潜ったし!」
私も先ほど綾ちゃんが使ったバケツに手を掛け海水を入れ、綾ちゃんに掛ける構えを見せる。
「えいっ!」
咲恵が水鉄砲を撃つ。
私も!
「えい!えっ、うんん~っ……」
重たくて上がらないや……。
「おやあ?それを宮本さんに掛けるのかい?」
「ひゃっ」
気がつくと後ろには多賀先輩やパソコン部の一部と生徒会執行部の一部らしき姿が。
「どれ、手伝おう」
多賀先輩はそれを軽々と持ち上げ周りに思い切り撒いた。
多賀先輩、上半身の筋肉すごい締まってる……。か、格好いい……。
綾ちゃんが私にやったときと違って、高く、広範囲に上がったそれは周りの全員に降り注ぎ、掛かった者はそれぞれに様々なリアクションを見せる。
「きゃあっ!?」
……私にも。
「ふっ、自分で撒いた水に掛かってしまったよ」
先輩自身にも。
「それにしても三人とも可愛い水着だね、似合っているよ。藤島さんは本人の美しさが活かせているし、逆に宮本さんはいつもと違う感じだけれど新しい魅力が出ている感じだ。川田さんはあれだね、もう完璧だね」
「100点」
「100点」
「120点」
咲恵が採点したので、綾ちゃん、私と続いた。いつぞやのノリ。
「ははは。うまく女性陣を褒められたようでよかったよ」
採点を受けた多賀先輩はそれが示すことを理解したのか満足げだった。
「あ、あの!」
そんなとき、知らない声が掛かった。
「ん?」
「俺、執行部一年の京田だって言います!あの、友達になって欲しくて……」
これはもしかしてアプローチ的な……。
「おいおい京田くん。いきなりそんなプライベートな事は無しにしたまえ。川田さんも困っているだろう」
困っている……。うん、まあ、そうかな?
正直半々なんだよね。魅力有るって言われてるみたいで嬉しい気持ちと、いきなりなんなの?っていう気持ちと、面倒な気持ちと。
……半々じゃなかったね。
「多賀先輩、ありがとうございます」
「なあに、君のためならこれくらい当然さ」
……君のためなら?
「先輩……、私のことまだ?」
「おっと、君もそんな話は無しだよ?今は純粋に海を楽しもうじゃ無いか。なあ?」
先輩がそう言うと、周りの執行部も、まさかのパソコン部も呼応していた。
まあ、私もその方が良いかな。
さっきまでも、そしてここからも。
何も考えずにただはしゃいでいるだけだと、楽しい気分になるし、辛い気持ちも気になることも忘れていられる。
そう、今は理久のことは忘れよう。




