第28話 エンジョイ・リゾート(1)
バスが高速を降りてさらに下道を走っていると海が見えてきた。
海と空、二色のようでそうではない複雑な色彩の広がる景色が、海の楽しみな気持ちと、目の前の理久を見て抱く私の気持ちを表しているように見えてしまう。
「空が海で、海が理久かな……」
あの、水平線近くのもう何色か分からない濃い色、あれはきっと今の私と理久の間柄を示す色。
「理香何言ってるの?海は海でしょ?陸じゃ無いよ」
知らずにだとは思うけれど、咲恵のその言葉によって気持ちが楽になる。
これじゃいけない、すぐに悪い方向に気持ちが動いてしまっているわ。
「ありがとう咲恵」
「えっ?私なにもしてないけど」
「いいの」
ちなみに、綾ちゃんは可愛い顔でよだれを垂らして爆睡中。
拭いてあげよ……。私はティッシュでよだれを拭った。
気がつくとバスは道から何らかの施設に入っていった。また休憩かな?いや違うな、なんか凄く敷地面積が大きそう……。
「あ、もしかして着いたんじゃない?」
バス車内も全体的にガヤガヤとしてきた。
「ん……、もしかして着きましたあ?」
綾ちゃんもお目覚めだ。
「おはよう綾ちゃん、よだれ垂れてたわよ」
「えっ、嘘!?」
綾ちゃんは慌てて確認するも、もちろん私が拭いたので今は無い。
「えー?垂れてないじゃないですか」
「それなら、さっき理香が拭ってくれてたよ?」
あ、言っちゃうんだ。
「そんな!私の馬鹿!なんでそんな時に限って起きてないの?」
「起きてたら私がわざわざ拭わずに言うよ」
「……それもそうですね。じゃあ寝こけていてよかったです」
良くはないでしょう。
そう言った綾ちゃんは窓の外をキョロキョロみながら何かに気がついたらしい。
「あれ……、もしかしてここ。リゾートホテルとかじゃ無いです?」
え、まさかあ。リゾートホテルって高いいくら多賀先輩とはいえこれだけの人数まさかそんな……。
「『山川リゾート』……」
なんて考えていたら途中で施設名を読み上げた綾ちゃんによって、そのまさかだったと理解させられる。
そんなところ連れてきてもらっていいんだろうか……。
——プツッ。
いきなり、マイクに通電する音がした。
「あ~。寝てる者もみんなそろそろ起きてくれ。少し説明をしたいと思う」
それに続き、スピーカーから多賀先輩の声が流れる。
「ここは『山川リゾート』。山川なんて言いながら海にあるが……」
そこは別にいいでしょ。
「普通に海に行ったら人だらけだろうからプライベートビーチのある施設にした。思う存分楽しんでくれ」
先輩がそう言うと、生徒会執行部の面々と思われる歓声が上がる。
一方パソコン部は静かね。……むしろ海なんかによくきたと思う。私が理久の頃なら絶対来てない。
隣では咲恵も歓声をあげている。まさに陽キャと陰キャの差がここに、という感じ。
「今から薄い冊子を配る。この施設の説明や部屋割りを書いてある。まあしおりみたいなものだ。薄い本だが高くはないので安心して欲しい」
今度はパソコン部の方から大げさなリアクションが聞こえた。
多賀先輩、そのネタが通じるのはパソコン部と私だけですよ……。
あ、横で綾ちゃんが口に手を当てて震えながら笑いこらえてるや。
最後尾なのでしばらく待ったが、しおりはやってきた。
とりあえず……、部屋割りかな。
まずはパソコン部にコテージ1室。え、コテージなんだ。すご。
生徒会執行部男子に2室、女子に2室。……多いね。人も多そう。
「ねぇねぇ理香、これ見てよ!今日BBQパーティーだって!楽しみ~!」
咲恵がそれを記したページを開いてこちらに見せてくる。
ということは大勢でご飯かあ。そこまでクラスでも沢山のクラスメイトと接している訳じゃないので、そういうの苦手かもしれない。
「みんな参加なのかな?」
「……え?別にそうじゃないみたいだけど、せっかくだし行こうよ!」
咲恵は得意そうだよね。
「そうですよ、行きましょうよ理香先輩!」
綾ちゃんもそっちなんだ?
「そうだね!」
合わせておこう。
え~と、部屋の続きは……。
多賀(親)、コテージ1室。松川先生、コテージ1室。
親……?見慣れない大人は多賀先輩の親だったの?
変な印象与えないようにちゃんとしておこう……。え、いや別に将来とかそういうわけじゃないんだけど……。
川田さんと愉快な仲間たち、コテージ1室。
……何よこの表記。注釈で川田理香、藤島咲恵、宮本綾って書いてある。だったら最初からそれでいいじゃないの。
佐々木詩織、川田理久、コテージ1室。
は?
「あ、理香気づいた?その部屋配置。その二人だけなんか遠いよね」
ほんとだ、部屋番号まで飛んでる。
まるで、この二人だけは別で旅行にでも来ているかのような扱いね……。
なぜなの?わざわざこんなこと。理久も別に教えてくれたって良いじゃない。
別に最悪佐々木さんと付き合うとか言い出しても、否定はしないのに、どうして理久は私をこんなに拒むのよ。
「理香先輩落ち着いてください……、また爆発しそうですよ」
はっ。
「あ、ありがとう綾ちゃん……。私ダメね……」
理久のこととなると自分を見失いそうになる。
「そんなに思ってもらえる川田先輩に、私まで爆発しそうです」
「私も。ずるいよね、理久くんだけ」
「……どういうこと?」
なんで私が理久のことを考えると二人が?
「理香は相変わらずか……」
「ですね」
……?
「ま、今回の旅行ではハッキリさせてやるわ。綾ちゃんあとでいい?」
「え?いいですけど……」
「何、私は?」
「だめ」
ええ、私をのけ者にして二人だけで一体何の話を……。




