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第27話 きもち、トンネルへ

「ごめんなさ~い」

「ああ。佐々木さん、謝罪はいいから早く乗ってくれ。この場所を占有できる時間には限りが有るんだ」

 私の、沸き起こる怒りと心配の混じった感情をよそに、多賀先輩は冷静に対応をしている。

 佐々木さんと理久が、私の横を通り抜けてバスに乗り込んでいく。理久のその一瞥すらしない態度は、わざとなの?

 一方、佐々木さんはバスの中へと消える際に私の方を向いて、一瞬口角が上がった。

 なんなの、あれは。

「ほら、川田さんと藤島さんも早く乗って。君らは一番後ろ、宮本さんもそこで待ってるから」

 私はバスに乗り最後尾の座席へと向かいながら、見知った顔を確認する。

 清水とパソコン部の他の面々。

「はぁい、姫ちゃん」

 ええ。松川先生までいるの?

「ちょっと、学校として動いてるわけじゃ無いのになんで先生までいるんですか!」

「ええ~?私だってパソコン部なんですけど~」

「顧問教師、ですけどね。いいんですか、生徒のプライベートに教師が足突っ込んでも」

 まあ、更に奥を見ると松川先生の他にも大人らしき人が見えるけど……。

「私もプライベートで参加しているだけなので、なんの問題もありません!」

 ……本当かなあ。

 その他は知らない、もしくは見たことあるかな?程度の顔ばかりだった。

 恐らく生徒会執行部の面々なのだろうと思う。

 そして理久と佐々木さん。

「理久、おはよう」

「………………おはよ」

 顔も見ずに挨拶返すなんて、なんて失礼な。

 ……まあ言っても改善されないだろうから言わないけれど。

 そして最後尾の窓側に綾ちゃんがいた。

「綾ちゃんおはよう」

「あっ!理香先輩!おはようございます!藤島先輩も」

 わあ、対極的にすごい満面の笑みで挨拶が返ってきた。なんだか嬉しいね。

「私はついでか!」

「ご、ごめんなさいそんなつもりでは」

「うそうそ、冗談だよ~おおっと」

 そんなやりとりをしているとバスが動き出した。

「お~い、そこの二人早く座ってくれないかー」

 車内前方から多賀先輩の声が掛かった。すみません。


 ……。

 席に座ってしばらくは、綾ちゃんと咲恵に挟まれて話し込んでいたのだけれどかなり気になることが出てきた。

「理香。抑えて、抑えて……」

「理香先輩、どうどう……」

 二人が私の肩を押さえるように撫でてくる。

「綾ちゃん、私は馬か何かなの?」

「だって、先輩暴れそうなくらい怒ってませんか」

 そう……、かな。

「いやまあ、あれは仕方ないと思うけどね」

 そういって咲恵は少し首を伸ばすように、やや前の席を見る。

 そこでは。

 理久と佐々木さんがもたれ合うようにして座っている。

 それだけではない。

「理久、いつ着くのかな?」

「どうだろう、場所的には高速乗ったら5~6時間くらいだと思うよ。だから寝ちゃって良いよ、詩織疲れてるだろ?」

 名前、それも呼び捨てで言い合っている。

 それどころか足に腕、肩、頭。あらゆる所にボディタッチ、……お互いに。

「あの馬鹿っ、何してんのよ……!」

「理香先輩って馬鹿とか言うんだ……」

「綾ちゃん、今はそこじゃないでしょ……。まあ、あの理久くん……。というか理香は明らかに変だけど……」

 咲恵は声のトーンを落として理香と言い直した。それは私のことを指す言葉では無い。

 その時。


 ——チュッ。


 分かる、これはキスの音だ。

 綾ちゃんが私の頬に、したときと同じ音がした。

「理久ぅぅぅぅ——!!あなた、私の連絡も絶って何してんのよぉ!」

 私は大声で激高した。

 この場には、他に大勢の人が居るということも忘れて。

「ははっ……」

 理久が乾いた笑い声を出した。

「そりゃそうさ姉貴。姉貴が俺の信頼を裏切ったんだろう?俺は前のように頼れる相手だと思っていたのにさ」

 理久が通路側の席から、真ん中に体を乗り出してこちらを見てきた。

「私は頼れるお姉ちゃんでしょ……!?しかも姉貴って何よ!お姉ちゃんでしょ!?」

「違うね。優しいけど頼れないお姉ちゃんだよ。呼び方は姉貴だってなんだって良いだろ?好きにさせろよ」

 私たちのやりとりを聞いて周りの顔がこちらを見ている。

 咲恵と綾ちゃんが私を座らせよう、落ち着かせようと力を入れているが、今の私はそれに逆らえていた。

 怒りで普段でない力が出ているのかもしれない。

「だからって、何してんのよ!こんなところでイチャイチャしたり、キ、キスなんてしたり!」

「ふふっ……」

 佐々木さんが笑っている。

「ほんと、笑っちゃうよね詩織。姉貴はキス程度で何をそんなに躍起になってるんだか」

 キス程度……。

「やば……」

 咲恵が顔を赤くして口に手当て驚いている。

「うらや……、いえけしからんですね」

 綾ちゃんは何言ってるの。

「……ま、そういうことだからもう、俺には姉貴の心配なんて要らないんだよね。なのにうだうだ心配したり連絡してきたりさあ。だからブロックしちゃった」

「理久……」

 目の前の理久は、この前ネットカフェで見た理久とはまるで別人に見える。

 言葉遣いも確かに違う。でもそれだけでは無くて、何か決定的に違うように思える。

 それが何かはわからない。

 それを考えていると、なぜか私の顔には涙が流れていた。

「姉貴が変な心配したりして、過剰に連絡取ったりしないっていうなら、ブロックは解除してやってもいいけど?」

 心配……。するに決まってるじゃない。

 だって姉弟なんだから。

 それになんなの、その佐々木さんとのやりとりは。どういう関係なの?何をしたの?

「無理よ……」

「じゃあブロックしたままだね。俺を放っておいてくれるようになったらまた言ってよ」

 そういうと、理久は乗り出した体を戻し、前を向き直した。

 周りの野次馬も慌てて元に戻った。

「理香、大丈夫……?」

「先輩大丈夫ですか?」

 両隣から、私を気遣う声が掛かるけれど、大丈夫なわけないじゃない。

 なんだか自分の大切なモノがどこかに行った気分。

 そんなとき、スマホにメッセージ着信の通知がきた。

 理久!?

 ブロックしたままだと明言されたのにそんな期待をしてスマホを見る。

 やはり理久ではなかった。しかし、多賀先輩だった。


『川田くんのこと、心配だとは思うけど、今は落ち着いて。明日の夜、私が知る範囲で説明してあげよう。君さえよかったらそこの二人にも。すまないが、今日は予定が詰まっているので、遅れる……。それで一度心を静めてもらえないだろうか』


 ……何故かは分からないけれど、多賀先輩は知ってるんだ。

 私も、知らないような何かを……。

 今度は怒りとは別の涙が流れてきた。

 楽しみだった海旅行。

 今朝咲恵と話していた頃までの浮かれた気分が、一気に地に落ちたように感じた——。

二部三章、おわりです。

四章は海編、かな?

二部は五章立てになりそう。

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