第26話 近づく、転換の時
「さあ!今日はいよいよ海!理香は多賀先輩にアピールするんでしょ?」
「うん、まあ……」
まずは学校前に来て欲しいと言われたので、電車で咲恵に出会った。
二人とも荷物はキャリーケースだ。
中学の修学旅行の時、キャリーケースの女子がいて『なぜあんなに鞄がでかいのか』と思っていたけど。うん、大きくなっても仕方ないよね。
しかも今回は連泊だ。着替えは最低限じゃすまないし、スキンケアやら、もしものためのあれやこれや。
さらには家に2つあったからドライヤーも入れてきた。備え付けのが弱かったら嫌だし。
「『まあ……』って、どうしたの?以前私にもそう教えてくれてたじゃない」
最初はそうだったし、理久だけじゃなく咲恵にもそれを言った。
けど。
「最近……、気がつくと綾ちゃんのことを考えちゃって。私、また間違わないか不安で」
「私はそこに入れてもらえないわけ?」
「あっ……、ごめん……」
そうだよね、咲恵も。でも咲恵が見てるのは理香じゃなくて元の理久じゃなかったっけ……。
「謝らないでよ……。理香、悩んでるならとことん悩んだ方がいいんじゃない?とりあえず海はそのこと忘れて楽しも!」
「そうだね」
満面の笑みでこちらを見て、励ましてくれる咲恵に対し、私も笑顔を返したけれど、しっかり元気は出ていたかというと微妙なところ。
「ところで、なんで学校なんだろうね?」
確かに。
「そう言われると確かに変よね。現地のどこかの駅とか、乗換駅とかにすればいいのに」
話しているうちに、降りる駅に着いて扉が開いた。
「ま、行けば分かるか~!」
私はそれとは別に、未だに全く話していない理久のことも気になっていた。
「こ、こう来るとは……」
校門が見えてくるタイミングで何故学校集合なのか、すぐに分かってしまった。
「いや~、これは予想できないね!」
咲恵も驚いたようだ。まさかマイクロバスが用意されるとは。
バスの乗り口では多賀先輩が待っていた。
「おはようございます、多賀先輩」
「ああ、おはよう川田さん、可愛い服装だね。そういえば、結局弟さんも参加みたいだね?」
————え?
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
もちろん言葉の意味は分かるけど、『なぜ理久が?』と。
その言葉に思考を持って行かれ、他に何か言われた気がしたけれど、忘れてしまった。
「あれ?聞いてなかったのかい?佐々木さんを誘ったら弟さんもとなったんだけど」
——は?
佐々木さんと一緒?あんな理性のネジが外れた色目使いの人と、理久は一緒にいたの?
「ここ最近ずっと一緒に居たみたいだよ?」
それもずっと!?
「私が言うのもなんだけれど……、もう少し学生としての節度というものを守るべきだと、私は思うけれどね」
そう言いながら少し嫌そうな表情をしていた。多賀先輩も、話には聞いているが理解しがたい……。といった感じなのだろうか。
「あれ……?それだと副会長も節度守れてないみたいに聞こえますけど?」
私の後ろから咲恵が問いかけた。確かに、それもそうだね。
「ああ……。自分で言うといやらしいけど、お金の使い方かな。『この』移動費も今回の宿泊費も、全部私が好んで出しているが、まあ学生のやることではないだろう?必要なところで、親に名前は貸してもらっているが……」
「そうですよ!そのお金ってどうされたんです?」
「投資さ。株とか、外資とか……。ほらなんかそういうのに手を出していて、お金とかいっぱい持ってると出来るキャラな感じがするだろう?」
そうだった、忘れていたけどこの人そのために副会長やってる人だったわ……。
「え……、キャラ?」
咲恵は急に何を言っているのか理解できない、といった様子を見せている。気持ちは分かるよ。
「でも、株って怖いんじゃ無いんですか、失敗したら借金まみれになるんですよね?」
「そういう印象もあるよね。まあ私は信用買いをしないから大丈夫。失敗したって貯金のない普通の学生に戻るだけさ」
言ってることはよく分からないけれど、大丈夫らしい。でも……。
「仮に貯金が無かったとしても、多賀先輩は全然普通じゃ無いので安心してください……」
私は自分でも何が安心なのか分からないがそう返した。先輩は『そうかい、それは安心だ』と言っていたので、キャラ作りがやはり大事らしい。
「それで、その佐々木先輩と理久くんは?」
咲恵が、バスの中を探すように視線巡らせながらそう聞いた。バスには割と乗っているが、少なくとも見つけられないようだ。
……いや、多賀先輩どれだけ人誘ってるのよ。20人くらいいるんじゃないの?学校前でこれだけ人が集まって全員私服というのもなんだか不思議な気分だ。
「確かに、そろそろ集合の時間なんだが……」
先輩が左腕につけた腕時計を確認しながらそう呟いた。
なんかスマホで時計見ないだけで、ちょっと格好良く見える。
私も文字盤内側にするように腕時計つけたりしたら、素敵な女性に見えたりするかな?
「ごめんなさ~い」
そんなどうでもいいことを考えていると、遠くから佐々木さんの声が聞こえてきて、私はお腹のあたりから熱い血が上がってくるような感覚を覚えた——。




