第25話 頼り頼られ、依存して
「……」
もにゅもにゅ……、もそもそ……。
太くなって食感の悪い素麺を、いびつなネギと味の付いていない玉子の破片焼きで食べる。
しかも焼きすぎなのか玉子の食感は悪い。
「——まあ。いいよ、理香」
え?
「いいって、味とかこれでいいの?」
「それはいいわけないでしょ、味の無い玉子にむしろどうやったのか聞きたくなるほどまずい素麺。ぜひ、改善してほしいわ」
「そこまで言わなくてもいいじゃない。頑張ったのにぃ……」
自分で言うのと言われるのでは心に受けるダメージが違う。
「それよ、その頑張りを評価した。なので、お金はいいよ、出してあげる」
ああ、そういう。って、やったあ!
何か買おうかなあ、ナイトウェアとかルームウェア的なのは絶対マストアイテムとして~。美容室、……は、いきなり行って空いてると良いけど難しいかもなあ。
「海へ旅行に行くためのお金なんだから事前の準備だけじゃなく、当日分も残しておきなさいよ?」
「わかってるって」
「あと、漫画とかに使ってしまわないようにね」
「わかってるって」
……わかってるって?
私が?漫画に?
お金を使わない?
「……理香、とことん変わったのね」
言われてみるとたしかに。
私はいつから漫画やラノベにあまり執着しなくなったのだろう。
「そう……、みたい」
自分があまりに変わったことはすぐに忘れ、理久は今日は帰ってくるのだろうかと心配しつつ、私は片付けをお母さんに任せて買い物に出かけた。
咲恵を誘ったけど『海までに自分で決めた勉強終わらせたいから!』と言っていた。
やっぱり真面目。
「うっふふ~♪」
午後22時。
私は、新しく買ったルームウェアについつい袖を通して、くるくると回っていた。
キャミ、ハーフパンツ、パーカーの三点セット。ふわふわしつつも、あまり可愛すぎない感じのものにした。
……といっても、パーカーは暑いと思うし、実際にはTシャツかな。
でもエアコン効きすぎると欲しくなったりするかもしれないしなあ。
なんて、とりあえずせっかくなので持って行きたいだけだったりして。
偶然にも空いていた美容室で整えてもらった髪にも大満足!髪切ると気持ち上がるね!
そんな浮かれまくりの私とは対極に、理久は結局今日も帰ってこなかった。
「どうしたんだろう……」
連日のことだけれど、心配して電話してみるも……。
『お掛けになった電話はお繋ぎでき……』
この通り、着信拒否だ。メッセージアプリで通話を掛けようにもブロックされている。
一体理久は、どこで何をしているのだろうか……。
「ねえ、理久」
「何?詩織」
俺を軽く抱きかかえた佐々木先輩……。いや、詩織に呼びかけられて、返事をする。
「多賀君が私に海へ行かないかって誘ってるんだけど、どうしようか」
「多賀先輩って、姉貴とも海に行くって言ってなかったか?」
それで俺にもどうかって、姉貴が言ってたような。
わざわざあらゆる人を避けてるのにそんなの行くわけないだろう。
「そう、それにどうかって。コテージがいくつかあるから、なんなら私たち二人のために1棟用意しておいてくれるって」
ふうん。
「それなら悪くないかな。ここだって、ただってわけじゃないし」
ここはネットカフェのフルフラットなペア用個室。安いとはいえお金は掛かる。
「それは、私の家でも構わないって言ってるのに」
「詩織の家に行っちゃうと、もっと側に居たくなっちゃうからだめだって」
ネットカフェというおおやけの場だからこそ自制も効くというもの、そうでないと……。
「もう、それ込みで良いって言ってるのに。なんならホテルだって良いのよ」
「いいわけあるか、それこそ自制が効かない。……ああ、じゃあ海も同じじゃないか」
「でも、1度きりの海は別に良いんじゃない?」
確かに。
もっと側に居たいのだって、俺の確かな願望なのだから。
それが叶う機会があってもいい。
「詩織、行くって返しておいてくれる?」
「分かったわ、理久」
返事とついでに、詩織は俺の唇に軽くキス。もう、ここ数日はずっとこんな感じだ。
キスは挨拶とは誰が言っただろうか。いや誰も言って無くて、文化の違いだっただろうか。
そう言えるほど、気軽な……、日常的なものとなっていた。
隣では詩織が多賀先輩に連絡を取っている。
俺もこのブロックを解除すれば、姉貴からのまだ見ていないメッセージが大量にあることだろう。
着信拒否を解除すれば電話も掛かってくるかも知れない。
でも、出ないし、見ない。
そうすれば俺はまた『お姉ちゃん』や『お兄ちゃん』に頼って、甘えてしまうだろう。
もう、頼ることは出来ない、そんな相手ではない。
これは俺自身への戒めのための拒否だ。
今連絡が取れるのは親と詩織だけ。
他は全部断った。
依存する先を減らせば、きっと孤立しても強くいられるだろう。
無理に協調なんてする必要は無いんだ……。
隣の詩織を見ると、連絡を終えたのかちょうど俺の方を見た。
そして少し困った表情をすると、また、俺を抱きかかえた。
そう、そうやって詩織も俺に依存するといいよ。
俺は姉貴みたいに裏切ったりしないからさ。




