第23話 ポキリと、急転換
俺は今、結局佐々木先輩の家にいる。
不幸中の幸いか、あの時他には誰も居なかった。
「何する~?時間もあるし映画でも見る?勉強教えてあげようか……?それとも……もっとイイコト教えてあげちゃう?」
もしかして、変わってたりしないかなって思ったけどだめだ。
先輩は何も変わってない。
「いや……、待って。佐々木先輩、部活は?」
「……?」
先輩が不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「あれ。先輩?」
「何言ってるの。引退したに決まってるでしょう。県大会2回戦敗退よ」
3年生だったー!
先輩なんだから当たり前か……。
「ねぇ、理久くん?」
「……なんですか。エッチなお誘いなら断りますよ?」
油断ならないからなあ。
「そうじゃなくて、ソフト部の後輩から聞いてるんだけど……。最近なんだか孤立してるって?何か見当はついてるの?」
そのことか……。まあ一応三田村のやつが居るから、なんとかならないかと思ってるけど。甘い考えだろうか。
「そう、ですね……。さっき図書室で聞きましたよね?俺が理香……、女だったって。たぶんその所為でうまく男子として振る舞えて居ないせいだと思ってます」
「ふふっ……」
おい。
「ちょっと、人が困ってるって言うのに何笑ってるんですか」
「ごめんなさい。あなたがあまりに見当違いな事を理由に挙げてきたから」
「えっ!?知ってるんですか?」
それなら知りたい。別に好きで1人辛い思いしているわけじゃ無い。
「厳しいこと言うけど、いい?」
——ごくり。
先輩が、俺の持つ印象とは違う真剣な目で俺を見てきた。思わずつばを飲み込む。
「理久くん、協調性がなさ過ぎるのよ」
……聞いた気がする。
「聞いた気がする、って思ったわね?そりゃそうよ。そう言った本人から聞いたんだから」
「……誰からですか」
「陸上部の部長」
ああ、あの……。
「途中で態度ががらりと変わった腹の立つ元部長がなにか?」
「態度が変わったのは、元部長だけ?」
……。何だって?
「理久くんさ……」
と言いながら俺を後ろから抱きかかえに来る。
「いちいちくっ付いて来るのやめてくれません……?」
「女子同士のじゃれ合いだと思ったら、別にこれくらい普通でしょ?」
それはそうなんだけど。やっぱり男なのか女子を異性として意識してしまうようで。
「分からないと思いますけど。別に、俺の気持ちや性格は理香のときと全く同じってわけじゃ無いんですよ」
「そうなんだ?」
そう言っても離れようとしない先輩。もういいや。
「もうそのままでもいいから、話し続けてくださいよ」
「……元部長が最初あなたとうまくいってたのは、あなたがまだ入部したてだからある程度は大目に見てたから。でもあなたは恐らく、自分の好きなようにやっていたわよね?」
俺は無言で頷く。
「でも、理久くんも気づいてたでしょう?あの部は個人競技だけど活動自体は協力を大切にしているみたいなの。……かつて所属していた女子陸上部と違ってね、協調性が問われるんじゃ無いかしら」
協調性か、前にもそんなことを言われた気がする。
「……周りの人と調子合わせることがそんなに大事なんですか?俺にはわかりません」
「面白いこというね。理久くんずっと1人で生きていくの?そりゃ私だって誰とでも人付き合いするわけじゃないけど、多少周りに合わせたり……、悪く言い方したら妥協はするよ?」
妥協か。
そうするくらいなら諦めちゃうかな。妥協って言い換えたら中途半端にするってことじゃないか。
「なおさら周りに合わせるなんて、俺には出来ませんね。中途半端なのは嫌いなので」
「だったらもう、陸上やめたらいいじゃない。実力があるのに大会に出られてない時点で中途半端よ?」
しかし、そうなると俺には何も残らないんじゃ無いか?
「でも、私なら……。理久くんの全力を受け止めてあげられるわ。冗談じゃ無く、私の恋人にならない?」
さっきのは冗談だったんですね。
「でも、今更陸上をやめるなんて……」
「今更って。そんな気持ちで続けるのはそれこそ中途半端なんじゃないの?」
それはそうだけど!
「そうね……。完全に切り替えろっていうのもなんだし……、お試しっていうことでどう?知らずに否定するのも良くないんじゃない?」
「お試し?」
そもそも恋人になったからって何を。
「女子だったときも含めて、恋人がいたことないんでしょ?私がその魅力を教えてあげるわ」
「魅力?」
疑問を口にするのと、先輩の腕に力が入って俺ごと移動しようとしているのは同時だった。
「ちょっ、ちょっと!?先輩なんですか」
しかも先輩って結構力強いな!?
「あはっ。理久くんぐらいがたい良くても私の力強さに結構驚いてるのね。まぁ~、これでも一応ソフト部の元部長で4番打ってましたから?」
「えっ、俺をどこ連れてくつもりですか」
抵抗しつつも、もう——。何をされるか分かってしまった。
「先輩?ちょっと!?本気ですか……!?」
「この前のデートのときから言ってたじゃない、なんでもしてあげるって。そう……なんでもね?」
まあ、もういいか……。
どうせあのまま陸上を続けたって、うまくいかないだろう。
お姉ちゃんももう当てにできないし、友人だった咲恵もまだ友人なのかわからない。
俺はふっと力を抜いて、先輩が進む方へと自ら進んだ。
目が覚めると部屋は真っ暗だった。
汗ばむ全身に布団の布地が触れて気持ち悪い。
「はぁ……」
隣を見ると佐々木先輩がなんとも幸せそうに寝ている。
俺はベッドから出て身なりを整える。
——いいですよ。陸上はやめます。
先輩が俺を本気だって分かったから、俺も本気で先輩のこと恋人として見ますよ。
お姉ちゃんからの凄い量のメッセージ通知が来ていたが、それは見ないことにした。
そしてベッドに戻り、再び眠りについた。




