第21話 つらいの!陸上部(男)
見える範囲に居るのが1人だからって、本当にそうとは限らない。
一応、その1人に聞いてみることにした。
「はぁはぁ……。え?女子陸上部が私1人かって……?そうね、今日出ているのは……私だけよ。はぁ……、それがどうかした?」
上がった息を整えながらその子は応えてくれた。たぶん同学年だと思うんだけど、知らない。
「え~だって、部活ってなんかこう……。みんな出ろみたいな感じじゃないの?」
「あ~、うちの部って割と自由っていうか……。前の部長も朝練には厳しかったけど、土日とかは緩かったし……。特にこの県大会、総体と終わって先輩が引退するとちょっと緩くなるんだ~」
じゃあ咲恵の自由な参加具合もそもそも普通だったのね。
「でも、この時期って先輩が抜けて忙しくなるんじゃないの?」
「普通だと先輩が抜けると一年にも厳しくなったりする部が多いけど、うちはそういう伝統……。ほら、急に厳しくなってせっかくの一年が辞めたら意味ないじゃない」
ゆるゆるすぎて全然人が来ないのもどうなの?
「……っていうか、あれ?川田さんだよね。そもそも陸上部に居なかったっけ?忘れちゃった?」
そうだった!そういう認識だった!
……忘れるどころか私の記憶には存在していませんけども。
「どう?せっかくだし復帰する?」
「何がどうせっかくなのか、全然分からないのだけれど、体力なさ過ぎて向いてないのよ……。ごめんね?」
「アハハっ。いいって、いいって。本気で謝られても冗談だし!」
何だろう。この女子も咲恵と似た感じがする。
私基準で言えば、ギャルっぽい。
「じゃあ私はいくね、ありがとう」
礼を述べてその場を後にする。
……ギャルっぽいと思っていたけれど、これが女子高生というモノなのかも知れない。
そりゃギャルキャラも必要だけれど、もっとキャピキャピしたり、静かだったりする子が居ても……。
静かな感じの子は綾ちゃんが居たわ。……いや、静かかなあ?
少し移動して男子陸上部が居るところへと来た。陸上に限らずいくつかの部活の生徒が見られる。
同じ学校の生徒とはいえ、私とは体型も違ってちょっと怖い。
理久はどこに……。
私は理久の姿を探す。
う~ん?
しかし、その姿が見当たらない。
目に見える人影、全てに目をやっても見当たらないならこれ以上自分で探しても仕方が無い。
恐る恐る、近くでクラウチングスタートの練習をしている生徒に後ろから近づき、聞くことにした。
「あの~、ごめんなさい」
「あぁ?」
威圧されているかのような低い声でこちらを振り向いた。
こ、怖い……。私も理久の時こんな声だった?でも今の理久……、は確かに低いか……。
「えっ?何、めっちゃ可愛い。中学生?でもうちの制服着てるか」
え、いや。中学生は酷いんじゃない?
「俺そろそろ部活終わるんだけど、ファミレスかカラオケでもいかない?」
「え、あの、ごめんなさい……」
まさか学校に来てナンパされるとは思わなかったんだけど……。
「まぁ、そんなこと言わずにさあ」
しかもしつこい……!
「おい、人のお姉ちゃんに手出さないでくれる?」
その時、理久の声がした。
男子生徒は理久の方へと振り返る。
「何だ、邪魔すんな!……川田先輩ですか。へぇ……?姉のこと『お姉ちゃん』とか呼んじゃうの意外っすね」
「うるさいな。ほら、もう終わるとか言ってなかった?早く帰ったら?」
……なんだ?互いに挑発的というか……、喧嘩腰というか……。
早く帰れと言われた生徒は、挑発的な笑みを浮かべてさらに返した。
「はっ、帰るわけないでしょう?協調性のない川田先輩と違ってね」
「——!」
そう言われた理久は目を見開き顔を赤くした。
協調性のない……?
「おや?その顔は『お姉ちゃん』には知られたくなかった、ってところですか?だったら最初から普通にしてりゃ良いじゃないですか。もう今更ですけど。俺らも今更川田先輩に歩み寄られたって戸惑いますしね」
「——おい、お前ら何ずっと喋ってんだ」
「あっ、先輩。すみません、練習戻ります」
もう一人の男子が来ると、理久に喧嘩腰だった子は練習に戻った。
この男子は……?
「川田……。大丈夫か……?あ、姉の方もいるのか」
私の存在にも気づく。一応ニッコリ笑って会釈しておこう。
「んっ、ん……!」
顔を逸らして咳払い。あ、私の笑顔に照れちゃったのかな……。理久に小声で『余計な事しないで』と言われてしまった……。
「丁度良い。なあ川田、川田さんに言って……、あー、相談してもいいか?」
どっちも川田で分かりづらいけど、きっとこの子がいう『川田』は理久のことだろう。
「…………別に良いよ」
「あっちで」
その子に言われて、私たち3人は陰になっている木の下への移動した。
移動するなり説明が始まった。
「いやさあ。川田があんまり部活の中でうまくいってないんだよ。他の奴らと」
「え~と、その前に君は誰?」
名前くらい名乗って欲しい。
「えっ、あ~。クラスメイトだからって自意識過剰だったかな……。三田村っていうんだけど……」
明らかに落ち込みながら三田村君がそう言った。
ご、ごめん……。
「まあ三田村の事は別にいいだろ」
「酷いな!……まあいいけど。俺はこいつが練習は真面目にやってるし、部長でもあるから特に気にしてないんだけどさ……」
しかも陸上部の部長だったんだ。ほんとごめん。
私の心の中の謝罪をよそに、三田村君は続ける。
「前の部長……、3年の人が理久が他の部員と着替えたり、無駄な時間を過ごしたりしないのが気に入らなくて、県大会に出さなかったんだ」
「いいよ、そこからは俺が言う。……そこからはもう、一部の2年……、三田村ともう一人なんだけど。それを除いて俺を総無視。高校生にもなって馬鹿じゃないのかと思ったけど……。大会に出られなかった事で落ち込んでたから……、堪えたね」
なぜ?
……なぜそれを理久はこの前話してくれなかったの?
最後に理久は、目線を逸らして苦虫を噛み潰したような顔をしながら、恐らく本当の声を漏らした。
「つらいよ、陸上部……」
どうして……。
私は理久の本音よりも、自分自身の困惑に、そう思っていた。




