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双子まとめてTS!人生入れ替わりの二人を待つのは、恋の大嵐!【第一部完】  作者: 神流みさきち
第二部『揺れない恋頃、揺れるも恋心』第一章『流れる雨と認識』
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第20話 つらいの?陸上部(女)

 私は、冷房の効いているカーテンを閉じた自分の部屋で、ベッドに横たわり考え込んでいた。

 あれから、一週間ほどたつけれど、理久はまだ結局陸上部を続けている。

 練習に出る足取りは暑さからか、それとも辛さなのか、とても重そうに見えるけど……。

 理久が私をお兄ちゃんと呼んだネットカフェにて、私は理久の心が見えたと思っている。

 甘えたそうだった。辛そうだった。『大丈夫だって』なんて本人は言っていたけれど、私にはそうは思えなかった。

 私に抱きつく手は震えているし、笑顔が辛いと訴えているようだった。

 それに——。

 思い出されるのは、最後のハグ。

 理久は、私の頬にキスをしようとした。

 あの時すでに理久は無理をしているって分かっていたのに、そんな中で私に対して『大丈夫だよ』『ありがとう』。そんな気持ちを伝えようとしてくれていたのだと思う。

 ——でも、私は拒んだ。

 無意識だった。

 勝手に声が出て、首も手も勝手に動いた。

 気がつけばその手は大事にするように頬を撫でていた。

 そこは……、その日綾ちゃんがキスしてきたところだった。

 「綾ちゃん……」

 呟いて、そっと手を頬に当ててみる。

 そこには何もないし、触れているのは冷房で冷えた私の手。

 だというのに、その場所に集中するだけであの時の外の暑さ、綾ちゃんの顔や、顔に帯びた熱が思い出される。

 恥ずかしかったのかな……。

 それとも綾ちゃんを意識するように……、言い換えると好きになってしまったのかな?

「でも……」

 暴露し、それでも多賀先輩に好きになってもらおうと決めたはずなのに……。私ってやっぱり、いい加減なのかな……?

 そうよ、綾ちゃんは私が女の子だから付き合っていたのだから、そういうキスじゃなくて、友達をからかうキスに違いないわ。

 私は机の上に広げた勉強道具へと目を向けた。

 筆記用具が軽くほこりをかぶっている。

 最近はこんな事ばかり考えてしまって、勉強も身に入らなくなり、手をつけていない。

 本にも手をつけていない。

 床に落ちているスマホを手に取った。1人で考えてるくらいなら誰かと話すなり、いっそ綾ちゃんに会うなりすればいい。

 ……いいんだけど。

 そのスマホは手からするりと抜けて再びポトリと床へ戻った。

「はぁ……。咲恵からも連絡がないと、本当に誰からも連絡が無いわね」

 理久の時は清水と漫画やアニメなどについてくだらない話もしていたけど、結局その時も清水だけ。

 そりゃ、兄妹揃ってコミュニケーションが狭かったんだから、理香になっても変わるわけないんだけど。

 ……でも、ちょっと広くはなってるよね。

 咲恵に理久の様子でも聞いてみようかな。


『ねぇねぇ、理久って部活でどんな様子?』


 送ると画面を閉じる前に返事が来た。


『私夏休みはサボるから分かんないな~』


 ……。行きなよ……。

 そうだ、居るなら通話しよ。これまた掛けるとすぐに出てきた。


『理香?』

「もしもし咲恵?あのさ、ちょっと理久が心配でね。1回くらい出てきて見てきてよ」

『えー、ヤダー。外暑いもーん』

 ええ、そりゃそうでしょうけど。

「咲恵、陸上部なんでしょ……?」

『そうだけど……。私はもう、全然来ない先輩って一年にも思われてるからいいの』

 う~ん。

「何もよくないでしょ、それ」

『だって、暑い中つらいし……。まあ、私のことは良いじゃない。それよりも理久?……っていうか理香?』

「ややこしいから、もう前の名前で呼ばないでよ……。それに誰が聞いてるかも分からないのに」

 あと……、自分で考えるのはともかく、理久って呼ばれるのはなんだか嫌。

 私は理香なんだから。姉なんだから……。

『そういうものなの?事実なのに……。気持ちの問題?』

「…………気持ちの問題よ」

『ふうん。まあ、分かったよ。それで理久だけど、気になるなら私と一緒に行く?』

 う~ん。

「暑いから嫌だなあ……」

『私の気持ち分かった?』

「気持ちは分かるけど、咲恵は陸上部じゃない。サボりじゃないの、それは」

 ……とはいえ。

「でも、やっぱり理久は気になるから行くわ」

『そう?じゃあどんなだったか教えて~。あ、そうだ。女子陸上部に出てる人数とかも見てきて欲しいな~』

 えっ。

「咲恵は行かないの?さっき一緒にって……」

『あははっ、何言ってるの、暑いのに理久見に行くだけに学校とか行くわけないじゃん!』

 …………左様ですか。

 通話を切り、私は学校へ向かう用意をした。

 時計を見ると11時過ぎだったので、お母さんに『今から出かけるから、外で食べたい』と伝えると、千円もくれた。

 何を食べようかな。


「いらっしゃい!」

 駅から学校に向かう途中、駅前の喧噪もない県道の途中にあった店へと入った。

 当初は駅前の商店街の飲食店に入るつもりだったのだけれど、あまりに暑いので歩く距離を少しでも短くしたかった。

 私は、今年の梅雨終わりに買った日傘を見つめた。こんなに暑いと、日傘なかったら頭もお肌も駄目になっちゃいそう……。

 コンビニでもいいやと思っていたら戸建ての飲食店があったのでそこに入った。

 そこは丼と蕎麦うどんの店だった。席に着き、渡されたメニューを眺めていると、それ以外にもメニューは豊富で、町の定食屋さんって感じがする。

「ざる蕎麦1つ、ミニ玉子丼セットください」

 暑いのでざる蕎麦にした。500円で玉子丼付き……、安い。ざる蕎麦との差、100円。

 ……蕎麦かあ。無意識だったけれど、この前のデートのことを思い出した。

 あの時の多賀先輩、格好よかったな……。

 やることなすこと、そして言うこと。全てが格好良かった。

「おまたせしました」

 出てきた蕎麦の麺は、スーパーの茹麺や立ち食いそばと同様の質で、一口啜ると蕎麦から多賀先輩の光景が浮かぶことはなくなった。


「ありがとうございました~!」

「ごちそうさまでした、美味しかったです」

 嘘じゃないよ。麺の質は安かったけど、その麺につけるつゆ美味しかった。玉子丼もふわふわトロトロにつゆの味とくたくたになったタマネギが美味しかった。

 美味しかったのだけど、最初に蕎麦で多賀先輩を思い浮かべてしまった所為で、まるで多賀先輩への思いが他の何かにかき消されていくような気持ちを感じていた。

 ……理久の様子を受けて、私まで感傷的になりすぎかな。

 それに先輩とは海に行く約束もあるんだし。

 その様なことを考えながら歩いていると、あたりが騒がしくなってきた。学校が近づいてきたみたい。

 蕎麦食べた後に汗が引くまで落ち着いたのに、もう汗だく。

 ここまで歩くだけで息も上がっている。……1人だとしんどいな。プールに行くときは外を歩いていても辛いと思わなかったのに。

 学生証を提示して校門を越えると、まずは女子陸上部らしき生徒が見えた。

 そういえば、咲恵に軽く様子見てきて欲しいって言われてたわね。

 なんとなく陸上部っぽい練習をしている生徒を数えてみる。

 1人……、2…………?

 えぇっ!?1人しか居ないじゃないの!

 咲恵だけがサボりすぎというわけではなかったようだ。

 まあ、この暑さじゃ辛いよね……。

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