第13話 早く着たい、水着
水着を買って、1週間ほどが経ち、夏休みに入った。
「水着を……、着たい……」
もちろん部屋で着たらいいって訳じゃない、水着として使用したいと言うこと。
しかし、多賀先輩は『海に行くのは8月に入ってからになると思うから、また連絡するよ』と言っていた。
……待てない!
プール……、という手もあるけど、流石に一人で行くのはさみしい。
誘うとすれば、理久、咲恵、綾ちゃん……。
でも理久は最近ずっと不機嫌だ。
打ち込んでいる部活に行ってるはずなのに、帰ってきたら不機嫌。
話しかけても帰ってくる言葉にトゲがあるか、なんなら無視されることも珍しくない。
ということで理久はだめ。
咲恵は暇があれば来るだろうけど、彼女だって一応運動部。誘ったところで来られるかなあ……。
一応メッセージを送ってみる。
『プール行きたいなー』
——ヴヴッ。
即刻返ってきた。
『良いね!いつ行く!?』
というメッセージが来た通知が目に入るなり、通話がかかってきた。
「もしもし咲恵?」
『プール!?私水着買ったから早く使いたかったんだよね~。いつ行く?今日?』
久しぶりにこのテンションで話しかけられた気がする。
「いや、私も一緒に水着買ったから分かるよ?」
『えっ……、理久くん……?あっ、理香か。ああ、そっか……』
もしかして。
「ねえ咲恵、もしかして私と直接居るときは、私のこと理久だと思ってる……?」
『……』
返事がない、肯定ととれそうだけど。
「そして何故か今は元の理香だと思ってた……?」
『……うん、ほらスマホに理香って出てたから』
えぇ……。
「まあいいや、プールよプール」
『うーん。理香が理久くんって思い出すとやっぱり抵抗あるっていうか』
なんでよ。
『理香も着替えるじゃない?もちろん私も、同じ場所で……。それに抵抗あるんだよね……』
ああ。
「もしかして私のことまだ男の延長だと思ってる?」
『もちろんだよ!だから——!……なんでもない』
自分ではもう、完全に女の子だと思ってるんだけど。
「だから抵抗がある?」
『そうじゃな——っ!……まあそれもそうなんだけど。でも、体育とかでも着替えてるか。何も思わなかったなあ……』
隠れるように着替えてましたから。
そういえば、初めて見たときはみんな隠すように着替えていて、キャピキャピ更衣室はやっぱりファンタジーなんだって思ったっけな……。
『いいよ、プール行こ。他誰誘う?クラスの子とか、あんま打ち解けてないよね?』
「そうなんだよね……、2学期の課題よそれは」
『アハハっ、勉強とかは余裕だもんね』
誘う相手かあ……。
「綾ちゃんなら誘えるけど、理久はたぶんダメだよ」
『ああ……部活で学校行ったときに見たけど、理久は今変だよ、誰とも喋らないし。一人でやって一人で帰ってる、しかも総体も出してもらってないっぽいんだよね』
えぇ?走るの速いんじゃなかったっけ……。
『他の部活仲間と全然うまくいってないみたいだね、理久に話しかけるの佐々木先輩だけだったよ。……それも無視してたけど』
「家でも変なんだよね、怒るか無視するかのどっちか。遅めの反抗期かな。分からないや」
私の『分からない』に咲恵も同意し、とりあえず理久のことは考えないことにした。
『じゃあ綾ちゃんは誘うとして~、それだけだとせっかくのプールさみしいな~。それに女の子だけだとナンパとか面倒だし』
「男子とか多賀先輩と清水くんくらいしか連絡先無いよ」
そもそも理香になってからの人付き合いしかないからね。
『誰でもいいなら、クラスメイトに適当に声掛けるけど』
それならまだ知ってる人の方がいいなあ。
「先に二人声掛けて良い?足りない分はお願い」
『は~い、明日までに連絡無かったら聞いちゃうね~。だから行くのは……三日後にしよっか』
三日後に予定がないことを確認したら、問題ないことを伝え、通話を切った。
耳が痛い。どうして長いこと通話すると耳が痛いんだろう。腕も疲れるし。
——『長いこと通話してたら腕疲れたり耳痛くなったりしないの?』
メッセージで咲恵に聞いてみると、速攻でなんだか知らないキャラクターが驚いている絵が送られてきて、つづけてメッセージも来た。
——『そんなのスピーカーにするに決まってんじゃん!スマホとかパソコンとかそういうの強そうなのに!』
……スピーカーか、なんか抵抗あるんだよね。
その後、清水と多賀先輩を誘ったら清水だけ行けるって返ってきた。先輩は7月の間は忙しいそうだ。
まあ……、受験生だもんね。
二人からの返事は割とすぐ来たので、咲恵にも結果を伝えておく。
あ~、楽しみだな~。誰に見せるとかじゃないけど、自分で選んだ可愛い水着を着てプール、という事自体が気分を高揚させる。
なんならこの前買ったのは海のときまで取っておいて、プールにはまた別の買うのもありかな~。
この前の水着はお母さんがお金出してくれたし、もう一個くらいおねだりしても買ってくれたりして……。
体を起こし、そろりそろりと階段を降りていく。
お母さんは……、いた。ちょうど仕事は休憩中だったのかな。
「お母さ~ん」
「何、そんな猫なで声出して。ろくな事じゃ無いんでしょう」
話しかけ方からして露骨すぎたかも知れない。
ダメ元でおねだりしてみるも……。
「いいわけないでしょ」
だよね……。
「それにしても……。理香、本当に理久の面影が無いわね。そんな甘えた声でおねだりなんかしちゃって。なんだか別の子みたいでちょっと複雑だわ」
「そんなに違う?」
「性格とか趣味とかそのままのところもあって、全然違うってことはないけど……」
趣味知られてるの!?嫌なんだけど……。
「前の誰よりも可愛らしい女の子ね、前の理香は格好いいって感じだったから……。でも、そんな理香なら一緒にお買い物とか楽しめそうで、楽しみよ?水着買いに行ったときもじっくり見てきたみたいだし」
「そ、そんなことないわよ……」
「お母さんがクローゼットの中を知らないとでも?私が買った服以外にもいっぱい持っちゃって、言ってくれれば一緒に買い物行くわよ?」
「恥ずかしいから嫌よ……。それに勝手に見ないで欲しいんだけど」
もう一着の水着は諦めよう。
この感じだと、一緒に行こうって言ったら買ってもらえそうな気もするけど。恥ずかしい。
私は自分の部屋へ静かに戻った。
「気が向いたら一緒に行きましょうね~」
絶対、嫌!




