第12話 つもる、苛立ち
「ずぶ濡れじゃない、大丈夫?とりあえずこれで拭きなさい」
「ありがとう」
「こんなに強い雨なんだから、途中コンビニで傘くらい買えばいいのに。拭いたらお風呂入るのよ」
もうどうでも良くなったから、そんなことも忘れてた。
しかしその結果、初夏とは言え雨で体が冷えているので、言われたとおりお風呂に入り体を温めようと思った。
それにしても、男子とはうまくやれないし、かと言って女子に混じることも出来ないし、なんだか学校では一人だな。
元々理久の友人らしい友人が清水くんしか居ないのもその原因の一端だ。
ずぶ濡れの衣類を脱ぎながら、そんなことを考える。
俺に積極的に関わってくるのは咲恵と、清水くん、それに佐々木先輩くらい。
その咲恵だってお姉ちゃんに夢中で最近はあまり絡んでこないし。
自主参加とはいえ、今日も部活来てないし。
はぁ……、考えてたら腹が立ってきた。
さっさと入ろう。俺は風呂の扉に手を掛けた。
——カチャ。
「え……?ひゃあああああ!?何入ってきてるのよ!」
えっ、お姉ちゃん?
お姉ちゃんは湯船の中に居たが、さっと両手で胸を隠し、大きく腰を曲げて体を隠した。
「あ、ごめん。居たの」
「居たのじゃないよ!早く出てよ!」
お姉ちゃんのこの反応にもなんだか腹が立ってきた。
「別に良いでしょ、どうせ俺もともと女だったんだから」
「何言ってるの!?良いわけないでしょ!ちょっとお母さーん!理久がー!」
ああもう、面倒くさいな。
「いいよ、出れば良いんだろ、もう。俺びしょ濡れなんだから早くでてくれよ」
それから、風呂から出て戸を閉め、扉越しに話しかける。
「あとさ、なんで連絡気づいてくれなかったわけ?」
「えっ、そうなの?全然知らなかった。ごめんね」
気づかないくらい買い物に集中してたってこと?
「それでお姉ちゃんも水着、何か買ってきたの?」
「あ、うん、すごく可愛いやつあってさ~。でも最初に咲恵がきわどいのはやめた方が良いってアドバイスくれたから絞りやすかったな~」
——本当に水着買ってきたんだ……、それも自分で選んで。
その後もお姉ちゃんは、咲恵と宮本さんが何度も見て欲しがってなかなか見られなかったとか、咲恵が何回も試着したとかその時の様子を話してきた。
お姉ちゃんが、どんどんお姉ちゃんになってしまっている。
最初のうちはまだ口調だけだったのが、もう内面も、人付き合いも、すっかりその辺の女子高生だ。
私のお兄ちゃんはもうどこにも居ないのだろうか。
「理久ー、まだ居るならどいてくれない?もう出るからー」
「分かったよ!」
私が廊下に出ると、お母さんに出くわした。
「あれ?まだ入ってなかったの?」
「お姉ちゃんが入ってたから」
「……お互い、見られて困る事なんか無いんじゃないの?」
俺だって、そう思うんだけど。
「お姉ちゃんはそうじゃないみたい。むしろこっちは、男の裸のが苦手なんだけど」
「ふうん?同じ境遇なのに、えらく違うのね」
本当に、なんでなんだろう。
——コンコン。
その日の夜。あまり調子の出ない勉強をしていると、誰かが部屋を訪ねてきた。
おそらくお姉ちゃんだろうけど。
「お姉ちゃん?いいよ、入って」
——ガチャ。
「じゃーん!見て見て~!今日買った水着~。どう?すごい可愛くない?」
なんとお姉ちゃんは、水着を着て部屋を訪ねてきた。
セパレートタイプだけど、フリルやパレオで露出は控えめ。青系の下地に黄色や赤色などの南国的な花の柄。
……う~ん、似合ってるな……。
「まあ、可愛いと思うよ」
「やったあ!」
その喜ぶ表情がまた明るく笑っていて。
またついイラッとしてしまう。
「だけどさ、お姉ちゃん自分が男だったこと忘れてない?俺はそんな風になれないんだけど。なんなの、女子だけで水着買いに行くとか。恥ずかしいとかないの?」
「……え?理久どうしたの?」
「良いよね、お姉ちゃんは。お姉ちゃんになってから楽しそうで」
お姉ちゃんにこんなこと言ったところで仕方ないのに。
「多賀先輩振り向かせるために、私は開き直って。それからなんだか女の子するのが楽しくて?理久だって陸上に力入れるようになったんじゃないの?」
そうだ、そのはずだった。
「うん。そう……だよね?」
「えっ?私に聞き返されても」
お姉ちゃんがみんなに暴露するまでは。
「そうだ。お姉ちゃんが、性別変わったことを言っちゃってから、俺変になったんだ……。お姉ちゃんのせいだ……!」
「な、何が私のせい?」
「お姉ちゃんはいいよね、軽い気持ちですっかりもう女の子なんだから……。俺みたいに悩んだりしてないんだろ!」
暴露があってから意識してなかったことを急に意識してしまった。そこから駄目になったんだ。
「私が軽い気持ちだったって!?そんなわけないでしょ!私がどれだけ悩まされたか、理久は知らないくせに、適当なこと言わないで!」
お姉ちゃんが悩んだなんて嘘だ!
全然そんな素振りなかったじゃない、多賀先輩や綾ちゃんにちやほやされていてさ。
「もう出ていって!お姉ちゃんなんか見たくない!」
「こっちこそ、最悪の気分よ!」
——バンッ!
お姉ちゃんは部屋を出ると勢いよく扉を閉めた。
あ~、イライラする。
もうお風呂も済んでるけど、町内でも走ってイライラを解消しよう。
さっと走りやすい服に着替えて、外に飛び出した。
……が。
外ではザーザーと今も雨が降っていた。
なんだか、色々見放された気分だ。
もしかしてもう、神様も見てないんじゃないか。
だから急に男に馴染まなくなったんじゃないか。
かと言って、女子かというとそうでないのも十分に分かる。
俺は、どうしたらいいんだ。




