第11話 気がつけば、孤独
テスト最終日、最後の教科が終わると終わるなり俺は部室へと移動した。部室で練習着に着替えてまた教室へ戻り、昼食を食べる。
お姉ちゃんの暴露以降、他の男子の前で着替えなんかできない。かといって女子の前でも抵抗あるけど。俺は今どちらなんだろう。
……まあ、そんなことはどうでも良いかな、とも思っている。
陸上の練習と大会に出れて、必要な範囲で勉強ができたらそれでいい。勉強だって違和感がないように一気に頑張ったけど、徐々に減らしていったら違和感なく『勉強出来なくなったんだな』となるんじゃないだろうか?うん、それがいい。
ご飯を素早くすませて、しばらく休憩したらグラウンドへ。
グラウンドに出たら柔軟して、軽めのランニングでウォーミングアップ。
そろそろ他の部員も来るだろうか?今日は自主参加とはいえ、この学校の男子陸上は女子より気合いの入った者が多そうだから半分以上は来るんじゃないだろうか。
「おお、川田、相変わらず早いな」
声を掛けてきた部長と、それと2,3名の部員が来た。え、これだけ?
「いえ、できる限りたくさん練習時間とりたいので」
なんて、本当のところは違うけども。
部長の後ろの部員は何か話して笑い合っており、彼らと私の間にいる部長は何やら表情を曇らせている。
「ま、程々にな」
「いえ、常に全力でやります」
そう返すと、部長はため息をついて部室へ着替えに行った。今ため息つかれるようなことあったかな?
しばらく……、1,2時間ほど練習をしていただろうか、晴れていた空が曇りだし日光を遮ってきた。初夏のような気候から一転、運動しやすい温度に感じる。
日が当たらなくなっただけで、実際の温度はそんなに変わってないと思うけど。
「おい、川田。天気が怪しくなってきたから俺らはもうあがるが……」
「川田もたまには一緒に帰ろうぜ」
確かに空は曇りと言うよりも、暗い。そのために部長や同級生の部員はもう帰ると言っているが……。
「いえ、俺はまだやります。お疲れ様です」
「……無理するなよ」
部長は困り顔でそう答えた。練習することの何が困るというのだろうか?
こちらには聞こえてこないが、他の部員達は何かをぶつくさと言い合っており、それに対して部長が『そう悪く言うな、別に間違ったことをしてるわけじゃ無い』と言ったのが聞こえてきた。
俺のことか……?まあ別にどう思われようが良いけどさ。
それから、何本か自分でタイムを計って走っていると、制服に着替え終えた部長がこちらに寄ってきた。
「なあ川田。少し良いか」
……なんだろう?
俺も部長の方へ向かった。
「なんでしょうか?」
「お前、元々途中入部なのもあるが、それに加えていつも先に来て、先に帰るだろう?今日は後だが……。いずれにしても集団で行動してない」
……なんだか面倒なこと言い出したな。
「それって、問題ありますか?陸上なんて個人競技でしょう。先に帰ると言っても自分の片付けはすませてますよね?俺に否がありますか?」
「……陸上選手としては問題ないと思う、けどここは学校の部活なんだ。正直言って浮いている……。いや、よく思われてない」
はぁ。
「別に、他の奴らになんて思われようがどうでもいいですよ」
「……ダメだ、それでは部員失格だ。このままでは大会には出せない。顧問にも相談が行ってるみたいだからな」
顧問にまで話が行っているとか聞いて、思わず部長をにらみつけてしまう。
「言ったのは俺じゃないぞ?」
「まあ、考えときますよ」
そう言うと話は終わりだと俺は踵を返し、ため息をついた。
「はぁ……」
後ろからも、ため息が聞こえた。
それから、もうしばらくすると、水滴がポツリと落ちてきた。ポツリは、ポツリポツリに、そしてポツポツポツポツと、頻度を増していった。
この程度の粒の雨ならまだやれるな……。そんな事を考えていたら、空からはそんな俺を嘲笑うかのように大粒で大量の雨が降ってきた。
さすがにダメだ。急いで部室へ向かった。
——カチャ。
当たり前だけど部室には誰もいないし、部室棟がプレハブ造りなこともあり、外の雨音がザーザーバタバタと大きく響く。
室内は先ほどまで着替えていたからだろう、新鮮な汗の香りが鼻を突く。
練習着を脱いで、汗を拭く。しかしそれが汗、雨どちらなのかは分からない。
拭いて制服に着替えたところでこの雨、こんな不快な場所は早く出たいけれど出たらまたびしょ濡れだ。
誰かの傘ないかな?と周りを見渡してもそれらしき物は見当たらなかった。
昇降口や教室に置き傘してなかったっけな……。
そう思いたち、この雨では心許ない屋根の廊下を通って昇降口へ移動する。
昇降口から出る生徒はみな折りたたみ傘などを利用していた。
傘が無いのは俺だけか?
昇降口にも無かった、一応確認したが教室にも無かった。
ダメ元でお姉ちゃんの傘が無いかなと探したけど、無かった。
そうだ、お姉ちゃんだ。買い物行くとか言ってたけど、もう終わってるかも知れない。
お姉ちゃんに連絡しよう。
『面倒かもだけど、学校に傘持ってきて欲しい』
すぐは気づかないかもしれないし、しばらく待とう。
そもそも水着買いに行くって、お姉ちゃんが?
オタクなのはそのままだけど、他にお兄ちゃんっぽいところは全然見当たらないなあ。
お姉ちゃんも自分で選ぶんだろうか、それとも咲恵に無理矢理連れて行かれただけなんだろうか。
もしお姉ちゃんがウキウキしながら自分で水着物色してたら……。さすがに引くかも。
それにしてもメッセージ返ってこないな。
電話しちゃおうかな……。
うん、電話しよう。
——Prrrrrr。
——Prrrrrr。
出ないなー。
——Prrrrrr。
——Prrrrrr。
そんなに気づかない?お姉ちゃんも濡れて帰ってお風呂入ってるとか?
——Prrrrrr。
——Prrrrrr。
——……。
もういいよ!
俺は傘を探しに来た誰もいない教室で、制服から練習着に再度着替えた。
どうせ濡れるなら帰るのも雨の中練習するのも一緒だ。
暗い大雨の中、日が暮れるまでグラウンドを走り続け、ずぶ濡れのまま家路についた。
その私を見てお母さんは心配してくれた。
それだけでなんだか安心できた。




