第10話 乙女たち、水着決めて——
綾ちゃんをつれて、同じようなタイプの水着が集まっているところへ行く。
「こういうの」
「え~、なんか派手すぎません?あ、でもこっちならありかも……」
綾ちゃんは、一目見て否定しつつも結局全部見ていっている。
私が薦めたのはタンキニ?とかいうやつで、ビキニのトップスが服みたいなやつ。服って言っても、キャミソールみたいなのから、短いTシャツみたいなのまで様々みたいだけど。
こうやって実際に見てみると、女性用の水着が特設会場まで設けられるのも道理だわ。
「じゃあ試着してきますね」
「うん。……あっ、待って」
声を掛けると止まってくれた綾ちゃんにひとつ確認をする。
「また同じ水着の色違いばっかり持って行ってないよね?」
「えっ?ダメですか?」
予想を裏切らないなあ。
「ダメじゃないけど……、先にデザインだけ決めてそこから色選ぶとか……。ああでもデザイン次第で合う色合わない色あるか、まあデザイン違いでそれぞれに好きな色持って行くとかさ」
「…………」
そう言った私を見て綾ちゃんは表情を固めている。
「……どうしたの?」
「理香先輩、思ってたよりも女の子ですね。私より服選んだりするセンスありそう……」
いや、知ってると思うけど、まだ女子歴1、2ヶ月だよ……。
そして、その後も私は咲恵に呼ばれ、綾ちゃんに呼ばれ、また咲恵に呼ばれ……。
ねえ、いつになったら私は試着できるわけ?
私だって、目の前の水着を見て楽しめそうとか思ったのに……。
「それも似合ってると思うよ」
「そう~?いや~、迷っちゃうなあ。理香どれでも似合ってるって言うからさあ」
細かく言うと『そういうの求めてない』とか言うんでしょ。ラノベで見たよ。
いい加減すぎない程度に同調し続けておけば、いい感じに会話が成り立つ。
「綾ちゃん……それはやめとこっか」
「ですよねぇ……」
否定せざるを得ないのもあるけど。なんでマイクロビキニ試着してるのよ……。
そうして、何度二人の水着に感想を言っただろうか。
「ねえ、咲恵」
「な~に?」
「私も試着したいんだけど」
私がそう言うと咲恵は意味が分からない、と言うような顔をしている。
「二人が私を呼んでばかりで、私まだ試着できてないのよ」
「えっ、理香も本気で水着選ぶつもりだったの?」
咲恵は何言ってるの?それをしに誘ったんじゃ無いのかな……。
「そりゃ私も選ぶでしょ?だから誘ったんでしょ?それどころか見繕うとか言ってなかった?」
「あ~……。うん、うん、そうよね!言ってた気がしてきた」
どうもおかしい。そりゃあ最初は初めてだから怖じ気づいていたけど……、実際目の前にしたら服選ぶのも変わらない事分かったし。
もしかして……。私はひとつの可能性に気づき、咲恵の耳に口を寄せ小さい声で話した。
「私が理久の時のままで、女性用の服飾に興味ないと思ってる?」
図星だったのか咲恵は目を見開いてこちらを振り向いた。
「……違うの?」
「違うわよ。女性物の服だって好みとかちゃんとあるし……スキンケアとかもしてるし……」
スキンケアとか男でもするって、その時に初めて知ったけど……。
「そうなんだ……。じゃあ理香も試着してみてよ。見てあげる!もう選んであるの?」
「うん、一応。私の中ではほぼ決まってるけど一応着てみたいし……」
「それじゃあ、行こ」
私の背を押して試着室へ導く咲恵。押さなくても行くって!
「ああっ、私も見たいです!」
ちょうど試着室から出てきた綾ちゃんも、私達に付いてきた。
カーテンを閉めて、制服を脱ぎ、…………?
下着どうするんだろう。
「ねえ咲恵いる~?」
「何、もう着れた?」
——シャーッ。
カーテンの開く音がした。
「ひゃああ!?ちょっ、ちょっと!何開けてるのよ!」
開いたカーテンを奪い取るようにシャッと閉めて、私は非難の声を上げる。
まだ下着姿なのに……。
「ご、ごめん。理香が呼ぶからさあ……」
「が、眼福です……」
綾ちゃん……。
「それで、いるなら教えて欲しいんだけど。下着ってどうするの?脱ぐの?そのまま?」
「脱いじゃだめだよ!?上から着るんだよ!」
そのままって、場合によってははみ出ちゃうんじゃ?
「本当は水着買うときは小さめの下着だと良いんだけど、今日は急だったもんね。はみ出ちゃう?」
「ううん、持ってきたのははみ出ないと思う。なるほど、下着の上に試着するのか……」
私は最初目にとまった水着を着て、まずは自分で鏡を見る。
う~ん、やっぱり私って可愛すぎるのでは?
「見て見て~」
自己評価も高く、自分から見てもらうためにカーテンを開けた。
「キャー!理香先輩似合う~!」
「だよね?」
綾ちゃんの褒め言葉が純粋に嬉しい。
……咲恵は?
咲恵が見当たらないなと、キョロキョロしていると、咲恵は『理香はどうせ何着ても可愛いから私が見なくてもいいでしょ』と言って自分の水着漁りに戻ったと綾ちゃんが教えてくれた。
なんなのそれ。咲恵から誘っておきながら?自分は散々私に見てもらいながら?
「咲恵呼んできて」
「え~、私がですか……」
「私だって見て欲しいの!」
綾ちゃんは仕方ないですねと文句を言いながら咲恵を探してきてくれた。
その間に他のも試そうと思ったけど、今着ているのが一番可愛いと思う。なんとなく。
「お?理香いいじゃんそれ!胸元も首元まで隠れてるし、でも大きめなフリルで可愛らしくて理香の身長でも変じゃない。パレオは外しても良いかもだけど、そこは理香の好みかな」
やっぱり自分以外の意見が肯定的だと安心できるね。
「じゃあ私はこれにするわ。私もこれだなって思ってたの」
「私もいい加減決めるか~。なんて、実はもう買うのは決まってるんだけどね」
「私はもう買いました」
いつの間に。
精算を済ませて3人とも楽しい気分で外に出ると、強めの雨が降っていた。
「えぇー。もう梅雨終わったんじゃないの?」
「一応、梅雨明けはまだだったと思うよ、これが最後の雨かもね」
傘も無いのにこの雨の中を駅まで歩くのは無謀よね。
「ねぇ、帰りは駅までバス使わない?」
「私も先輩に賛成です」
綾ちゃんも同意してくれたので、駅までバスに乗った。
バスからは大雨の中で傘を持たずに走る学生や、濡れないよう店舗の軒下でやり過ごす人々、折りたたみで果敢に立ち向かうも肩がずぶ濡れのスーツ姿の男性など様々な姿が見られた。
雨が降るだけでどうしてこんなに気持ちが落ちるのだろう。そんな気分を高揚させるべく、私たちは今日の買い物についてキャピキャピと話していた。
理久からのメッセージにも、電話にも気づかずに——。




