第4話 恋する気持ちは、高野豆腐
私が風呂から上がってあれこれ時間を掛けているうちに夕飯の用意がすんでいた。
「いただきます」
「いただきます」
「はい、どうぞ」
今日は高野豆腐か、これ大好き。私は煮汁をたっぷり吸わせて食べるのが好き。
できれば二日目以降の冷蔵庫から出して冷たいままのが好きだけど。
「何度見てもその食べ方ないわ~」
私が理久の食べ方を否定する。
「だって、汁が付いたままだとほぼ汁じゃないか、こう、限界まで絞って……」
高野豆腐を器の縁へ押しつけるようにして絞っている。
「なんだか下品……」
「私は、理香も大概だと思うけどね。そのままつかんで食べなさいよ。軽く汁落とすくらいはいいとして」
お母さんの言うことがごもっともです。
そのお母さんが話題を変えてきた。
「それにしても、理香は急に美容とかに興味持ってお母さんは嬉しいわ」
夕食中、隣に座っているお母さんはそう切り出した。
リビングの席はお母さんとお父さんが向かい合って座る場所と、私たちが向かい合って座る場所と区切られているけど、そのなかでの場所は固定されていない。
「まあ……ね。もう高校生だし」
「でも最近まで全く興味なかったじゃない、それどころかがさつだったり……。私は少し心配だったから、嬉しいというより安心かも」
お母さんがそう言うテーブルの下で理久が足を蹴ってくる。
……がさつなのは、そういうところじゃないの。
「お姉ちゃん、それにしてもなんで急に美容とか興味出たの?」
あっ、要らないこと聞かないでよ。
「確かに不思議ねえ。周りを見て危機感でも持った?それとも、好きな人でもできた?」
「あははは!まさかお姉ちゃんに好きな人なんて。……ねぇ?」
理久は半笑いでそう言ってこちらを見てくる。知ってるくせに意地の悪い。
そういう、意識させられるようなこという言われると恥ずかしい。
「あら……?もしかして本当に好きな人でも?」
「い、いいじゃない、どっちでも!秘密!」
秘密とか言ってる時点で居るって言ってるようなものなのは分かるけど、直接肯定するのは抵抗ある。
こういうとき、もっと男の感覚が残ってたら、突っぱねる事ができたと思う。
今は心が揺れすぎてすぐ本心が出ちゃう。
…………これって男女の問題でもないか。性格の問題かな?
理香になって恋……をして、性格変わっちゃった?
それでも、その気持ちは全て持っておきたいと思う。
「はぁ……」
「こら!ご飯中にため息をつかない!」
「あっ……、ごめんなさい」
そう言って箸を器に運ぶと高野豆腐はもう無くなっていた。
「お母さん、これおかわりある?」
「あるわよ?食べるの?」
私は高野豆腐をおなかが苦しくなるまで食べた。同じようにたっぷりの汁を吸わせて。
「ご、ごちそうさま」
「恋をしてるなら、体型にも気をつけなさいね。理香は身長も低いんだから、ちょっと横に広がるとで大きく見えちゃうわよ?まあ、あなたは胸に行きがちみたいだから、それはそれで良いかもしれないけど」
いやあー!これ以上大きくなったら安い服屋のブラがサイズ無くなるから困る~!
う~。食べ過ぎたなあ……。
ご飯を終えると、部屋に入り、お腹が苦しくてベットへ横になった。もう風呂も入ったからブラも外して……。母さんの言いつけは守ってるよ。
——コンコン。
でも、人が訪れたら意味がなくない?それ。
「なにー?」
誰だろう。お父さんはまだ帰ってないと思うし、そもそも『理香』の部屋はあまり訪れないから理久かお母さんだろうけど。
「入って大丈夫?」
理久だった。
「いいよ、私転がってるけど」
——ガチャ。
入るなり理久は目を見開いた。
「ちょっ……お姉ちゃん、俺入れる前に何か羽織るとかしてよ」
え?なんで……?
「あ、分かってないんだね自分の姿を。ちょっと青少年には刺激が強いんだよ……」
刺激……?
「苦しくて動けないから、ちょっと写真でも撮ってくれる……?」
「撮るのはいいけど、お姉ちゃんのスマホ借りるよ」
……いいけど、自分のスマホはどうしたのだろう?
「まあいいけど」
理久は私が渡したスマホで私を撮ろうと構える。
「こんな刺激の強い写真、自分のスマホに残したくないよ」
そして撮った写真を私に見せてきた。
そこに映っていたのはスウェットズボンに長袖Tシャツの私。
——なんだけど、刺激的っていうのはこれのことか。ゆったり目の襟口から見える谷間に、その大きな2つ山のそれぞれの中心にある、さらに“象徴的な部分”までシャツ越しにくっきりと。
「ご、ごめん!うっ……」
何か羽織ろうと立ち上がろうとするも、高野豆腐食べ過ぎた苦しさにうめいてしまう。
「取ってあげるから。お姉ちゃんクローゼット開けるよ?」
「ダメ!開けないで!見ないで!」
「はあ……?何かやましいものでも入ってんの?」
——ガタッ。
無慈悲にもクローゼットは開け放たれた。ああ……。
「……ねえお姉ちゃん。服、増えたねえ?」
「う、うん」
「それもスカートとか、ブラウスとか、ニットとか、女性向けデザインなの増えたねえ?清楚系?」
…………見られたくなかった。
「まあいいや、この少しルーズ目なカーディガンちょうど良いだろうし、これ羽織ってよ」
「はあい……」
「別に可愛い服増えてることはこれ以上言わないからさ。……お姉ちゃん、女の子だもんね」
理久は複雑そうな顔をした。
私が女の子になりきってしまうのは嫌なんだろうか……。
「……本題は咲恵のことなんだけど」
「親友関係に戻ってくれそう……!?」
あれ以降、咲恵がそれ以前のように軽いノリで接してくれなくなった。
まったく会話が無いって訳じゃ無いんだけど、なんだか距離が置かれている。
「逆かな、戻れないよ、多分」
「えっ、なんでなの!?」
理由を聞くと理久は言いよどんだ。知らないのか、それとも私には言いづらいのか。
「言えない……かな」
……言えない。
「ということは知ってるのね?教えてよ」
「ダメ、言うのは咲恵が可哀想」
私は咲恵が前みたいに話してくれないモヤモヤを抱き続けることになるのか。
理香になって数週間で、咲恵との会話にも親しみを持ち始めていたのに。
それに——。
「じゃあ私にとって仲の良い友達は今居ないの?」
「お互いに交友関係が狭かった事、あだになってるね。交友関係が深くあって、真実を知らないのは清水くんくらい」
清水は、理香じゃ交友関係薄いし、それに異性なのよ……。
「咲恵がその態度を貫くというなら、私はクラスの女子ともうちょっと話すことにするわ」
「えっ、……咲恵とも話してあげて欲しい」
どっちなのよ……。咲恵は私とこれまで通りに話ししたいのか、したくないのか、分からない。
「咲恵がそう言うならね。もうお腹も落ち着いたし出て行ってくれる?軽く勉強してから寝るから」
「……分かった。お姉ちゃんおやすみ」
「おやすみなさい」




