第3話 変わりゆく、風呂の過ごし方
……お姉ちゃんに伝えづらいなあ。
家に帰り、先に風呂入りたいと言った俺は、シャワーを頭に浴びながらそんな事を考えていた。
親友に戻りたいお姉ちゃんと、理香が元理久だと知って親友では満足できない咲恵。
——元理久とはいえ、今理香だけどいいのかなあ。
ああ、そして風呂に入ると最近は問題が……。
目線を下半身の一部へ向け……ない。
なんだろうなあ。あのお姉ちゃんの暴露以降、唯一男であることを明確に示すこれが苦手だ。
しかし触らずに洗うこともできないので、お姉ちゃんに教えられた方法で洗って、全身を流して湯船につかった。
「理久~、私も早く入りたいからさっさと上がってね~」
そういうお姉ちゃんが入ると長いから先に入らせてもらってるというのに。
風呂の一角には、お姉ちゃんが最近置いてるグッズ類。この前なんてお母さんに力説してシャワーヘッドまで変えていた。
グッズが増えるとお母さんもゴキケンだけど、うちの家計は大丈夫なんだろうか。
「理久まだ~?」
はあ、俺にもゆっくり浸からせてくれよ……。
湯船から上がり、足に水を掛けて筋肉を冷やしてあげる。……気分的なもんだけどさ。
「もう出るから向こう行ってほしい」
「はあ?何恥ずかしがってるの?」
元男だから見ても平気だって?
「お姉ちゃんは弟の前で脱げるわけ?」
……俺は色々反応したら困るからやめて欲しい。
「はあ?何言ってるの変態!」
そう言って脱衣所から出て行った。嫌なんじゃないか。
……俺に下着の付け方を教えられたのがもう懐かしいよ。
——もう!
私はしばらく待ってから入ったお風呂の中で、理久に憤慨していた。
姉妹とはいえ、元の性別が逆だとは言え、もうちょっとデリカシーを持って欲しい。
年頃の姉が弟の前で脱げるわけ無いでしょうに。
……なんて言いつつ、向こうの言い分も理解している。
『元は男なんだから平気だろ』
と言いたいのだろう。うん、別に裸の理久を見るのは平気だと思う。
でも見せるのは嫌。
だってこっちは年頃の女の子……になってしまった——、だというのに。
この感覚は成り立ての頃は無かったのに、最近はこういう羞恥心的なものもバッチリ。
もう意識して女の子を演じる必要すら無いんじゃないのかなと思っている。
以前は無頓着だった美容意識もバッチリ。
美容液だの化粧水だのといったのは、大人になってからだと誤解していたのだけれど、若い私たちには私たちなりの、気にしないといけない問題があるらしい。
……ニキビができやすいとか。そうでない場合は必須じゃないかもだけど、気になるならいる……のかな?
体だってボディソープをしっかり泡立てて、その泡を手でつかみ泡をもって包むように肌を撫でていく。ナイロン製のタオルでこすったりなんかしないよ?
もう以前より綺麗じゃ無いとか言わせないんだから!
…………というくらいには意識している。
自分でも不思議なくらい。
てっきり認識が揺らいだことで、以前より女の子を演じることが必要になったりするのかと思ったら真逆だ。
神様は姿を表さないし……。
拝んだらこないかな、なんて。
お風呂の中で……、鏡に向かって二礼二拍手一礼……。
——————。
「ま、そんな簡単にこないよね」
よく考えたら今全裸だった。
あっぶない。
さて、ゆっくり湯船に浸かろう。
湯船は少しぬるかったが構わない、長いこと浸かるのでこれくらいがちょうど良い。
5分ほど浸り全身が温まってきたら、ジェルを顔に塗ってローラーでゴロゴロ……、ゴロゴロ……。
顔が小顔になるんだ、私は身長が低いからどうしても顔が大きく見えてしまうし……。
しばらくゴロゴロしていると、目の前が暗転した——。
——えっ。
「ブフッ——。よぉ、久しぶりだな。呼ばれたから姿を表してやったぞ?」
「うふふふ、すっかり女の子ですね」
なっ。
「なんで今なの!私お風呂中だったんだけど!えっ、というか裸のままじゃん。理久は!?私一人だよね?」
「ぶっ……。お、お姉ちゃん……、お風呂でそんなことしてたの……」
「いやああああ、ちょっと見ないでよ!!」
なにこれ、罰ゲームも良いところじゃない!
「すっかり本来の性別に馴染んでいるようで私達は安心ですよ、美しくありたいですよね?私だってそうです。楽しませてくれますね、貴方は」
「……俺はそんな事思ってなかったなあ」
そ、そうだ。綻びの影響について……!あ……言ったら怒られそう……。
「あの~、それで今回ですね……」
「ああ」
私の言葉に本題がなんの事か分かって男の神様の声が鋭くなった。
「お前、今回良くも言ってくれたなあ?ああ?」
「私達、違和感を与えることですら認識に綻びが出ると言いましたよね?」
……言ってました。
「はい……」
「はい……。いやいや、なんで俺も怒られてるの?」
怒られるのかと思ったら神様の表情が緩む。
「なんてな、今回は全部言ったとはいえ、少数相手だからそう問題でもねぇ」
「もちろん相手の方々は一瞬にして全てを理解しましたけどね?そのことが他へ広まらない限り、影響はそれだけです。よ~く、釘を刺しておくとよいですよ」
な……なるほど。見たままの影響で安心した。
「それと。意志を固めた理香の方は恐らく、もう自身から男性がほぼ消えてるんじゃ無いですか?」
「確かにそうね」
妙に自然と自分の美を磨いてるのとかも、自然と……、そう多賀先輩の事を思うと自然と頑張れる。
「心が揺らされるとどうなるかわかりませんが」
心の揺れ……。今は一点を見ている……ということになるのかな?
「問題は理久です。貴方は無頓着すぎます」
「無頓着……。いえいえ、集中してることとかありますし」
理久、なんだか微妙な表情をしている。なんか問題あるのかな?
「お姉ちゃんがこの前何人かに言ってから、違和感が強くなってるんだよ!」
「まあ、今のままならそうだろうな。それならそれで俺達は、面白い見世物して楽しませてもらうが」
神様暇なの……?
「おい理香、暇なのかとか思ってねぇだろうな?仕事だよ仕事。でも仕事も楽しいほうがいいだろう?」
「——いえ、私、学生なので……」
男の神様は私の答えに舌打ちする。やっぱりこの神様ちょっとガラ悪いなあ……。
「まあ、そうですね……。理久はもっと周りにも気を配りましょうね、それでは……」
神様が去ろうとする。待って!
「あ、あの!」
「……なんですか?」
「理久の記憶から私の裸の記憶を消したりとか……」
弟に全裸見られたとか最悪なんだけど。
「…………」
女の神様はニッコリ笑った。
——そして視界は暗転した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
最っ悪!理久に裸見られたとか最悪だわ。
女の神様も楽しんでるんでしょうあんなの!
ゴロゴロ。ゴロゴロ。
思わずローラーに力が入る。
だめだめ、ローラーは優しい力で動かさないと。
————ガチャ。
え?
「お姉ちゃん!俺裸とか見てないから!ぼかし入ってたから!」
理久が風呂に上半身を覗かせて私に見てないアピールをする。
「バカー!出てってよ!」
「あっ、ごめん」
「それで今見たら意味ないでしょうが!」
泣きそう。




