第2話 こじれる、雨の甘味旅
「おっそ~い!」
「ごめんな藤島さん、お姉ちゃん呼びに行ったら宮本さんと話しちゃって」
「ふ~ん?ところでしゃべり方ってもう戻さないの?今私たち三人だけじゃん」
これは……最初は苦労したんだけど、もはや今となっては元からそうだったと思うほどに違和感がない。
「一応、ずっとこうかな。いざって時に困るし」
「ま、それもそっか。それに急に理香っぽく話されても格好良さ落ちてがっかりかも。でも理香は、前の理久・理香と比べてどっちにも似つかない感じだよね。どうしてそうなったと」
分かる。やけに丁寧っていうか、宮本さんじゃないけど『年上のお姉さま』って感じ。
「え、私?」
前を歩いていたお姉ちゃんが、綺麗な姿勢を保ちつつ少しだけ振り返った。
その動きのさなかも、差している傘は地面と垂直で、体からほぼ一定の距離を保っている。これで身長があればまるでモデルみたいだと思う。
「う~ん、どうしてかしら。私の理想像……だったのかも」
お姉ちゃんの答えを聞いて私たち二人を顔を見合わせた。
「理香……元々女の子になりたかったの?」
「えっ、あれ?そういうことじゃないよ……?」
「そうとしか聞こえないよお姉ちゃん……」
ぶつぶつと『違うのになあ』なんて言いながら前を向き直すお姉ちゃんもまた可愛くて。
普通、年齢の近い兄弟姉妹ってこう、いがみ合ったりするもんじゃないのか?実際お兄ちゃんだったときは『はあ~、オタクな兄キモ……』って感じだったのに。今はお姉ちゃん可愛い。ちょっとクズくてチョロいけど。オタクなのは変わってないはずなのにね、これが男女差別か。
「ねえ咲恵、駅前に出たら左でいいの?」
「そう、商店街の方ね」
返事をした咲恵は歩くペースを緩めて一番後ろを歩いている私の方に寄ってくる。
「ねえ理久くん。理香の理想があれって事はさ、あ~しももっと真面目になれば好みになれるかな」
「真面目って……。咲……藤島さん、見た目の他は意外と真面目じゃんか」
「だから、その見た目とか話し方的な……」
咲恵の見た目は教師に注意されるたび黒染め、そしてまたブリーチして金髪というかなりの派手さだ。何がそこまでさせるのか、俺には以前から理解できなかった。
「頑張って金髪にしてたけどさ~、もしかして逆効果だったのかなあって……」
え、もしかして咲恵……。
「なあ藤島さん、俺のことどう思ってる?この前めっちゃ積極的だったけど」
「あ~、あれ?もうやらないよ?だって親友じゃん?」
あ、お姉ちゃん……可哀想。友達減っちゃうよ。
「お姉ちゃんは……?」
「えっへへへへ……」
恥ずかしそうにはにかんで笑う咲恵。
あ~、そういうことなのね。
「あ、ここだよ」
咲恵が教えてくれたのは大きな食品スーパーの前。行き過ぎてしまったお姉ちゃんは引き返す羽目に。もうちょっと早く言ってあげてよ。
いくつかの店舗を同一建築物内に持つタイプのものだ。
外向きにも入り口があるのはクリーニング屋、ドラッグストア、現金自動預払機、歯医者だ。
……あれ?
「咲恵、目的のキッチンカーが見当たらないけれど?」
「あれ?」
私も違和感を持ったけど、お姉ちゃんの言うとおりキッチンカーの姿は無い。正確に言うとワッフルのキッチンカーは無い、焼き鳥だけだ。
「私お店の人に聞いてみるわね」
お姉ちゃんが店舗の中に入っていった。今のうちに聞こう。
「なあ藤島さん、『理久』が好きなのって、今もで……。この前のことがあった今となっては、それは俺のことじゃないわけ?」
「あっ……!う…………!」
あまりにも直接的な物言いだから、単にズバリ言い当てられたことに驚いたのか、咲恵は言葉を失った。
そして咲恵は顔を真っ赤にして黙って頷いた。
これも一応言っといてあげようか。
「お姉ちゃんは咲恵が急に親友の距離感じゃなくなって悲しんでるみたいなんだけど。……お姉ちゃん友達少ないから。私もだけど」
学生のうちに1つのことに打ち込みすぎると、そういうものなんだろうか。
「それは、無理かな……。そんな気持ちになれないよ……」
ああ、お姉ちゃん。無理だってさ……。でも……。
「それさ、本当のこと言わないと単に仲悪くなったみたいだよ?それか親友みたいな感じ続けるかさ……」
「う~ん……」
「あ、そうだ。俺と付き合った事にしてしまったら気持ちが落ち着いてお姉ちゃんとは親友的に戻ったり……」
ああ、発想がお姉ちゃんのクズさそのものだよこれじゃ。
「それはさすがに、無いかなあ」
だよね。ごめん。
あ、お姉ちゃんが戻ってきた。
「おーい。聞いてきたよ~。16時からは焼き鳥のキッチンカーに変わるんだって~。夕飯時だからかなあ」
「え~、残念。理香、今度は授業終わったら部活せずに速攻来ようよ」
おい咲恵、堂々とサボり宣言か。
「私はいいけど、陸上部ってそんな勝手に休めるの?」
「よゆーだよ?」
そんな訳あるか!
「藤島さんなにそんな適当なこと言ってるんだよ!そんなホイホイ休んでいいわけないだろ」
「いや~私は女子部だからそっちとは違うよ~」
朝練サボると小言言われる程度には厳しいはずだけど……。
「まあ……、俺が怒られるわけじゃ無いからどうでもいいけどさ……」
「でしょ?好きにしま~す!」
そう言ってみんなスーパーの出入り口付近から商店街へ戻っていく、お姉ちゃんが『もうこのまま帰るんだよね?』と聞くと咲恵が文句を言い出した。
「でもな~、口の中は甘いもの求めてるんだよね~」
「コンビニに美味しいスイーツがいっぱいだよ」
「今は違うかなあ。別にそれも嫌いじゃ無いんだけど……」
俺がかなり良い提案をしたと思ったがお気に召さなかったらしい。
「じゃあドーナツ屋とか」
「ドーナツはしばらく要らないかな……」
心底嫌そうな顔をしながら咲恵がそう言った。なんなら良いんだよ……。
「咲恵はこの前嫌ほど食べてたもんね。あま~い紅茶でいいなら、私知ってるけど」
「え、何それ。私知らないところかな……?」
お姉ちゃんの言葉に食いついた咲恵に対し『メイド喫茶だし多分知らないと思うよ』と言うと咲恵が行く気満々になり、行く流れとなった。
店はメイド喫茶……というかメイドが一人いる喫茶店だった。
俺はおなかがすいていたので甘味ではなく『おでん』にした。お姉ちゃんが言うには前回は無かったそうだけど。
お姉ちゃんはコーヒー。咲恵はミルクティーのヘビー。何、ヘビーって。
——結果。
『おでん』ではなく『昨日のおでんの残り』と、咲恵が涙を流しながら『なんでこれで糖分が個体になってないのか分からないほど甘いけどミルクティーの香りは良い』と評価する紅茶と、『凄い美味しい、値段あってるの?大丈夫?』というコーヒーが出てきた。
世の中は広いなあ……。




