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第5話 お姉ちゃんへ、下着指南

「えっ」

 お風呂からあがり、部屋に戻るとお姉ちゃんが居た。声をあげたのはお姉ちゃんだ。

 私はすかさず反論する。

「『えっ』って、私の部屋なんだけど……」

「今朝まではね」

 あっ。

「ごめん、そうでした。ノックくらいしないと駄目だよね」

 そう言って出ていこうとすると、ちょうど用事があるからいいと引き止められた。そのまま扉を占めてお姉ちゃんに近づく。そしてそのまますがりつくように話しかけた。

「お姉ちゃん、アレが。私にアレがついてるの……」

「アレ……、ああ。そりゃそうだろ、男なんだから、ってちょっと見せようとするな!」

 お姉ちゃんは目を手で覆って非難してきた。そんなに?

「もともと持ってたでしょ。そんなに嫌がらなくても」

「男でも、いや男だからこそ他の野郎のなんて見たくないなあ。それに……なんか嫌なんだよな。よくわからないけど」

 なんか嫌、分かる。私は逆だった。

「私も、実はすぐに慣れたのよね」

「あと女の裸見てもこう……、ムラっとこなかった」

 自分の体見てムラムラしてたら変態じゃないかな……。

「あ、それで思い出した!」

 お姉ちゃんは何を思い出したのかと思ったらトイレについて聞いてきた。拭くときの向きも、力の入れ方も共に間違ってるので説明してあげた。

「向きなんかあるのか……」

「当然、後ろ吹くときも向きは気をつけてね。気をつけてというか、早く慣れてね」

 お姉ちゃんはパジャマの上から拭くまねをする。仮にも弟の前でその格好するのはどうかと思うよ。

「あ、ああ。慣れるかな……。そうだな男の方は……」

「それは大丈夫、モノには驚いたけど使い方は直感でいけた、楽だね~」

「あまり楽しすぎると痛い目見るから気をつけてな」

 そういったお姉ちゃんは少し考えたあと神妙な顔つきで続けて口を開いた。

「なあ、なんだか風呂入ってから髪の毛がパサパサなんだけど。肌もなんかすべすべじゃない感じに……」

 何を乙女みたいなことを。

「普段通りのシャンプーと石鹸使うからでしょ?私もよく知らないけど、トリートメント付けたり、安い石鹸じゃなくて良い石鹸やボディソープ使ったり、後の手入れとかもしないと駄目らしいよ?」

「らしい?」

 うっ。すみませんね、私はやってこなかったんですよ。そんな暇があったらトレーニングやストレッチよ。

「私はあまり気にならなかったからな~、何もしなくてもいい感じだったっていうか」

 いらない見えを張ってしまう。

「そもそもお姉ちゃんどうしたの、()()()()はそんなの気にしてこなかったでしょ?」

「なんだろう。一度いい状態を見てしまったから気になるというか、自分のことだと気になるのか。俺もよくわからないけど、せっかくなら綺麗な方が良いというか」

「せっかく?」

 せっかくって、まるで期待していたかのように聞こえる。

「『どうせ』で」

 どちらでもいいけど。

「そういう美容関係は私よりもお母さんか、私の友達に聞くと良いよ」

 私の友達……。あっこれは、私の友達はお姉ちゃんの友だちになるのでは。

「お前の友達って、それ、もしかして俺の」

 お姉ちゃんも気づいたみたいだ。

「そうだね。あとお姉ちゃん『俺』じゃなくて『私』で。俺っていう女の子もいるけど、私は『私』だったから。あと『お前』も使ってない」

「お互い様だよ。わ・た・しも、『私』なんか使ってなかったから」

「お、俺……?俺。俺、俺、俺、俺……」

「私。私。私。私…………」

 互いに自分のことをぶつぶつ言い続ける。第三者が見たら絶対不気味だと思う。

 あ、そうだ見た目といえば。

「あと俺はさ、元々髪が短かったのもあってそこまで違和感なかったけど、お姉ちゃんは元々放っておいて伸びてた髪の毛だったからか、今も髪が長いよね」

「ああ、肩よりちょっと下くらいまであるな」

「長さはともかくボリュームがねえ、それ全然美容室で整えてもらってなかったでしょ。先を切りそろえて全体的にすいてもらうといいよ、それくらいは俺でもわかる」

「び、美容室……。私は散髪屋しか行ったことないな」

 だろうと思った。なんて思いつつ、互いに一人称は意識できているものも、口調が全然だめだな、などと考えていたら目に一冊の漫画が目に入った。

 ――――『TS美少女アイドル道』。の下にある『続・TS美少女アイドル道』

 一度読ませてもらったことがある。前作が完結していないのに続編が出て、続編のほうが人気あるという。

 女性アイドルグループのセンターと、男性アイドルグループリーダーの性別が同時に変わってしまい、周りに隠すため生活を入れ替えるという。ただ、続編がゆえに女性アイドルグループのセンターは前作の主人公が成功を収めた未来の姿で、つまり元々男だったんじゃないかという説があり、公式には否定も肯定ともにされていないという本編以外がやけに気になる漫画。

 ……そんなことはどうでも良くて、その状況が俺達と同じじゃないの。でも。

「お姉ちゃんこれ……」

 そう言って私は漫画を手に取った。

「あっ」

「状況は似てるし、性別の違いみたいなのを書いてる場面が合ったりするけど……あまり当てにしたらだめだと思うよ。私に聞きなよ」

「それは、ブラジャーの付け方を参考にしようと……」

 あっ、大きさ違いすぎて聞かれてもそこまで力になれないやつ……。い、いや。基本は同じだから……。

「漫画見るよりネットで調べたほうが良いんじゃないの?下着メーカーとかにちゃんと書いてそう。あとは……お母さんに教えてもらうとか、お店で分からないんですアピールして教えてもらうとか」

 いくつかの方法を伝えてみると、お姉ちゃんは慌てた様子になった。

「いやいやいや!お母さんにとか無理だ!なんか……なんか嫌!ネットでは調べるとして、うまくできるだろうか」

 うーん、じゃあ……。

「とりあえず俺がしてあげよっか?」

「あぁ。うーん……。できんの?」

 たぶん。

「もちろん」

「じゃあ……今お願いする」

 そういってお姉ちゃんはパジャマを脱ぎ……途中で止まった。

「何してるの、早く脱いでよ」

「いや、弟に教えてもらうとかなんか変じゃないか?」

「元は妹だからいいの!早くして!」

「そ、そうだな……」

 そう言ってゆっくりと上半身に着ているものを脱いだお姉ちゃん。あ、今は何も付けてなかったのね。

 いや、何をしているの。

「お姉ちゃん、そんな風に隠したら何も出来ないでしょ」

「うっ、だって」

 脱いだ服と両腕で前を隠してしまっている。

「なんか恥ずかしい?気持ちがそわそわしてさ……」

「昨日ま男だったのが何言ってるの。はい、観念する!」

 と言って私は腕の中のものを取り上げた。お姉ちゃんは軽く悲鳴を上げている。なんだかいけないことをしている気になってきた。さっさと終わらせてしまおう。私は最後までガードしている腕を取り上げた。

「ああ…………」

 手を取られたお姉ちゃんは観念して腕を前から外し、力を緩めてくれた。

 ブラジャーは……引き出しを漁り、これでいいのかな?適当に取り出す。でっか……。お姉ちゃんの身体にあてて、後ろ止めて。

 ん……?なにこれ、全然サイズが合ってない。アンダーがめっちゃ大きい。けど、たぶんカップはそこまで大きくない。お母さん、朝に見た感じで買っちゃったんだろうけど試着してないとはいえこんなに違う?

 あ……。これはもしかして。

「お姉ちゃんあの」

「なに、早くしてほしいんだが」

 本当に恥ずかしいのかお姉ちゃんの返事からイライラを感じる。

「これサイズ合ってない」

「えっ、新しいのに」

「新しくない」

「お前のだったやつ?は、こんなに大きくないか」

 失礼な!……そのとおりだけど。ああ、言いづらいな~。嫌がるだろうなあ。

「これお母さんのやつ……」

「えぇ……。ま、まあ着けないわけにもいかないよな……?」

 露骨に嫌な顔をしつつも、冷静に必要だという判断。といっても小さいはともかく大きいには限度が合って。

「これこのまま着けても、まあ肩紐あるから落ちることはないけど、何の意味もないかも……。それくらいデカい。あ、でもこっちのならまだどうにかなるかも」

 下着が入れられていた引き出しにまだなんとかなりそうなものを見つけた。

 肌着と一体になってるワイヤーレスのものだ。普段はこんなのでいい。これはあまりにデザイン残念だけど。

 手に取ったのはベージュ単色だった。それをお姉ちゃんに渡す。

「可愛くないけど、こんなものなのか?」

「どうかな……。人によるけど、体育とかあるときはもうちょっと可愛さとか気にしたりもするよ」

 受け取ったお姉ちゃんは、普通の肌着と同じようにとりあえず着てみる。

「でけぇ。ブカブカだよ」

 着た下着の裾を広げてお姉ちゃんが見せてくる、これじゃ裾丈の合ってないワンピだよ。

「しかもやっぱりバストが収まってないね、明日買いに行ったほうが良いよ」

「気は乗らないけど……お母さんにこれ見せたら金くれるかな?」

「くれると思うよ、ちゃんと上を着ていってね」

 他は買ってくれてたみたいだし、たぶんバストの大きさが目でわからないくらいだったから、自分買ってこいって考えだったんだろうなあ。お母さんも。

 明日が土曜ならよかったのに、残念ながらまだ明日は金曜。あの下着で明日はしのいでもらうしかないだろうなあ。

 それに比べて男はなんとなくサイズ足りてればとりあえず着られるし。

 

 ――ヴヴヴ。

 

 そんなことを考えてしばらく待っているとスマホの通知音がなった。床に放り出されたスマホは咲恵からのメッセージであることを示している。

 確認しようと手に取ったが、指紋認証が通らない。画面をこちらに向けても顔認証も通らなかった。男になっているから顔認証はわかるとして、指紋も駄目らしい。

 暗証番号でロック解除しようと思ったけれど、果たしてこれは誰のスマホなんだろうか。お姉ちゃんと相談するまで置いておこう……。

次回更新は6/9までのどこか

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