第4話 はじめまして、私の身体
事務的説明されたことによると。兄妹が姉弟になったとして兄理久と認識されていたものは弟理久として認識される。つまり人間関係は全部自分がこれまで築いたものではないということになる。
つまり、理香に彼氏がいたらそれは俺の彼氏になるということ。考えるだけで鳥肌が立ってきた……。
「なぁ、一応聞くんだけど……彼氏って居た?」
そう聞いたところ、ため息混じりに答えてきた。
「居なかったよ。部活ばっかりやってるのにそんな暇あるわけないじゃん」
よかった。
「あーでも、めっちゃアプローチ書けてくる先輩は居たな……。御堂先輩だったかな」
俺でも知ってるイケメン先輩じゃないか。
「イケメンの副会長なのに、付き合わなかったのか?」
「部活ユーセン♪だから」
そういう理久の姿はかつての俺とは違い、下手するとイケメン先輩よりイケメンじゃないだろうか。
「ちなみに俺も彼女は居なかった」
「わかってる」
なんだか悔しい。なにか反論しようと思っていたところに母の呼ぶ声がする。気がついていなかったけど夕飯の時間らしい。
……俺だってたまにしか話さない部活の後輩がいてだな。
「理香!家の中でも下着くらいつけなさいよみっともない。身だしなみ!」
テーブルの席につくなり母に注意を受けた。いちいち着けないとか言ってたのは誰だったか。俺は理久の方を目で見たが、理久は胸の前で両手ともに曲線を数度描いてから手でこちらへバツを示してくる。
何かが駄目?いやいや、着けてないのはお前が要らないって言ったからだろ。何度か同じことを繰り返した理久は急に腹を立ててテーブルの下で俺を蹴ってきた。
「なんだよ?」
「なかったの!」
ああ、なるほど。しかしこの胸だけはいまいち納得いかない点だと思っている。
今の理久が筋肉質で背が高いのは、おそらくもとの体型が影響して。俺の、今の理香の体型は元の理久が男子の中では低身長だったことに由来していて。つまり互いに元の性別が変わる前の影響をうけているのではないかと推測している。
しかしこの胸だけは説明つかない。なぜなら元は男だから胸はなかったし、太っているわけでもなかった。胸大きいのが太ってると同義ではないというのはわかるのだけど。
そのあたりも説明してほしかったなあ、神に。
魚の煮付けをバラし、食べながらそんな事を考えていると、さらに母が注意を続けた。
「とりあえず、もう部屋からでないって時間になるまでちゃんと着けておくこと。年頃の弟もいるんだからさ……配慮してあげな」
「はいはい、わかったよ」
「言葉遣いも。もうちょっと丁寧にしなさい」
「はぁい……」
練習しないとだめだなこれは。
そんな話をしていると、理久が席から立ち上がった。
「あれ?どうしたの理久。まだ残ってるのに」
母の指摘する通り、理久の席にはまだおかずが残っている。
「え、おかわりするんだけど。無い?」
「あるにはあるけど、お父さんの分が……。あんた、おかわりなんてこれまでしたこと無いじゃない」
確かに俺はおかわりなんかしたこと無い。
「いや~、なんかお腹すくんだよねー。でもお姉ちゃんがおかわりしないと思うから大丈夫」
そう言われた母はこちらを向く。
「理香、そうなの?」
問われてお腹の具合を考える。考えるまでもなくおかわりなんか要らない」
「いらないよ」
「毎日おかわりしてたのに、体調でも悪い?」
うんちょっとね、と濁した。
これは体型と一緒の原因ではないだろうか。母から見たら急に変わったように見えるかもしれないけれど、今の理香はあくまで性別が変わった俺にすぎない。むしろ基礎代謝とか下がってるだろうから、以前より食べないのではないだろうか。
「たぶん、これからもおかわりすることは無いと思うよ。逆に理久が毎日するんじゃないかな」
「するね!」
そんなに力強く答えなくても。
「そう……。まあお米炊く量が結局かわらないなら、それでいいんだけど」
「う~ん。この感じは3、4杯くらい食べそう」
胃のあたりにてを置いて理久はそういった。元々理香が2杯くらいだったことを思うと増えている。
「しょ、食費が……。ああ、理久は気にしなくていいわ、食べてちょうだい。育ちだ盛りだものね。お父さんに我慢してもらいましょう」
父が不憫すぎる。ちょうどいい、正直お腹苦しいから俺の飯を減らそう。
「お母さん、私半分くらいでいいよ?」
「あなたは食べなさい。まだ身長伸びるでしょうきっと、これ以上胸にいかないといいけれど。今日も買い替えたばかりなのに」
あ、神によって俺達二人以外は認識が変わるって言っていたけれど、そういう認識になるんだ。
それで服もさっと用意されていたのか。
「はぁい……」
渋々と茶碗のご飯を全部食べた。最後の方はもうお茶で流してたようなものだけど。その間に理久はしっかり4杯食べたようだ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした。あ、もうお風呂沸いてるから入りなさいよ」
いやあ、こんな苦しいのにすぐ風呂とか無理だ。
「ワタシ、勉強してから入るからもうちょっと後で」
自分でも『私』のイントネーションがおかしいと思う。勉強よりも言葉遣いの練習かなこれは。
「あ、ちょっとは外走ってくるからパス」
おおおい!これまでそんなことしたこと無いだろう?そう、少しでも走っておきたいのか、すぐランニングに出ようとしていたが、夜に女の子が……と言われ止められていた。
ああ。理久になり、もう男だからやり放題ってことか。満喫してるじゃん。
この後もうちょっと二人で話したかったし、話し方も聞きたかったけど、これならまあ先に風呂でもいいか。
「じゃあ私が先に入るよ……」
夕食は終わり、理久は外へ。宣言通り俺は風呂に入ることとなった。
「う~ん」
脱衣所で洗面台の鏡に映る自分を見つめる。結構可愛いのではないか、俺。
この現実離れした体型にサラッサラの髪の毛。肌もきれい。肌、髪ともに、以前の二人のどちらにも似つかない綺麗さだと思う。髪はわからないけど、肌は元々洗顔とかはちゃんとしていて部活も文化部。気にしたことはなかったけど、肌は元々綺麗だったんじゃないだろうか。あまりに綺麗で、顔を寄せて肌を見たり、首を素早く動かしてサラサラな髪を揺らして遊んでしまう。
「変わっちゃったのはまだ納得できないけど、この髪はありだな」
なんて、あまりに自身の姿に気に入ったのか、ひとり呟いてしまう。言った後に恥ずかしくなった。
しかし、TSジャンルの漫画とかにもよくあるけど、いざ目の前にするとなんか罪悪感あるなやっぱり。かといって入らないわけにもいかないので、さっさと脱いでしまう。そもそもさっき着替えるときに上は脱いだのだからあんまり大差ないかも。
先に用を足すのを忘れていた……。情けなくも脱いだパンツをもう一度履き、トイレに向かう。最近の6月は少しの間くらいパンイチでも寒くない。
親に言われ、そもそも男の時から座ってしていたので、そこに違和感はなかった。けれど、終わった後にどうきったらいいんだろうか。男ならキレがよければそのままでいいし、そうでなくとも、管をグイグイと押して離して揺らすんだけど。
…………うーん。
数瞬考えた末に適当に腰を横に揺らしてみるも手応えなし。諦めて拭くしかないか。
トイレットペーパーを2回ほど巻取り、ぐいっと手前に向かって拭いてみた。
「うわっ!」
はあ、絶対これ手に尿ついたわ。すぐ手を洗うから諦めよう。
そしてトイレをでて風呂に改めて向かう。
「あんたなんて格好でうろついてんの!」
母と出くわした。
「いや、ちょっと風呂前にトイレ行くの忘れてたから……」
「せめてタオルで前を隠しなさい。教えてこなかったかしら……。そもそも教える教えない以前に恥ずかしいと思いなさいよ。何年女の子やってるの」
まだ6時間も経っていませんが、なんて言ってみたい。
「ごめん、気をつける」
逃げるように風呂に向かった。
風呂では特に変わったことはなかった。自分にムラムラしたりするかな、とか思っていたのにまったくなくて拍子抜けだった。
それよりも風呂上がりが大変で、男の時も長めだった髪の毛だけど、なぜか今は密度が増えて長さも少し長く、全然ドライヤーが終わらない。いつもの倍以上の時間をかけて乾かし終わったのものの、風呂に入るまでのサラサラ感はどこかへ消えていた。ちょっと悲しい。
理香……じゃない。理久に聞けば分かるだろうか。
この身体は最高だと思う。神様にはもっと早く間違いを直してほしかった。
ランニングをしながら私はそんなことを考えていた。力強さが全然違う。体力も全然違う。
神様は『無理の無いように』性別を変えるといっていたけれど、その結果がこれなら大歓迎。明日にでも陸上部に入ろう……!
ただ、同じように。今の理香、つまりお姉ちゃんの方も良い方向に働いている気がしている。髪や肌の質、ボディライン、はっきり言ってあれはモテる女子だ。身長低いけど、それは好みの問題だろうし。
それに私はスカートとか嫌いだったけど、お姉ちゃんは女子を装わないといけないという考えが働いているのか、スカートを履くことを当たり前に思っているように感じた。私はスカート嫌いだったからなあ。
近所に戻り、家まで120メートルくらいのところで、一度立ち止まり息を整える。思考も止めてただ目の前に集中する。
ラストは全力で走る……!
スタートの加速力が違う。
一歩の幅も違う。
腕も早く動かせるし、足も早く回せる。早く、早く……。
「――っ!」
冷や汗を感じて動きを止める。
一瞬両足が身体付近の位置で揃って浮いてた。最も離れた位置関係ですらないのに。
おそらく早く動かそうとしすぎて変になったのだろう。まだ全力で体を動かすのは慣れていないのか危ないかもしれない。
予定を変えて残り60メートルほどは歩き、家ついたら水を飲み、トイレ、風呂と。
風呂上がったら一応お姉ちゃんのところに……。
「ひっ!」
生まれて初めて見る大人のソレへと成長しているモノを自分の身体みて思わす悲鳴を上げてしまった。
この身体は最高ではないかもしれない、私は考えを改めた。




