第40話 醒めたくなかった、夢の時間
「いや~、理久くんより理香のが勉強できるってなんか意外だったなー。しかも結構出題予想も当たってるし」
翌日の帰り、咲恵が確かな手応えを感じつつまた我が家へと向かっていた。ちなみに私は完璧だという手応えがある。
「あんなのはちゃんと授業聞いてたら分かるのよ。もちろん、直接ここ出るって言ってるわけじゃないけれど。咲恵は話聞いてるんでしょう?」
「あ~しは聞いてはいるけど、全部覚えてるとは言ってないし、活用できるとも言ってないけど?」
そういえばそうだった。
家に帰るなり昼をコンビニにて買ったもので済ませて、勉強をする。
「今日も泊まってもいいけど、0時くらいには寝ようね」
明日は先輩と約束してるから。
「おやあ、デートですかあ?」
「そ……、そんなんじゃ無いから……」
告白予定です。私は、自分の心を正しく認識するんだ。
「じゃ、それまでには寝ますかあ」
……結局昼寝をしてしまい、今日は自習を選んだ理香が、18時に帰って来た時たたき起こされた。
そしてそこから勉強したために、2時くらいまで起きることになってしまった……。
翌日のテストも完璧だった。この気分のよい状態で多賀先輩と待ち合わせだ。
特に場所は指定しなかったけれど、先に出て門で待っていれば大丈夫だろう。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
すっごい笑顔の綾ちゃんが来た。
……『お待たせしました』?
いいえ、待ってないけれど。
「あれ、お姉様?お出かけするんですよね」
するけど、相手は多賀先輩となんだけど。
口元に手を当ててなんでだろうと考える。
「お姉様~、聞いてます?」
そもそも綾ちゃんが知ってるってことは、送り間違えたんじゃ無いのかな。
私はスマホを取り出し、メッセージアプリを確認する。
——ああっ!私の馬鹿!
綾ちゃんに送っていた。
そりゃ先輩から返事来ないよね。あぁもう、バカバカ!
「綾、ごめんこれ間違えて送ったの」
「え……?じゃあお姉様は誰とお出かけするつもりだったんですか?それも二人きりで」
「多賀先輩と……あっ」
『彼女』である綾ちゃんになんてことを言ってるのか。
「へえ……。お姉様は私がいるのに先輩と二人きりで……それってデートですよね?」
私たちの会話を門から出る他の生徒たちがチラチラと見るのが目に入った。
「…………」
「さすがにちょっと、場所変えましょうか」
いつもには無い圧、いやむしろ百合好きだと分かる前の綾ちゃんの雰囲気と同じだろうか……。それを放つ様に感じる綾ちゃんに『そうね』と言って私はついて行った。
話しかけても何も言わないので、黙ってついて行くと図書室に連れて行かれた。
「人が少なくて誰も来ない、ちょうどいい場所でしょう?文芸部でここにいてもほとんど人いなかったですし」
「図書室でおしゃべりするのも、どうかと思うけど」
「そうですね、理香先輩」
そう言って綾ちゃんは表情を崩してこちらを向いた。
「ご、ごめんね。楽しみにしてたみたいだったのに、勘違いだなんて」
言いながら頭を下げる。
「いいんですよ理香先輩、頭を上げてください。誰にだって手違いはありますからね。でも……」
「でも?」
「ふ……。何か分かりません?理香先輩」
そういえば、先ほどから意図的に呼ばれているような。
——あっ?名前で呼ばれている!?
「ど、ど、どうしたの綾。名前でなんか呼んで」
「いいんですよ先輩。もう。無理してそんな呼び方しなくても。でも……でも……」
話す綾ちゃんの目尻に光るものが浮かんできた。
「夢を見せるなら、嘘をつくなら、つき通して欲しかったですね……」
ああ、バレたんだ……。
「バレちゃった、みたいな顔されてますけど、私に送ったメッセージの時点で『先輩』とか書いてありますからね」
「あっ」
「それに。もっと早く分かってましたよ。言ったでしょう。隠し事の話をしたときに、嘘もつかないでと」
言ってたかも。
「あの時すでに分かってましたよ。なんならこの前の土曜日、大勢で出かけて、付き合うってなったときに分かってました」
ええっ!?
「でも、嘘から始まった関係でも、いずれは本当に……、なんて期待をしていたんです……ぐす」
あ、泣きそう。
「ぐすっ……変な期待、ぐすん。しなきゃよかった…………」
そういうと綾ちゃんは机に突っ伏してしまった。
「ご、ごめ……」
「謝らないでください!」
伏せていた顔を起こし睨まれた。
「私だって百合って関係に憧れていただけかもしれない。それは否定できませんから……。そうなると私だって先輩を利用してたって事になります」
そう言った綾ちゃんが、ぼそりと『いっそ先輩が男なら……』つぶやいたように聞こえた。
実は元々男だったんだけどね。
「まあ、もう過ぎたことってことにしましょう!せっかく来たのだし、このまま文芸部の活動でもしませんか?まあ本読むだけなんですけど」
さっきまで少し泣いてたのに強いなあ。
「いいね。テストも終わったしゆっくり本でも読みたい」
お互い、元の関係に戻れるかもしれない。
「でも、どうして副会長が好きなのに私と付き合おうとしたんですか?そこは不思議です」
「えっ、私が多賀先輩好きとか言った!?言ってないよね……?」
私自身最近諦めて意識したところなのに。
「……本気で言ってます?この前出かけたときで分かりやすすぎますよ。恋は盲目、自分のことも分かってないんですね」
綾ちゃん、なんだか精神的に強くなった気がする。それとも私が弱くなったのだろうか。
「ところで、メッセージでも何でも、副会長にもう気持ちは伝えてあるんですよね?」
「えっ、まだ……。本当は今日それ言うつもりで……」
私がそう言うと綾ちゃんが大きな声をだした。
「はああああああ!?あなた何やってるんですか?それだったらこんなところで本読んでる場合じゃ無いでしょう!」
「ご、ごめんなさい?で、でも明日でいいかなって。帰ったらメッセージしようかなって」
あまりに大声に動揺してしまった。でもメッセージは本当に送るつもりだった。
綾ちゃんが目を閉じて首を左右にふっている。
「さすがに呆れますよ。もう今日は駄目です。図書室禁止です。帰ってすぐメッセージなり通話なりしてください」
そう言った綾ちゃんに文字通り押し出されて図書室から閉め出される。この体、軽いし小さいから誰にでも物理的に負けちゃう……。
扉越しに綾ちゃんの呟きが聞こえる。
「お姉様、楽しい夢の時間をありがとうございました…………」
その声はまた震えていた。
本当にごめんね……綾……。




