第38話 くり返し、揺らされる心
息抜き回です。
無事、誰にも出会うこと無く帰って来た。
もしかすると佐々木さんには筒抜けなのかもしれないけれど。
「え~っと、どうしようか。私の部屋でも良いけど、リビングでもいいか」
私の部屋は男オタク的アイテムが多いからなあ。
「広いし、リビングでいいんじゃないかな?」
「はぁい!」
咲恵は元気よく返事すると。
「ああぁぁぁ——!!」
リビングのソファに埋まっていった。
勉強をしに来たのではなかったっけ?
「咲恵……?」
「藤島さん、勉強しに来たんでしょ」
そのままなし崩しにならないように指摘すると「ええ~」と非難の声を上げた咲恵は、まだお昼も食べてないのにと理由を言ってきた。
たしかに、すぐに帰ってきたからお弁当も食べていない。
いつも通りだと咲恵は弁当持ってきてないだろうから、カップ麺でも渡せばいいかな。
「あ~。俺も用意するからお姉ちゃん教えてよ」
理久が用意するという。
「教える……?そもそも私達はお弁当あるから、咲恵にはカップ麺でも渡せばいいじゃないの」
「いいから!」
全く……。私が行ったところでなんの手助けにもならないって、分かってるでしょうに。
心の中で文句を言いつつキッチンに着くと、理久はすぐにテキパキと料理の用意をし始めた。
「あ、お姉ちゃんお弁当出して。お弁当は材料にしちゃうから。他にも俺が言うこと手伝ってくれる?」
「わ、分かった」
弁当を材料に?すごいわね……。
私はひたすら手伝いをすればいいという。
「言った通りお母さんの手伝いしてたんでしょ?」
「え、どこにそんな時間が?」
「じゃあもう邪魔にならないように見といて」
手伝いすらしなくて良くなってしまった。
弁当からおかずが刻まれたり、ご飯だけ取り出されたり。
他の野菜と一緒に炒められたり。
ええっ!なんでそこで牛乳とトマトジュース登場するの!?
しかもご飯入れちゃうの?
お、おお?おおぉぉ…………。
「トマトリゾットが出来たよぉ~」
まるで私が作ったかの様にダイニングテーブルへ運ぶ。
「流石は理香~!理久くんも手伝ったの」
「ああ。ちょっとだけね」
本当は理久がほとんど作りました。
「じゃあ」
3人共に手を合わせて。
『いただきま~す!』
牛乳にご飯入れてたけど、ちゃんと食べられるのかなこれ。
恐る恐る口へ運ぶ。
結構味がある。そういえば謎の茶色の粉も入れてたけど、あれが味なのかな。
あ、あれか。顆粒だしだな!
「う~ん、顆粒だしがちょうどいい塩梅で美味しく出来たね!」
「ええっ!?洋食なのにだし入ってんのこれ?」
咲恵が驚く。要らないこと言ったかこれ。
「お姉ちゃん何言ってるんだよ、入れたのはコンソメだろ」
……コンソメ?スープ?
理久が睨みつけてくる。あ、はい。もう余計なこと言いません。
多分理久としては理香が料理できるというの元の理香の認識通りに事を運ぶべく、私をキッチンに呼んだんだろう。
認識の綻びか。いっそすべて綻んでしまえば気は楽かもしれないのに。
理久は思ったより認識の綻びが起きないように努力しているのかもしれない。勉強も頑張ってるし、元は違ったのになぜかそういう認識の運動神経抜群なところも、頑張っている。
「ん……私はもう良いかな。ごちそうさま」
鍋にはまだ残っているけど、もう9分くらいまでお腹は満たされている。
「ああ、俺がまだまだ食べるから良いよ」
「あんまり食べると眠たくなっちゃうよー?という私も眠くなってきたかも」
咲恵はそう言いながらも、自分の皿の中のものを最後の一粒まですくい続ける。
下手に食べ物を無駄にするより全然いいし、真面目なんだなって思うけど……。
「咲恵、これから勉強するのよ?眠くなってもらったら困るのだけど」
「あ~、一眠りしてからにしよ?最悪徹夜すればいいじゃん」
まあ徹夜とかは好きにしてくれたら良いんだけど。
「もちろん二人とも朝も教えてくれるよね?」
何を言ってる……?
「藤島さん、ここで徹夜するつもりなの?」
「もちろーん!そのためにお母さんがお泊りセットを持ってきてくれま~す!」
「いやいや、聞いてないんだけど、理久ちゃんと教えてあげなよ」
徹夜につきあわされるなんて勘弁なので、理久に押し付ける。
「は?お姉ちゃんの友達、だろ?」
元々はあなたの友達なのよ……。咲恵は咲恵でニコニコしてるし。
私はまあ、今回分の勉強はしなくてもテスト結果は及第点だろうから、まあつきあってあげるかあ。
ついでに理久にもね。
「ということで!15時まで昼寝ね!」
言うなり、リビングのラグの上で横になろうとクッションを床へ置き、寝転んでいく咲恵。
「させるわけ無いでしょ」
私は阻止すべくクッションを取り上げた。
——ゴンっ!
「痛ぁっ!」
あるはずのものが無かった咲恵の頭はそのまま倒れ込み。更にはそこにはラグが無かったためフローリングからの熱いお出迎えが。
「お姉ちゃん酷っ」
流石に悪いことをした気分になる。
「ご、ごめん。まさかラグがないなんて」
「あ~、痛いなあ。これは15時まで寝るしか無いなあ」
「もういいわよ。どうせ夜遅くやるんだったら15時まで私の部屋のベッドで寝てきたら?」
咲恵は「ありがとう」と礼をいって上がっていった。
あっ、オタクな本達……。
まあ良いか、咲恵ならそれらを見かけても詮索することはしないだろう。
私としてはまだ友人歴が浅いのに、咲恵に対してそう思えた。
理久は後片付けしてるし、咲恵が降りてくるまでは他のことでも考えていようかな。
そう、多賀先輩のこと。
誘ったは良いけど、何も考えてないのはまずい。このままテスト期間を過ごしているとあっという間に最終日でお出かけになってしまう。
先輩は強く紳士的にアプローチしてくるけれど、付き合うなんてありえないと思っている。だって男……。
……本当に?だったらなぜ、わざわざ2人でのお出かけを約束し直した?
向こうから誘われても、「綾ちゃんが……、彼女がいるから」と断れるのに、なぜ自分から誘ったの?
誰か相談に乗ってほしい……、自分では感情が揺れる中で考えるから、さらに揺れが大きくなっていくような感じを覚える。
でも誰にも相談できない。問題の根っこにあるのは性別と役割の反転で、理久以外には言えないから。
……それに、理久に相談しても面白おかしく先輩と付き合えばいいって言ってきそう。
ああ、予定が決まったことで勉強へ集中できるようになったはずなのに、また頭が多賀先輩と綾ちゃんのことで悩み続けている。
……私も一眠りしよう。起きたら咲恵も起きてきて勉強せざるをえなくなると願って。
次回も息抜き回。




