第36話 ごまかせない、内心矛盾・自問自答
部屋でアンソロジー新刊を読んでいると、理久が入ってきた。
「お姉ちゃん、ここ教えてほしいんだけど」
ああ、テスト範囲勉強しているのか、えらく真面目になったもんだなあ。
それに対して私は、どうも娯楽を優先してしまい、勉強に集中できない。
「ああ、ここはね……」
とはいえ、これまでの積み重ねがあるので今回の中間テスト分、それに限らず2年の間くらいはまあ心配することはないと思う。
私が一通り教えると、理久は納得した様子を見せた。一週間で目まぐるしく勉強できるようになっていると思う。以前なら説明したことを理解するために説明を幾重にもする必要があったのに。
「1回で理解するなんて、成長したわねえ」
「お陰様で。でもお姉ちゃんは勉強しないの?以前はどれだけ分かってようがテスト前期間はひたすら復習繰り返してなかった?」
「やっぱり……?なんだか気乗りしないんだよね……。これも神様の認識合わせとやらの影響のせいかなあ、勉強に限らず集中することが出来ないし。たとえば理香とはそういうもの、みたいな」
……とは言ったものの、それは言い訳に過ぎない。本当は原因にはおおよそ見当もついてるんだけれど。確証は持てない。
綾ちゃんに夢中……。だというつもりになっていることで、集中出来てないんじゃないかなあ、という予想をしている。
「酷いな!あんまり神様のせいにすると怒られるよ」
「……ああ、そういえば。少なくとも私が多賀先輩に惹かれてるらしいのは、神様のせいではないらしいしね……。あっ、神様といえば実は私、ボウリングに行くって決まる直前?くらいから、ボール選ぶくらいまで、神様と話していて現実の記憶無いのよ」
この事自体言うつもりだったのに、すっかり言うの忘れてたわ。
「知らなかった。その間のお姉ちゃん、少し呆けてたけど普通に歩いてたよ」
「……深く考えないことにするわ。まあその時、男に惹かれていて困惑してるみたいなこと言ったら『うまくやってる、その調子で』みたいな返答だったから、多分神様はそういうところまで関与してないみたいよ」
はぅ……。とため息のように息を吐いた。
その事を口にすることで、頭に綾ちゃんと出会うまでの多賀先輩との……二人きりの時間や綾ちゃんとのやり取りなんかを思い出し、胸に空気が詰まった感じを覚えたので。
息を吐き切るまでの間に更に胸が苦しくなり、大きく息を吸ってまた吐く。
はぁぁ…………。
「ちょっと……、家族の前でそんな色っぽい吐息出さないでくれよ」
「は!?そんなの出してないわよ、ちょっと胸が苦しかったから深呼吸しただけでしょ」
そう反論すると、理久は額に手を当てて大げさに首を横に振った。
止まったと思ったら上を向き止まり、ため息をついて唸りだし、額に手を当てまた唸った。
「……何か言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「土曜のお姉ちゃんの対応からすると、酷な事実だよ?……ああ、でも直接言っても受け付けないかもしれないなあ」
何なのよ、その含みのある言い方は。はっきり言えばいいのに……。
「お姉ちゃん、まずは目を閉じて、咲恵を思い浮かべてみてくれる?」
咲恵……、常にテンションが高く笑顔の印象が強い。メッセージ、話し言葉共に激しい感じだけど、意外と常識あるようにも見えるわ……。
「目は閉じたままで。次、清水くん」
理久だったときの親友のイメージが強くて、清水もだいたい笑ってるイメージかなあ……。私の身の回りじゃ一番常識的。
「次は~……、松川先生」
最悪。
「お姉ちゃん苦虫噛み潰したような顔してるよ……」
「仕方ないでしょ」
「次、宮本さん」
彼女……ということにしている。慕ってもらえるのは嬉しいし、可愛い。百合ロールプレイができると思えば楽しいかもしれない。けれど、そもそも私はまだ、心まで自分が男なのか女なのかはっきりしていない。いずれ身体に合わせた心になるのか、これまでの積み重ねが勝つのか……。
はぁ……。
それに、私から見ると利用している面があるので、どうしても悪い気分になる。
「ふうん……すっごい難しい顔してる。次佐々木先輩……。は、いいや。多賀先輩で」
多賀先輩は、ネジの数本飛んでるオタクだと思っていたのに、やることが全て格好いい。一言話すその爽やかな表情もとても印象的……。
はぅぅぅ……。
ああ、だめ。どうしてこんなに心拍数が上がってしまうのよ。
理久が何を言いたいのかなんとなく分かったわ。でもこれは……。
「お姉ちゃんもう目開けていいよ。……分かった?」
「分からないわ」
これは、認めたくない。
互いを見つめ……。否、睨み合う。何度も意識はしてるがこれは認めない。
「鈍感なの?馬鹿なの?それともわざとなの?」
「…………」
「…………」
3つ目だ。私達はまた睨み合う。
「お姉ちゃんが分かってないにしろ、わざとで隠してるにしろ……、とりあえず宮本さんは彼女にするべきじゃないよ」
「な、何を言うの!」
もう、バレているのだろう。何故なのかはわからないけれど。
「隠してるんだとしたら、お姉ちゃんが私に言わないのはもういいから。他の人には誠実でいてくれよ、じゃあな」
そう言って理久は部屋を出ていった。
だ、だったら……!隠し通せば誠実だし、なんなら宮本さんと誠実向き合うということだって……。方法の1つだわ……!
理久が去った扉に向かって心の中で理久に反論をするのは、理久への言葉なのか、自分への言い訳なのか。
勉強にもアンソロジーにも、集中できなくなってしまった。
隠し通すための、その方法も結局は逃げであるし、さらには人に嘘をついている。良くないことだというのは私も理解している。
では嘘をつくこと無く、心が先輩から逃げればいいのだけれど……。でも、なんとなく分かる。そこはそんなに理性で制御できないと。
私は自問自答を繰り返し、そのまま眠りに落ちた。




