第35話 さらけ出る、放課後本屋デート
「お姉様、どこに行くんですか?」
あれ、言ってなかったかな。
「本屋だよ」
「ああ、いいですね。やっぱり図書室もいいけど、買わないと読めない本もありますしね」
「そうだね、新刊とか」
新刊という目的もあるけど、それは半分口実。一番の目的はこうして綾ちゃんと出かけることで綾ちゃんが彼女なんだと自己暗示をかけること。
おそらく理久も気づいていないだろう。
スマホのメッセージを見てわざと喜んでみたり、こうして積極的に関わろうとしている。
綾ちゃんのことは嫌いというわけではないし、理久の時は「無口だけど可愛い子だなあ」くらいには思っていた。
ところが、理香になってから可愛いという風には思うけど、それ以上は特に無いという感じ。
本屋に入ると、綾ちゃんは一目散に漫画の新刊コーナーへ向かった。それも割とマイナーな雑誌のコミックスの場所へと。
「綾も漫画読んだりするんだ?」
「もちろんですよ。小説だけでは世界が広がりませんからね」
といって手に取ってる本が百合を中心に扱っているコミックスのギャグ漫画であるあたり、ブレないなあと思う。
「ギャグからラブコメ・恋愛、シリアスなやつまで何でも読みますよ、お姉様は何を買うんです?」
手に取っている本が増えていく中、困ったことを聞かれてしまった。
自分のカゴの中を見る。中にはちょっとエッチなハーレムラノベとか、すごくエッチな異世界コミカライズ、あとファッション雑誌とかも入っているなんだけど……。
「秘密……かな」
「そんな隠さなくても、予想と違っても引いたりしませんよ」
綾ちゃんそう言いながら私のカゴを覗きに来た。危ない、雑誌は一番上に置いてあって良かったわ。
「へぇ、お姉様意外ですねファッション誌とかも読まれるなんて。まあ可愛いですもんね。でもそれなら……」
そこまで言って綾ちゃんは雑誌コーナーに向かい、一冊の雑誌を手にとって戻ってきた。
「この特集のある雑誌も買うと言いですよ」
見せてきた表紙を見ると……。
「——『大特集!女子一人でも浮かないラーメン屋大全』」
ラーメンくらい好きに行けばいいのに。
「そっちじゃないです」
綾ちゃんは見てほしかった方を指差した。
「特集8!梅雨直前!スキンケアポイント!!」
「特集多すぎでしょ……ええっと、スキンケア?」
「お姉様、もしかして何もしてないんじゃないかなって……。あ、いや。肌が汚いとかそういう事言ってるわけじゃないんですけど……」
……そんな事、やったこと無いわ……。
「まあ見てみてください、カゴに入れときますね」
「あ、ありがとう……?」
私は綾ちゃんにカゴを差し出した。すると持っていた雑誌をかごに入れ、もともと入っていたファッション誌と共に持ち上げていった。
「あっ!?」
「何々?『押し付け作られたラッキースケベが俺を毎日逃さない 5』『村人Aの僕、親友だと思っていたのは魔王の女四天王だった 2』『TS美少女アイドル道 コミックアンソロジー65』『消える打球 23』。私ががっかりするかなって、隠していたんですか?」
バレちゃった。
「え、ええ」
「そんな事でがっかりしませんよ。スポーツ漫画は意外でしたけど……、そこまで百合ばっかり読まれてないのは図書室で見て知ってますし。むしろ隠されたことが悲しいです」
綾ちゃん本気で悲しんでるのか目が潤んでる!
「ご、ごめん!これからは隠し事しないから泣かないで、……ね?」
「……しないのは隠し事だけですか?」
え?
一瞬、綾ちゃんの声が鋭くなった。
「いえ、なんでもないです。買うもの買って、帰りましょうか」
「そうだね」
そう言ってレジに並んで会計を済ませた。お、重い。どうして本って本屋の中に居るときより帰りの袋の方が重く感じるんだろう。それに以前以上に身体がか細いからか置いてしまいたいくらい。
「重いよ~……!」
かと言って綾ちゃんも重いだろうし手伝ってもらうわけにも……!
「あ、お姉ちゃん」
「理香じゃーん!」
苦痛の声を上げならがら表に出ると理久と出くわした。
「り、理久!お願いがあるんだけど!」
「えっいきなり何……」
理久に出会うなりお願いがあると言うと、綾ちゃんが隣でどうして私に言わないのだろうと思ったのだろうか、不満顔になっちゃった……。
「本を買ったんだけど重くて重くて、持ってくれない?」
「なんだ、それくらいなら全然いいよ。宮本さんのも持ってあげようか?」
「わ、私は良いです……。戦利品は、自分でもたないと!」
下手に手出しすると噛みつかれそう。
「そ、そう……」
「そうだ!……二人ともお腹捨てない?あ~し達の残りで悪いんだけど、カステラあるよ」
といって咲恵が1.5リットルのペットボトルくらいのプラコップに入った、一口大に切られたカステラを見せてきた。
「……私は食べすぎないようにするというのが今年度の目標なんで。一昨日決まったばかりなので」
といって綾ちゃんは拒否した。絶対に蕎麦がトラウマになってるじゃないの。
「綾ちゃん、少しくらいならお腹苦しくなることもないとおもうから、いただかない?」
「いえ、でも……!何度も失敗してるので!」
何度も食べすぎて失敗してるのこの子!?意外すぎる、絶対私が……理香が野球漫画読んでるより意外なだと思うよ。
「そんなこといわずに、えいっ」
咲恵は爪楊枝をにささったカステラを綾ちゃんの口に運び、置いていく。それをされた綾ちゃんはしばらく堅い表情で口を動かさずにいた。意思は固いようだ。
「私はもらおうかな」
「はい理香。あ~ん」
ええ、あ~んするの……。
「あ~……」
ん。んん!?
「なにこれすごい美味しい。あんなに量持ってたからてっきり数だけの残念な味で持て余したのかと思ってた」
「にひひ、でしょ!」
ええい、反応が可愛いなあもう。理香になった当初は怖気づいていた咲恵のテンションにもすぐに慣れた。
慣れることで、それもまた魅力だなと、最近は思っている。
「もしかしたら理香たちに会うかなと思って残しておいたんだ~。しかも軽いし数あってもわりと食べられるんだよ?理久くんとかもう全部食べちゃってるし」
「このサイズを1つずつ買ったの!?」
「美味しかったよ」
理久も満足げに言う。……まあ、それくらい美味しいなあたしかに。
口に放り込まれた綾ちゃんは味を感じてしまっているのか、よだれをすする音がしている。
「綾……諦めて食べたら……?」
「じゅ、じゅるる、じゅるるるる………!!」
なんて?
「もぐもぐ、ゴクン。ああん、食べちゃった!美味しいなあもう!どこの店ですか!」
「あっち方の右側にあるキッチンカーだよ」
「ありがとうございます!私はカステラに負けたので買いに行ってきます……!」
「今年度の目標は……?」
「…………変えます!」
意思弱いなあ……。
「それじゃあまた明日。……ああ、お姉様。先程の話の続き、言っておきますね」
「……続き?」
「もう隠し事をしないのはわかりましたけど……、嘘もつかないでもらえますか?」
「……当然でしょ」
一応そのように返事はしたものの、綾ちゃんに、痛いところを突かれたわね……。




