第34話 だれもやらない、勉強会
「お、お姉ちゃん!帰ろう!ヤバい!!」
部屋に戻るなり私はお姉ちゃんに帰宅を訴えた。
「なんなのいきなり?今みんな勉強してるんだから静かにしなさいよ」
あ、ごめん。周りを見ると皆一様に問題集や、授業のノートの振り返りに取り組んでいる。
一人だけファッション誌とスマホを見てるのが居るけど。
「あれも?」
「咲恵は最初のうちにリタイアしてたわよ。気づいてなかった?それだけ集中して勉強できるようになったのかな?」
「集中して勉強できるようにも何も、理久はそもそも成績優秀じゃなかったか?」
清水くんがノートから顔を上げてこちらに聞いてくる。
そうだった、そういう認識だった。
「テストの上位成績の張り出しにも載ってるわよね、部活だけじゃないなんて流石だわ」
戻ってきた佐々木先輩も。
……一昨日もそんなことを言っていたような。
そういえばカメラ、もしかしてこの部屋にはあるのかもしれない。私は周囲を見渡し怪しい所がないかとチェックする。
「どうしたの川田くん。心配しなくても、ここにもないわよ」
「その言い回しが怖いんですって。『そんな事しない』とか『どこにも無い』とか言えないんですか」
「…………そうね♪」
笑顔で一言。その間が余計お怖いですって。
「ただでさえあの手紙を見てこっちはもう先輩を恐れているんですから」
「手紙……?もしかして…………」
そう言うと彼女は勉強机へ向かい、引き出しを開けた。
「あら。私ってば、渡す手紙を間違えていたわ。あのストーカーみたいな手紙を渡しちゃっていたのね。……それなら土曜までに読まれなくてよかったわ」
そういって一通の手紙を渡された。もう開封してあったので中を見ると、単純な一目惚れによる告白と、OKなら土曜に来てほしいという文言のみだった。
普通だ。どうしてこっちを渡してくれなかったんだろう。それならこんなに恐れることはなかったのに。
「あの手紙はなんだったんですか?」
「ちょっと面白おかしくしようとしたら調子にのりすぎちゃって……、私はいたって普通よ?」
そっかじゃあ安心……。
「いやいや、だめですよ川田先輩、騙されてますよ。ねえお姉様」
え?宮本さん……?
「そうね。土曜にあんなに佐々木さんから寄られてたの、忘れちゃったの?」
「そうだった!」
「何言ってるの、あれくらい普通でしょ?」
いやいや、先輩さすがにそれはありえないわ。学生が初めて遊ぶ異性にあんなにベタベタしないでしょ。多少ならともかく、しすぎ。
それにさっきのトイレのこともある、カメラがないとしたら音だけでってことになるけど。だとしても聞き耳立ててるのかと思うとちょっと……。
「理久くん、あ~しにしとこ?ちょっと佐々木先輩は普通じゃないって!」
「ここぞとばかりにアピールするとか、女子って怖い……。っていうか何、そこの女子二人は理久狙いなのか……。フリーなの、川田さんと宮本さんだけ?」
清水くんが残念そうにいう。清水くん、現実はもっと残念だよ。
「私はお姉様の彼女です」
そういって宮本さんがお姉ちゃんの腕に抱きついた。
「なんです」
抱きつかれたお姉ちゃんの顔は緩みまくり。
「ええ……まさかの百合……?」
女同士を百合って言う所、清水くんもオタクって感じ。
「宮本さん、言っておくけど。どうもお姉ちゃんは言い寄られるとすぐ負けちゃうみたいだから、彼女だって安心しないほうが良いと思うよ。宮本さんの彼女だけど多賀先輩の彼女でもある、なんて事になっても不思議じゃないと俺は思ってる」
それを聞いた彼女は目を大きく見開き、視線を私からお姉ちゃんの顔に変えた。
「お姉様、そうなんですか……?」
「私はそんな事無いと思ってるんだけど……」
「もっとはっきりしてください」
お姉ちゃんの弱気な返事を聞いた宮本さんは困った表情を見せて、少し強くあたった。
「わからないわ!だって私にも自分の心が分からないもの!」
「……はっきりとそんなこと宣言されても困ります」
お姉ちゃん。二股あるかもって認めるような発言なんかしちゃだよ……。クズじゃん……。
「ごめんね綾……。でも正直心が揺らされる感覚に慣れてなくて、真剣に言い寄られたらすぐ心が傾いちゃうと思う。正直に言うと綾の思いを受け止めたのも、そういう所、あると思うわ」
もっとクズだったよ俺のお姉ちゃん。
「ということは俺にもチャンスが!?」
「あ~、清水……くんは無いかなあ」
一蹴された清水くんは『なんでなんだよ~!』と嘆きながら床へ崩れていった。まあ残念ながらないだろうなあ、だってお姉ちゃんが理久の頃の親友と、なんてさすがに……。さすがに無いと思いたい。
「ねえ、もう誰も勉強してないなら解散する?」
『あっ……』
全員、言われて初めてその事実に気づき、確かにそうだと解散することになった。
「ああ、川田くんはまだ居てくれてもいいよ?今日は親も居ないし」
「ええ~、先輩ずるい~」
「絶対帰ります!」
そんな事言われて居るわけがない!
2時間くらいはたっていたのか、時間も17時40分になっていた。皆自分の持ち物を片付け帰る用意をする。
「あ、理久。私ちょっと用事があるから先に一人で帰ってくれる?」
え、なんでだろう。別行動ならともかく、一緒ならそのまま帰ればいいのにと疑問に思ったので、ストレートに聞くことした。
「なんで?」
お姉ちゃんは宮本さんの方をみて一言。
「野暮なこと聞かないでよ」
「ああ……、二人で寄り道したいのか。お熱いことで……」
お姉ちゃんは多賀先輩からの防波堤とするために、宮本さんを彼女としたはずなのに、すっかり夢中になってるよね……?
「いいなあ。あ~し達もどこか寄ろうよ理久く~ん!」
「えっ、ずるい。私も!」
隙あらば狙ってくるなあこの二人。
「藤島さんはまあ良いとして、佐々木先輩はもう家でしょうに」
「そうでした……」
先輩は現実を突きつけられ、残念そうに首をがくりと落とした。
「じゃあ私は?」
「まあ良いよ。俺もお腹が空いてるし、ちょっと買食いするくらいね」
「そして俺は当然のように一人ですね。はい。空気読める偉いやつでしょ」
と、清水くん。まあ客観的に見ればそうなんだけど、俺としては居てくれた方が気楽だったかな……。




