第33話 約束の、勉強会
日曜日は昼からカーテンを閉めお姉ちゃんにて勉強させられた。カーテンを閉めたのはもちろん怪文書——もとい手紙の影響。
いつ見られてるか分からないとか怖すぎる。
俺が問題を解いているとまたスマホの振動音が聞こえてきた。何度目だろうか。
「お姉ちゃん……、集中できないからバイヴオフにしてくれない?」
「あ、ごめんね。綾ちゃんとのメッセージが途切れなくて」
そりゃあ送り返すからでしょうよ。互いに自分からはやめられないのかな。
それにしても……。
「なんだかんだ満更じゃなさそうだよね。とても楽しそうにメッセージアプリしてるけど」
「ラノベオタクというのは百合も好きなのよ。ましてやそこに自分が身をおいてるなんて、理久のときにはありえないからね」
お姉ちゃんは今の姿が一番適していたんじゃないだろうかと思う。
理香だった時の私からみると以前のお姉ちゃん……。つまりお兄ちゃんは、モヤシみたいに頼りない姿と整ってはいるものも格好いいとはなにか違う見た目の、ちょっとオタク入った優等生……。悪くいえば陰キャ。
「最初から神様の失敗が無かったら、男の頃の気持ちもなくて、もっと充実した日々だったかもしれないわね。ああ、でもそれだとTS感無いのか」
「別に無くてもいいでしょ、それは……」
お姉ちゃんの姿は今もモヤシみたいなのはあまり変わりないし、身長が低いのも同じだけれど、一部分の主張が激しく、可愛くてオタク文化に理解のある……。理解有るという自らどっぷり浸かりきってるオタク少女。俺は前のお兄ちゃんの姿も悪くないと思ってたけど、どっちが万人受けするって今の姿だろう。今は二人に言い寄られてるだけだけど、今後もっとモテちゃうんじゃないだろうか。
それは俺にも言えることだけれど。運動少女はあるていどモテていたっぽいけど、来る男がみんな運動部のむさ苦しい連中ばかりだった。それと、多賀先輩もだけど。
ただ、お姉ちゃんはそれでやや幸せを感じちゃってるかもしれないけれど、俺は違う。
あの佐々木先輩は絶対にないし、これまで友達をやってた咲恵と付き合うというのも違う。恋人というのは、やはり心がときめく相手でないと。
そう考えて手元の問題集から、ときめきとか関係なく宮本さんを恋人としたお姉ちゃんへと視線を移す。
「うふふふ……」
……本当にときめき関係ないのかな?瞳は大きく開き、上がりきった頬と口角の緩みきった顔を、るさらに両手で挟んで上げている。まるで完全に恋にときめく乙女のテンプレかのよう。
「お姉ちゃん……?それ何を見てる?」
「え、綾からのメッセージだけど?」
「綾?ちゃん付けしてたのにもう呼び捨て!?」
早すぎるでしょ!
「最初は綾ちゃんが喜ぶかなって思ってそう読んだり、お姉様っぽく振る舞ったりしてたんだけどね、それを喜ぶ綾ちゃんが可愛くて可愛くて……」
だ、ダメだこの姉、チョロすぎる!
「お姉ちゃんさ、もうちょっとしっかりしなよ……。そんな感じでも言い寄られたら誰にでもほだされちゃうわけ?大学生になったら都合のいい女扱いされちゃうんじゃない?」
「そ、そんなことないでしょ、流石に……」
「否定しようとしてるけど、今のところ100%だよ?今はまだ男相手には抵抗感あるみたいだけど、それなくなったら終わりだね、終わり。以前、相手が男とか寒気するとか言ってたけど、それももう無いんでしょ」
いつだったかな……、そうだ咲恵が俺を食べちゃうとか言ってた時……。
「あっ……、勉強会!するのかな……」
「勉強会?」
「ああ、うん。咲恵がテスト前の部活休みの間にやらないかって……」
私はまだ付け焼き刃だし、誰が教えるんだろう……。お姉ちゃんも誰が教えるんだと疑問を口にした。
「た、助けてほしい。二重の意味で……」
「二重?」
食べられちゃたまったもんじゃないからね……。
「私がお邪魔虫みたいになるのもなんだし、 もうひとり加えたい所だけど……」
宮本さんが居るんじゃないのかと思って聞いてみたけど、一年だからというのと、互いにイチャくつだけで良くないと言われてしまった。俺はイチャつかないからね!?
「う~ん、互いに交友範囲狭いしなあ。清水くんくらいしか思いつかないや……」
お姉ちゃんも特に反論は無いらしく、清水くんを誘う事となった。
翌日。
「——どうしてこうなってしまったのか」
結局、さらに宮本さんと佐々木先輩が追加されてしまっていた。
「おい理久、どうなってんだよ。女の子ばっかりじゃねぇか……。勉強どころじゃねえ!」
清水くんはその結果舞い上がってるし。残念だったね清水くん、そこの女共は全員野獣だよ。
「川田くん、勉強するなら声をかけてくれたら行くのに。私が手取り足取り教えて上・げ・る・か・ら♪」
言ってるそばから体を寄せてくる佐々木先輩。勉強以外のこと教えて来そうでやだなあ。とはいえ、今いるのは高校から近くにある彼女の家。場所を提供してくれたことは感謝している。あの手紙を書いたのかと思うとかなり怖いけど。
玄関を上がると、女兄弟もおらず初めて女子の家に上がったという清水くんは舞い上がってるけど、居てくれるだけでありがたい。今は男子がいるだけで心が少し落ち着く。お姉ちゃんはもうすっかり女子だし。ああっ、言ってるそばからスカート手で押さえずに階段登るとか、まだまだ所作は甘いね……。
「私が全員の面倒見ること出来るつもりたんですけどね、ちょっと勉強出来ないのが思ったより多かったので正直助かります」
お姉ちゃんは部屋に入るなりそう言って、勉強道具を広げていく。清水くんもそれに続く。
「えっ、本当に勉強するの?」
「は……?当たり前でしょ、咲恵何ってるの。ほら、綾を見てよ、もう取り組んでる……ほとんど間違ってるけど」
お姉ちゃんが来てからずっと挙動不審だった咲恵に呆れて返す。挙動不審だったのはまさか勉強する流れだとは思ってなかったのか……。
「そんな!?勉強会という名のただのお喋りだと思ってたのに……!」
そして宮本さんはとばっちりを受けた。
「そんな!?毎日沢山本読んでるのになぜ!お姉様酷い、わざわざ言わなくても!」
確かに……。
「百合本と恋愛の本ばかり読んで数学が出来るわけないでしょ……」
確かに……。でもお姉ちゃんは、そんなこと言いながら宮本さんにべったりだし、しっかり教えてあげてる。これは宮本さんのお姉ちゃん株がまた上がってしまうね。
まあいい、私も問題集でもやろう。認識の綻ぶ危機とかいうお陰で必死に勉強したら、意外にも勉強に抵抗はなくなったし、自分なりの方法も分かってきた。普通ではそんなすぐに効果でないし、もっと慣れないことにストレスを感じると思う。やはり認識をどうこうしているのは俺たち姉弟にも働いているのかもしれない。
……だとするとお姉ちゃんは勉強に集中できなくなっていたりして。
「はあ、私もやるか」
咲恵は観念して教科書とノートを取り出した。
それからしばらく皆大人しく勉強をしていたが、尿意を感じた。はあ、あまりトイレとか人の家で借りたくないんだけどなあ。仕方ない。
「佐々木先輩、トイレはどちらでしょうか。借りたいんですけど」
「案内するわよ、ついてきて」
彼女に大きめの家の中を連れられて、トイレに着くと、いざトイレを目の前にする事でさらに強く尿意を感じたので急いで入った。
急いでチャックを下ろして、用を足す用意をする。この一週間でもう慣れたし、触るのも抵抗はない。
「だめよ~、座るトイレでは座ってねー?川田くんお家でもそうなの?」
「ちょっと佐々木先輩!?何して、え、一緒に入ってるわけじゃない……。なんで分かるんですか!?え、カメラとかですか?」
怖い。ほんと怖いわこの人。
「一緒に入ってよかったのかしら?だったら入りたかったわ。それにここにはカメラはないわよ」
ここにはって何、どこかにあるのか!?
用を終えてトイレから出ると先輩はまだそこに居た。
「なんで目の前で待ってるんですか……、音とか聞かれると恥ずかしいんですけど」
「女の子みたいなこと言うのね。でも私は川田くんなら聞かれてもいいわよ?それとも一緒に入る?」
ほんと何なのこの人!?いくら近いとはいえこの人の家に入ったのは失敗だったかも!
「へ、部屋に戻ります——————!」
「もう、残念ね」




