第31話 おひらきと、始まり
理久がいきなり走って帰ってしまった……。
「これは、今日はお開きでしょうか。川田さんも弟君が気になっているでしょう?」
「ええ、まあ……。でもこちらから誘っておいて途中でなんて、誠実じゃないかなとも思って」
「また別の日に機会を設けていただいたらいいですよ。私としてもそちらのほうが嬉しいです」
多賀先輩優しい……!また理久関係ない日に誘ってあげよう。口にはしないけど、理久を追いかけるために先輩をダシにした、罪滅ぼしの意味も兼ねて。
「理香さあ。なんか目ぇキラキラして乙女モードなとこ悪いんだけど、完全に副会長のいいように誘導されてるからね?2回目の約束してるようなものじゃん」
そ、そうかな。
「お姉様!私ともデートしてくださああい!」
「お姉様ぁ!?綾ちゃん何いきなりその呼び方」
はっ、咲恵と綾ちゃんが親指立て合ってる……。
「咲恵の入れ知恵ね!?」
「入れ知恵だなんてとんでもない!綾ちゃんが理香と仲良くしたいっていうから、親密な呼び方したら良いんじゃないって教えてあげただけだよ~」
たぶん、咲恵はオタク的文化ではない所で知ったんだろうけど、そこは深く突っ込まないことにしよう……。
「雰囲気出ていいですよねぇ……。ね、お姉様!」
「理香にお姉ちゃんって呼ばれてるから、そこまでの違和感はないけど、様っていうのがなあ」
「え、じゃあお姉さん?」
敬称を変えたら良いって問題じゃないのよ。
「むしろそれは理久の彼女みたいでやめてほしいわ」
「お姉さん!」
「姉さん!」
私がそんな事を言うと、佐々木さんと咲恵がお姉さん呼びしてくる。やめてって言ったらやるの、なんなの。
「でもやっぱり、私はお姉様がいいです。憧れだったんです、年上の女性をお姉様って呼ぶの」
うっとりしながら彼女は言う。綾ちゃんは好きとかじゃなくて、単に百合の世界に自信も身を投じたいだけなのかもしれないなあ。
「話は落ち着いたかい?お店を出ようか、いつまでも席を占領しているのも悪いからね」
多賀先輩の言葉に異論を唱えるものはおらず、各々に席を片付けて店を出た。咲恵は理香の分も片付けてくれた。意外だなあ。
店を出ると咲恵と佐々木さんはすぐに帰っていった。私は先輩の連絡先でももらおうかな、なんだか思ってたより全然常識的だし。
「多賀先輩、よかったら連絡先交換しませんか?」
「なんですって!?ずるい!」
綾ちゃんが凄い反応した。
「あ、ああ。そんな目くじら立てなくても、綾ちゃんもいいよ?」
そう言うと綾ちゃんは文字通り両手を上げて喜んでいる。そんなに?早まったかな……。
「良いのかい?勘違いしちゃうよ?」
「あっ。勘違いされるにはその、まだ、早いですけど。またお出かけするって約束もしましたし?」
「ははは、『まだ早い』……か」
ああっ、なんで『まだ』とか『早い』とか言っちゃったの。まるで脈有るみたいな言い方。
私は二人とメッセージアプリの連絡先を、綾ちゃんとは電話番号も交換した。
それにしても私の反応さあ。相手は男だって、しっかりして……。絶対神様のせいよ、じゃなきゃ説明つかないし!
「よかったら、3人で夕食でもどうだい?もちろん私が持つよ」
「えっ、いいんですか!行きます!」
今度はどんなところにつれて行ってくれるのだろう、つい期待してしまう。
しかも綾ちゃんまで一緒で良いというのは、気が少し軽くなって良い。
「私も誘ってもらえるのは嬉しいんですけど、お腹が……。もう今日晩御飯要らないくらい」
ああ、たしかにそうだった……。じゃあ多賀先輩とまた二人?
しかし一度お誘いに乗ったのでなんとも断りづらい。
でも、二人っきりで晩御飯とか、え?夜の街に繰り出しちゃったり?いやいや、補導されちゃうって。
でも若い男女が晩御飯終えて即解散する?
でもでも、一回目の、しかもダブル(?)デートでとかまだ早いっていうか……。
いやいや、それ以前に私はそんなに女に成り切っちゃってるの?いやあどうかな、女子高生っていうよりこの思考は思春期の男子高生そのもの……?いやもうそんなのはどっちでもいいよ!
「はは……。なんだか色々考えちゃってるみたいだね。ごめんごめん、急な誘いだったし、無理にとは言わないよ」
ななのよこの余裕。はあ、多賀先輩は男子高生っていうより大人の男性って感じだなあ……。
「お姉様、百面相が面白かったですけど、今はまた副会長にホの字ですか?」
はっ……。
「な、ないない。何言ってんのよ。私はちょっと勉強ができる孤高のラノベオタクよ。こ、恋とか無いから……」
男相手にあってたまるものですか……!そうよ、それならいっそまだ綾ちゃんでも恋人の体にしたらいいんじゃない?
そうね、それがいいわ……!
「……そうですね。じゃあ、またの機会があればにしますね。多賀先輩、また月曜に」
「ああ。その時を楽しみにしているよ」
「綾ちゃん、駅まで一緒に帰りましょ」
ああ、一緒に帰ろうと誘っただけで綾ちゃんめっちゃ嬉しそう。
お腹は大丈夫かとか、もしかして追いかけてたの?とか(人のことは言えないけれど)、ドーナツ何を食べた?とか、もう一度お腹は大丈夫かとか。……やはりお腹は大丈夫じゃないらしい。
そんな話をして間をもたせ、律儀にも先程の場所で見送ってくれるようなイケてる多賀先輩が見えなくなるくらいまで歩く。
そろそろいいかな。
「綾ちゃん、私のこと好きなの?」
「わかりません。好きというか百合の世界に身を投じたいだけかもしれませんし……。でもなんとなくお姉様かなって」
私だけってわけでもないのかな。
「他の子だとどうなの?想像してみてよ」
「……う~ん…………。なんか嫌ですね」
これならまあ、ありかな。
さすがに私も自分の事情で私を欠片も思ってない相手を巻き込むのは気が引けるからなあ。
「じゃあ、つきあってみよっか」
「ええ、そうですね」
あれ……反応薄いな。もっと『えぇぇぇ——!』みたいなのを期待してたのに。
「じゃあ、よろしくね。私の彼女さん」
「はい。よろしくおねがいします?彼……女……?————どぇえええええええええ!?」
いきなり過ぎて頭に入ってこなかったのかな……。遅れてそんな反応。
「かかかかかかかかかか、かのかの、かか、かのじょ——————!お、お、お姉様が彼女ですか!お姉様って呼んだら良いの?理香って呼べばいいの……!?」
「……二人の時だけは、お姉様って呼んでもいいよ」
それくらい、サービスしてあげよう。
「ひゃあああ!本人公認されちゃああああ!!」
欲を言えば、もうちょっとまともな彼女がよかったかな……。
「夜にお姉様おやすみなさいとかメッセージしたり、ふとした時にお姉様から怒られちゃったり、それこそ二人でお出かけしちゃったりするんですかうひゃあああああ」
「そうね……まあ綾ちゃんが怒られるってあるのかな」
むしろテンション上がりすぎておかしくなってる今がその時かな?
「綾、そろそろ静まりなさいな」
綾ちゃんの右肩に手を置いて左側からボソリと一言。
さすがに演技臭かったかな……。
「……」
あ、でも綾ちゃん静かになったわね。
「………………」
綾ちゃんは視線をほとんど動かさず同じペースで歩き続けている。
違うわこれ。綾ちゃんはサービス効きすぎちゃって放心してるだけだった。
大丈夫かな、来週から……。




