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第30話 トライアングル、ダブルデート(6)

 前を向けばひたすら自分の言いたいことをおかしなテンションで話し続ける多賀先輩。

 お姉ちゃんはなんでこんなのでほだされそうになってんの?

 左は向くまでもなくボディタッチしまくりの佐々木先輩。

 この人、最初の態度はどこへ行ったの。

 何がって、この佐々木先輩の猛攻で、俺の心身が混乱状態へ陥ってることに一番まいっている。

 お姉ちゃんに助けを求めはしたけど、お姉ちゃんも咲恵と宮本さんで手一杯の様子が見えた。

 姉弟揃って周りに振り回されているというのがなんとも情けないなあ。

 とりあえず佐々木さんは大人しくあ~んされてしまうとして、この多賀先輩をどうしよう……。

「あの、多賀先輩。ほんとその話はいい間違えただけなんで、忘れてもらえませんか。認める認めないの話じゃなくてですね……」

「ふむ……?理由としては苦しいが、まあそれは良いとしよう。だがいつでも私のことを義兄と呼んでくれてかまわんよ」

 義兄って。お姉ちゃんと結婚するってことでしょ。そりゃないと思うけどな。中身元男なんだし。

「それは、お姉ちゃんと先輩が決めることなんで。そもそも先輩まだ彼氏ですらないでしょう」

「はははは!そんなもの、あっという間に恋人同士で気がつけば同じ墓の中さ」

 そう、それはよかったね。こういうぶっ飛んだ所、俺は好きになれなくて毛嫌いしていた。

 あ、佐々木先輩はいいこと思いついた。

「あの、佐々木先輩」

「なあに?」

「あまりにしつこいと嫌いになりますよ」

 その一言で彼女は椅子を元の位置へ戻し、姿勢を正して俯いてしまった。

「好き嫌い以前に佐々木先輩の事あまり知らないんですよ」

 ……理香としてはほぼ毎日グラウンドで見る機会があったけど、理久としては顔を合わす機会なんてなかったはず。

「どこで俺のことを……?」

「……一目惚れって、あるのよね」

「は……」

 この人、一目惚れだけでここまで積極的にアタックしてきてるの?怖いんだけど。もっと知られたらどうなってしまうのか。

「最近あなたが陸上部に入ってその容姿、体つき、部活に真剣に取り組んでいる所を見て……。気がついたらあなたに夢中で部員から怒られるほどに」

 そこまで言うと先輩はコーヒーを一口、一息ついてさらに続けた。

「部活が終わってからもあなたのことを追いかけてたの。……あ、でも駅までよ?それ以上はさすがに、ね」

「ストーカー気質じゃないか」

 すかさず多賀先輩が一言。俺もそう思った、怖い。

「川田さんを追いかけてばかりのあなたに言われたくないわ!」

「私は正々堂々、正面からだ。そのように隠れて追いかけるなんてしない」

「相手が嫌がっているならどっちもどっちですよ」

 両方に追いかけられてる(られていた)俺はそういう気質でもあるのか……?

「嫌がられてなどいない!」

「嫌がられてなどいないわ!」

 自分の物差しでしか物事を見ることが出来ない人たちかな。

「少なくとも佐々木先輩、俺はそんな風にベタベタされたら嫌なんで。せめて咲……藤島さんくらいの軽い距離感が良いですね、俺は」

「なになに?あ~しの事褒めてる?っていうか今あ~しの事名前で呼びそうになってた?呼んでくれるの?いいよいいよ!」

 なんて二人に言ってたら左の端から咲恵が話に入ってきた。よく聞こえてるな……。

「軽い……」

「距離感?」

「これは違います」

 先輩たちに誤解を生みそうなので否定をしておく。ええい、面倒だなあ。

 そもそも咲恵も距離感は軽いけどグイグイくるタイプだった。

「まあ、私の方は理解したよ。これ以上無理を言って弟君との関係を悪くするのは、この先を考えると得策ではないからね」

 多賀先輩は足を組み直しつつそう言って、ココアを一口。イメージだとコーヒーしか浮かばないのに、ドーナツ食べながら甘いミルクココアを飲んでいるのが似合わない。

「川田さん、顔に出てるわよ。ココア似合わないな~って思ってるんでしょ」

 とかなんとか、わざわざ体をこちらに倒して顔を耳元に寄せて言う必要あります?

「ああ、これかい?実は苦いものは苦手なんだ……。だったらわざわざ苦手なコーヒーに砂糖を沢山入れてまで飲むこともないだろう。コーヒーにとって失礼だと思ってね。私にも、コーヒーにとっても良いことがないから」

「とかなんとか言って、甘い物好きなだけじゃないですか?」

 多賀先輩のトレイの上はクリームやらチョコやらとにかく甘さを重視したものばかりが置かれている。

「否定はしないよ。でも人だってそうだろう、苦手な者同士が必要以外で一緒に居ることはない。特に学生のうちはそう思うよ」

「コーヒーは多賀くんの事苦手って言ってるの?ほら耳を傾けてみてよ……『ボク、ソンナコトナイヨ』」

「それで?君は私にそのコーヒーを渡して『あっ、関節キス……』とか定番でも演じるつもりかい?あ~、やだなあ。オタクがすぐそういうの憧れてるとか思われるのは嫌だよ私は」

 ……何この二人、普段はこんな感じなの?

「仲いいですね。いっそお二人が付き合われては?」

 私と理久も解放されてウィン・ウィン・ウィン・ウィンだ。

「馬鹿なこと言わないで……!こんなのありえないし、そもそも私はその……あなたに一目惚れって。言ったでしょ……?」

 何この自信なくしていく姿。ちょっと可愛いとか思っちゃった。いや待てって、俺までお姉ちゃんみたくその場の相手に流されちゃダメ。

「私もだよ。学友としては嫌いじゃないが、付き合うなんて……はっ、考えられないね」

「あ、あなた人を鼻で笑ったわね!いいわ、あなたの分のコーヒーも買ってきてあげるから鼻で笑ったのを許してあげるわ」

「そんなものは結構だ。許してもらう必要もないからね」

 …………やっぱり、絶対仲いいでしょ。

 もう放っておいて他の人と話したいけど、俺は角の席だからなあ……。

 なんでこの席なのよ。せめて俺が咲恵と佐々木先輩の二人ともと接することが出来るようにあるべきでしょ。

 この二人だって俺を置いて盛り上がちゃってるしさ……。

 咲恵も向こうで話に夢中だし……、咲恵は俺と遊びたかったんじゃないの!もう!!

 だったら俺の相手をしろよ!

「もういい!俺は帰る!!」

「おっと……。男のヒステリックは可愛くないよ」

「え、川田さんどうしちゃったの。私の所為?ごめんなさい……?」

「理久……、すまん助けてやれなかった」

「ふふふっ……」

「うっ、と、トイレ……!」

 口々に好き勝手言ってくれちゃって。

 そうだよ、佐々木先輩は悪いよ。お姉ちゃんは、悪くないよ、仕方ないよね。 

 咲恵は何笑ってんだ!

 一人は論外。

 俺は鞄を手に取り、トレイをそのままに出口へ向かう。

 感情で動いていると分かっているものの、最悪、お姉ちゃんが片付けてくれる。それくらいを考える冷静さはあった。

「嬉しいよ、理久くん……」

 咲恵が笑ったままそう言っているのが聞こえた気がした。

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