第28話 トライアングル、ダブルデート(4)
「川田さん、大丈夫かい?さきほどまでどこか上の空だったように見えたけれど、無理はしていないかい?」
第一投を終えて戻ってきたお姉ちゃんに、多賀先輩が心配してなのか下心からなのか声をかけた。
「あ……、多賀先輩……。ありがとう、大丈夫ですう……」
それを受けたお姉ちゃんの表情が緩んでいる。なんなのその表情!?お姉ちゃんは何その反応!
「理久くん?あっちのグループばかり見てないで~、私と遊んでよね」
「わ、私もいますからねっ」
咲恵と佐々木先輩……。そうだった……、なんだかモテてるっぽいんだった。理香の時はそういうことも、運動部の男子連中と、多賀先輩……はどこまで本気だったのか分からないけど、少なからずあった。けど、まだ理久に、男になって間もないのに女子に言い寄られて心動くかというと、そうはならないなあ。そもそも男子が女子にいう好きってエロい目線でしか見てないんじゃないの?
順番が回ってきたので立ち上がる。15ポンドボールを手に取り思い切り投げた。
ボールはまっすぐに勢いよく飛んでいき、ピンを9本倒した。ボールを取りに戻りながらふと想像してみる。
もし、俺が……咲恵と……?
「おい、咲恵、ちょっとこっち来いよ」
「理久くん……?もう授業始まっちゃうよ?」
だから人が少なくていいんだろ、なんてことはあえて言わない。
「ど、どこ行くの?」
なんていいつつ、咲恵がまんざらでもない表情を浮かべているのはバレバレだよ。俺は咲恵の手を引っ張るように屋上へ向かう。
「今なら誰もないぜ……いいだろ?咲恵……」
「理久くん……」
——チュッ。
な、ないわ~。ないない。想像してみたけど笑っちゃいそう。
気がついたら2投目がガターで終わっていた。
「惜しかったね~!」
そうだ、面倒だし二人に具体的にどうしていのか聞いてみよう。今佐々木先輩が投げてるから、まずは咲恵に。
「咲……藤島さん、今日俺と遊びたかったみたいだけど、具体的にどうなりたいの?」
そう聞くと、咲恵はポカンとした。
「え……?どうって、付き合いたいとかってこと?今は特にないよ~!でも二人で出かけたら楽しいだろうなって、そう思ったから誘っただけだよ!ま、そういう事の先に自然と付き合うとかないとかがあるんじゃない?」
「ふうん……?」
えらくふんわりしてるなあ。遊ぶだけならいくらでも付き合うけどさ。
「そういう白黒はっきりつけるのって男子っぽいよね?理屈っぽいっていうか」
え……そうなの?理香の時からそうなんですけど……。男子っぽいとか思われてた?
「ま、そういうこと!楽しく遊ぼ!」
そう言った彼女はレーンに向かって行き、入れ替わり佐々木先輩が戻ってきた。
同じ質問をしてみる。
「えっ……それは手紙に書いて……。ああ、読まれてないんでしたね……」
あっ、そうだった。さきほども「付き合ってほしい」って言ってたっけ。
「そうだった。でも付き合うって具体的にどういう事で何がしたいわけ」
「え?何って……。ちょっと休憩時間に話したり、昼ごはん一緒に食べたり、勉強一緒にしたり、放課後デートしたり。ああ、私達運動部だから放課後デートは難しいか」
そうだな、部活は優先したい。
「あとは……うん。なんでも、…………私なんでもしてあげちゃうよ?」
そう言いながら顔を真赤にした佐々木先輩は俺の片手に両手を添わせてきて、すりすりとこすり合わせてきた。この先輩……そういう事もするってこと?
さらには座っていた位置からおしりを浮かしてこちらに寄ってきて、体全体の体重を預けてきた。
「ねえ、川田くんさえよければ、二人で抜けちゃってもいいんだよ?」
そして、耳元でこのように囁いた。なんだか昼出会ったときと印象と違う!もっと怯えてそうだった印象の先輩はどこ!?この場、というか先輩から逃げ出したい!
「ちょ、ちょっと先輩なにしてるんですか!理久くんもデレデレしてないで!」
ああ、渡りに船、助けて咲恵~。って、俺デレデレしてる……?
——んん!?なんか心拍数が上がってる気がする。それだけじゃない、なんだか下半身に違和感……。
あっ、これは……勃起……?
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる!」
このような事は未体験なので、とりあえず冷静になるまで隠れておくことにしよう……。
「…………はあ」
トイレの個室で英単語アプリでもやっていたら心が正常になってきた。大きくなって異常をきたしていたものも戻った。
はあ、おどろいた。せめて朝勃ちとやらを先に経験してれば、体の面では理解できていたのに。
どうするのが正解なんだと考えながら二人のもとへ戻ることにした。
しかし、佐々木先輩が目に入ると先程の先輩を思い浮かべてしまい、またドキッとしてしまう。
一歩、また一歩と近づくごとにまた心拍数が上がっていくのを感じる。
なにこれ……どうしたらいいの……。
私、分からない。こんなの分からないよ……、お兄ちゃん助けて……。
向かう方向をもう一組の方へ変えて、そちらに近づく。
「お兄ちゃん……」
「お義兄ちゃん?私のことかい……?ははは、弟君は気が早いなあ」
「お兄ちゃん……」
私はそれを無視してお兄ちゃんの袖を掴んだ。
「理久!?」
「お兄ちゃん、助けて」
涙を浮かべながら助けを求めた。
「なっ……、いいから来て!」
私は手を引かれるままに非常階段の方へと連れて行かれた。
「お兄ちゃん、私、どうしたら」
「いいから落ち着いて、私はお姉ちゃんよ」
お姉ちゃん……?ううん、私にはお兄ちゃんがいるはず。
「お兄ちゃんでしょ?」
「あ~、じゃあ今はお兄ちゃんでいいから。どうしたのよ」
私は説明する。
佐々木先輩が寄ってきてからおかしくなって、その後落ち着いても佐々木先輩を見るとまたおかしくなってしまうと。
「……はあ、そっちにも未知の体験があったか……。とりあえず思い出してほしいんだけど、私の姿をよく見て?」
お兄ちゃんの姿……。身長145センチ程度の身長に華奢な体つき、それに見合わぬバスト……。そのせいで胸からウェストくらいまで生地が張っているワンピース……。
ああ!?
「お姉ちゃんだった!」
「意外と私は頼られていたんだね。理久の頃は「オタクキモ」くらいに思われていたのかと」
そんな事無かった。勉強はできるし、いざとなればいつもしっかりしているのは以前の理久の方だった。
「で、それなんだけど……、どうしようもありません。慣れましょう。思春期の男の子特有の現象です。理久は特にそういうのに慣れてないから余計反応するし、余計うろたえるんだと思う。家に帰ったら私の選定するマンガや本を読もうね。写真集も動画も付けてあげようね。どれも電子じゃなくて物理媒体だからプレイヤーも貸すね。解決方法も……きっとそこにあるよ」
「え、ああ、そういうこと……。でもなんていうか……」
コレクション多岐にわたってて引くわ。
「ま、今日のうちはあまり気にしないことね。戻りましょ」
気にするなって言われてもなあ。
戻っても「理久がちょっといい間違えてうろたえてただけだよ」なんて無理な説明するし……。
「ははは、気にするな弟君。そこに転がってる娘以上に迷惑になっている者はいない」
そう言った多賀先輩の視線の先では少女が一人椅子に寝転んで唸っていた。
「胃が……お腹が……割れちゃいます……。穴という穴からお蕎麦が出ちゃいそう……」
「綾ちゃん、帰りなよ」
「嫌です!折角ダブルデートの体をなしたのに……!」
全然楽しめてるようには見えないそんな状況だけど、それはいいのか……?
俺は苦しんでいる宮本さんを気にせず、元の席へと戻った。
「ごめん、戻った」
「おっそ~い。どこかで埋め合わせしてよね!」
「私もお願いね」
すっかり1ゲームが終わった自席で、二人が怒っていた。




