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第27話 トライアングル、ダブルデート(3)

「理久く~ん!これ美味しいよ!」

「川田くん、こっちも食べて~」

「あっ」

「ああ!」

 蕎麦屋から出ると、食べ歩きしていた理久たちに出くわした。そうね、ファミレスならとっくにご飯は終わってるよね。

「お、お姉ちゃん……?」

「あ……あれ?理久……。えーっとそういえば咲恵がデートって言ってたね」

「知ってたの!?私知らなかったんだけど」

 えっ、本人はデートって知らされてなかったのね。

 理久の隣の咲恵はわざとらしく他所を見ている。これは確信犯かな……?

「こちらの方は?」

「佐々木さんじゃないか」

 多賀先輩が答えてくれた。

「デートのお邪魔虫かい?」

「違います!私も一緒にです!」

 無慈悲……。

「で、お姉ちゃんは何をしてるの。デート?」

 お姉ちゃんは弟が食われてしまわないか心配で付けてました。……とは言えない。

「弟君はじめまして申し遅れました、私は多賀 岐美(えだみ)。生徒会副会長をしておりますがご存知でしょうか?」

「川田理久です……。あっ……え……?お姉ちゃん?」

 以前理香だった理久は彼に言い寄られた事があると言っていた。つまり私が言い寄られて根負けしたと思っているのかもしれない。

「違うよ、言い寄られて負けたわけじゃないよ」

「え、じゃあなんでデートしてるの」

 ……だよね、そうなるよね……。

「理香もデート?言っちゃなんだけど意外だね~?そういうの興味ないと思ってたよ」

 理久が「無かったわけじゃないけど」と言いたげな表情で咲恵を見ている。

「そう、川田さんからお誘いがありましてね。本日のデートとなったわけです。しっかりエスコートしていますので、安心してください弟君」

「は、はい。よろしくおねがいします?」

 よろしくしないで!

「へぇ……皆さん、楽しそうですねえ……」

 思ってもいなかった方向から声がした。後ろ!?恐る恐る振り向くとそこには……。

「私の理香先輩になにしているんですか……。うぷ……、はあ……、苦しい」

「綾ちゃん!なんだか苦しそうだけど大丈夫!?ああ、咲恵と佐々木さんは知りませんよね、文芸部一年の綾ちゃんです」

 ずっと手をお腹に当てて苦しそうにしている。

「ここから出てきたって事は蕎麦を食べていたのかい?」

「うう、元を取ろうとしたら失敗しました……。というかざるそばが四千円ってなんなんですか……、元を取るために十枚食べようとしたけど無理でしたよ……」

 ざるそば四千円!?十枚目標って綾ちゃんのざるそば設定は最安店舗かな……?

「え、じゃあ私がさっき食べたランチは……。え、そんなの奢ってもらっちゃっていいんですか」

 少なくともざるそばの3倍以上は堅いと思うんだけれど。あまりの価格に驚き、思わず多賀先輩の方を見る。

「あちゃあ。だめだよ、価格なんて考えないで奢られちゃって。私は川田さんに楽しんでもらえたら、それでいいから」

 か、格好いい~。

「誰よこれ?多賀くん、クラスと全然違うじゃない」

「キザったらしい、私は趣味じゃないわ~」

 え、私と思ってることが全然違う。格好良くないの?

 佐々木さんと咲恵が多賀先輩の様子に感想を漏らし、その間にいる理久も目をパチクリとさせている。

 おそらく理久が理香の頃の多賀先輩とは違うのかな……?

「家と、川田さんの前でしか見せない姿、かな?……つまり本当の私さ」

「そんなキザ野郎が私の理香先輩に近寄らないで!」

 ああもうダメだ、綾ちゃんは百合作品好きじゃなくて本人も百合気質だ……。

「この子そういう趣味なの!?」

 佐々木さんが驚いて声を上げる。

「え!え、え?私詳しくしりた~い!」

 手を上げて身体を乗り出している咲恵は綾ちゃんに興味津々のようだ。

「なるほどね、つまり君は私のライバル、ということかな?しかしどうだろう。ここは道路で、さらには店舗前だ。話を続けるにもどこかに入ってはどうだろうか?私としては、また川田さんと二人に戻るのが望ましいが……」

 先輩まともすぎぃ~!

「そんなの許しませんよ、せめて私も入れてください」

 綾ちゃんはそうだよね。それに私としても正直先輩より綾ちゃんの方が、理久の時からも知ってるから安心感もある。もっとも、理久の時の綾ちゃんはこんな変じゃ無かったけれど。

「私はそちらとは別でもいいですね。川田くんとさえ一緒ならそれでいいので。むしろ川田くんと二人がいい」

「それは私だってそう!ね~、理久くん」

 この二人は理久にそもそも声かけているのだからそりゃそうだろう。

「俺は……、お姉ちゃんとかと一緒がいいかな」

 理久、余計なこと言うんじゃないわよ!丸く収まるはずだったのに。

「じゃあ私もみんな一緒がいいかな~」

「あ、私もです!」

 この二人はそんなに理久がいいのか……。

「こう言ってますし、別に一緒でもいいと思いますが、どうですか先輩。私から誘っておいて申し訳ないですが」

「構わないよ。こういうのはダブルデートというのだろう?人数が変則的だが……」

 6人いるのにトリプルデートではなくダブルデートとは一体……。

「男女比もおかしいですけどね」

 と、綾ちゃん。さすがに当人を除く全員が「それをお前が言うのか」という顔をしている。綾ちゃんがせめて男なら、普通に3対3のトリプルデートなのよ。

「さて場所だが……」

 多賀先輩が周りに案を募った。しかし私と理久、さらには綾ちゃんと佐々木さんも大勢であまり遊ぶことがないなどと、いい案を出せない。

「はい!カラオケ、ボウリング、飲食店でおしゃべり!」

 咲恵は慣れているのかいくつかの案を出してきた。カラオケかあ。この身体なら高音域も出せて楽しそう。それに対してボウリングはボール持てるか不安すぎるんだけど。

「カラオケがいいなあ、飲食店はご飯終わったところだし、ボウリングはちょっと不安……」

「なるほど、川田さんの言うことは真っ当だ。飲食店は外そう。しかし遊びなんだ、カラオケ、ボウリングに関わらず、不安があっても上手にいかなくても、それを咎めることをする者などいないだろう。……なあ、みんな?」

 全員がそう言った多賀先輩に肯定した。中には安堵の表情を浮かべるものや、佐々木さんは「多賀くんがまともすぎて不気味」とも言っていた。もしかして教室では部室と同じ感じなのかな……。だとしたら私はどの先輩を信じたらいいのだろう。

 いやまって、そんな先輩のこと真剣に考えながら先輩の方見つめたりしたらダメだって!ほらなんか微笑み返してくるし!それを受けてなんだか胸がギュッとするような気持ちになってしまう。いやいや……勘弁してほしい。先輩は男だって……。ああ、あっちでは私と先輩を見た綾ちゃんが先輩を睨みつけてる!

 神様!女性になるのは本来の予定だったということでしかたないとしても、もし異性に恋するような心まで持ってしまうのならそんな物はいらなかったです!勘弁して!

 思わず目を瞑って柏手を打った。

 

「呼ばれましたか」

 暗転した空間に突如私はいて、目の前には性別の神が。

「えっ、呼んでないですよ?あ、いえ。別に特定の神にって言うわけではなく、ただどうにもならないことを嘆くために『神様!』とは思いましたけれど」

「おかしいですねぇ……それだけでは私達の様な上位の神が呼ばれることはないのです、が。はあ」

 やっぱりこの男の神様は怖いわ、ため息でやられそう。

 ああ、あと柏手まで打っちゃったからかなあ。

「いえ、それでもまだ弱いです。例えば関連する社で……、とかであればまだあなた達——、今はあなただけですがなら可能性ありますけれど」

「それでなんですか?一応、折角の機会です。聞くだけは聞きますよ?その後は知りませんがね」

「ま、我々も多少の娯楽がほしいのですよ。貴方方を見ているのは、その。面白いので……」

 人の苦悩が娯楽か……。まあいいわ。

「……私、変なんです。もしかすると男性に心惹かれてるかもしれない。でもそれを認識すると気持ち悪い……」

「普通のことでしょう?ああ、普通ではないですね。でもとても優秀じゃないですか」

「そうだなぁ。その調子で人の女として、違和感のない者となるがいい」

 ええ……。本当に聞くだけじゃないの……。じゃあ男っぽく振る舞ったりしたら助けてくれたりするかな……。

「そのようなことは考えないほうがいいですよ、以前説明したでしょう。綻びがでると……と」

「ははは。……それに、最初からその後の事は知らぬと言ったであろう?じゃあな」

 また一方的に暗転した。


「お姉ちゃん、大丈夫?ずっとボーッとしてるけど」

「えっ?」

 声をかけられたことに気づき冷静になろうとすると、なにやら響く音や多くの会話が喧騒となって耳に入ってきた。

 ここは……?

「ああ、大丈夫よ」

 気持ちは大丈夫じゃないけど。

「じゃあ早くボール選んで。もうみんな選んだよ」

 そこはボウリング場だった。神様と相対している間にもこちらの時間は進んでいた……?

「私とか返事してた?」

「う~ん、まあ、してるといえばしてる……くらいの……」

 そっか……。神様が絡んだ時は、まあ何があっても不思議じゃないと思っておこう。理久には後で話そう。とりあえずボールを……。

 理久の時は13ポンドくらいだったのでとりあえずそれを……。とりあえず持って……。

「重たっ!?」

 いや、無理だわこれ。非力すぎる……ちょっとは鍛えようかな……。

 たぶん実行されることはないだろう。

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