第26話 トライアングル、ダブルデート(2)
理久……。あなた初デートが両手に花とか……なにやってるの。
しばらく様子を見ていたけれど、あれはおそらく咲恵ともう一人の女子……聞こえてた名前だと佐々木さん?が、理久を好いているのだろう。理久からは想いが出ていない三角関係とも言える。二人が可哀想だけど、今のままでは二人は報われない。
ひらひら。目の前で手のひらが振られた。
「川田さん?何を見ているんだい……?」
ああ……ずっと向こうの3人を見ていたから……。
「いえ、知り合いが居たように見えまして。でも、気の所為でした」
「知り合い……?おや。あれは同学年の佐々木さんではないか。お~い」
「しっ!しぃ~!静かにしてくださいよ……」
バレたら困るというのに。
「む……。あ、ははぁん?なるほど。いや、まさか。しかし、だとしたらこの身に余る幸せだというものだ」
ん……、この男は何を一人で納得しているのかな?
「どうされましたか」
「いや。川田さん、彼女に嫉妬してるんだろう?」
「はあああああ!?わ、私がそんな嫉妬だなんて」
「ははは、照れる必要はないさ。それもまた女性の魅力というもの。思う存分嫉妬してくれたまえ。嫉妬というのは愛情がないと成り立たないゆえ、むしろ私からすると光栄だよ」
なんなのよこいつ……。あ、3人がファミレスに入っていった。ん?向かいに『おそば』のノボリが見えるけどもしかして……。
「先輩。お昼のお蕎麦ってもしかしてあの店ですか?」
店と言ってもノボリが1本立ってるだけで、普通の焼杉と漆喰の家って感じの見た目だけれど……。
「ああそうだよ。そろそろ行けるかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
むしろ早く行こう。ああ、もう、ほら、早くも理久が二人の勢いにたじろいでる……。
「早く行きましょう!あ、ちなみに窓側ですか?」
「いや、落ち着けるように奥の座敷だが……。窓側が良かったかい?一応聞いてみることはできるよ?」
希望通り窓際のテーブル席に付くことが出来た。窓側と言ってもすだれが掛かっていて表が見やすいわけでもないけど。
店員によって運ばれてた布巾で手を拭き、蕎麦茶をひとすすり。ああ、落ち着くかも……。
しかしこの先輩、二人ならすごい落ち着いた男だと思う。だったら部室での狂った様子はなんなの?
「ん、そんなに私のことを見つめて、どうかしたかい?」
いえ、見つめていたわけではなく訝しげに睨んでいただけですけれどね。
「先輩はどうして部室ではあんなに人にあらずといっても過言ではないほど狂っているようにみえるのに、今はこんなに紳士対応なのですか?」
「おっと、これは厳しい一言……。でも答えは簡単さ。今は君しかいないからね、部活を盛り上げる仮初の姿は不要ということ」
仮初……、本当に?どちらかというと本能丸出しでああだと思っていたんだけど。
「だからこれは、君だけに見せる特別な私さ」
寒っ!?寒気がするわ。いや、寒気は別のところから感じるような……。
気のせいだと気を取り直し、ファミレスの方を……。向こうも窓際だから確認しやすいけど……普通に楽しそうにご飯食べてるな。ちょっと二人から「あ~ん」されそうになってるけど。そういうのは手作り弁当でやるイベントでしょうよ、分かってないなあ。
「おまたせいたしました、葵ランチになります」
そういえばメニュー見てないと思ったらもう決まってたのね。葵ってなんか凄いやつじゃないの?よく知らないけど、松竹梅の松みたいな。
目の前にいくつもの食器と小さいざるそばが置かれていく。
「お蕎麦の方はおかわりが可能となっております。その他御用がありましたらお気軽にお声がけください。それではごゆっくりどうぞ」
向こうはファミレスだから、あまりゆっくりもしてられないのよ。
でも。
「美味しそう……」
「気に入ってくれたようで何よりだよ。この店は味、雰囲気共に素晴らしいのに、なぜかあまり混まないんだ。だから私は気に入っている」
たぶん価格と飲食店らしからぬ風貌の建物が原因ではないだろうか。とりあえず一口、里芋の煮物を食べてみる。
「美味しい……」
なんだろう、普通の煮物よりさっぱりしていて、爽やかな香りが鼻に抜けていく感じがする。
こんな料理を出す店を早く出るのは勿体ない、折角の機会だ、じっくり味わおう。
何、向こうは男なんだ。そんな心配することはないだろう。
「……だったら要らなかったじゃん今日」
「どうかした?口に合わないものでもあったかい?」
「あ、いえ、独り言です。料理は美味しいです」
「よかった。さ、ゆっくり食べて」
その後しばらく他愛のない会話や料理の感想を言い合いながら過ごした。互いにオタク話は出てこなかった。
この先輩、二人でいる分にはほんとに不快感ゼロだわ。爽やかパーフェクトイケメンじゃないの。
そんな事を考えていると、少し離れた席から大きな声が聞こえた。
「すみませーん。蕎麦おかわりくださーい!……元とってやるんだから」
なんだかこの店には似つかわしくない言葉だった。
「そ、そういえば蕎麦はおかわりできるんでしたね。どうしようかな……。食べたい気持ちもあるけど」
「食べたいなら頼んだら?無理そうなら貰ってあげるよ。私は余裕あるからね」
や、優しい~。私が女ならオチてるかもしれない。
「じゃあお言葉に甘えて……」
「まあでも、デザートもあるよ?」
デザート!
「……なんだかお腹が空いてきました」
「はははは。さすがは女性、デザートは別腹ってやつだね」
ああっ!?そうだよ、私女だったよ。じゃあ「オチてるかも」ってオチてるじゃないの。
イヤァァァァァァ!
結局、おかわりのお蕎麦の半分を先輩に託し、私は先輩の分までデザートを食べた。
完全に彼氏に甘える女の子のムーブだね。
ん……。デザートにあんみつと柚子シャーベット食べたからか尿意が……。
「先輩、ちょっとトイレいってきます」
「え?あ、ああ。分かった」
よし、気軽に男性にトイレとか言えるからまだ大丈夫、オチてないし完全に女子になっちゃったりしてない。
いずれならないとダメなんだけど。
あっ、鞄持っていかないと。お手洗いに必要なものがあれこれ入ってる。あまりそういうクセもないから、気をつけないと。
用を済ませ席に戻ると、先輩はカバンに手をかけた。
「じゃあそろそろ行くかい?」
「あ、そうですね」
そう言って先輩についていくと支払いをせずに出ていってしまった。私に全部払えと!?しかもすごい高そう。
「えっ、あの」
「ああ、大丈夫ですよ。既にお支払いいただいております」
えっ。すご。
「彼氏さん、格好いいですね」
そう見える?身長差四十五センチくらいあるけど。
「か……彼氏じゃないです……」
顔から火が出そうだ。




