第24話 おさそいは、自分から
翌日もお腹と腰は痛く、痛みが和らいできて月のものも始まったさらに翌日の午後。体育の授業を見学していたら、咲恵がこちらへ近づいてきた。
「あれ?理香は見学?」
「うん、ちょっとまだ調子悪いから……」
それを聞いた咲恵は。
「は~ん、さてはサボりだね?」
そう見えるかな……。
「うそうそ!冗談じゃ~ん」
「ねえ、私しんどいのだけど……」
「あ、ごめん。でも聞いてよ、私今度の土曜に理久くんとデートするんだ~」
ブフっ!
思わず吹き出しちゃった。理久とデート……?私が理久の時そんな素振り全く無かったじゃないの。
「デートって言うとあれだけど、まあ男女が二人で遊びに行くとかもう、デートだよね」
「そう……かな?でも親友が弟に言い寄る私の気持ちも考えて欲しい……。以前からそうだったの?」
まあ以前そうだったとして言い寄られても、相手しないと思うけど。
「言い寄るなんて、やだなあ。以前から声かけたかったんだけど、話しかけづらかったんだよね。前の理久くんって話しかけるなオーラ出てなかった?あれがね~、近寄れないっていうか?」
ああ、それは私だわ。
「でもさ、最近そのオーラが消えた気がしてね、勇気を持って話しかけてみたんだ~」
「で?理久がOKしたって?」
「そ!ふふー。楽しみだなあ~。あ、結果詳しく報告したほうが良い?食べちゃったらごめんね~」
「勘弁して」
誰が弟のデート内容知りたいと思うのよ。それにどうせなら私が理久のときに誘ってほしかったなあ。私だってそういう普通の遊びとかしたい気持ちもあるのに。
あっ。体育教師がこちらをチラチラ見ている。
「咲恵、そろそろ戻ったほうが……」
アシストをしてあげても咲恵は一向に戻る気を見せないし、おそらく気づいていない。あ~、教師の眉間が厳しくなってるよ……。こっちに来ちゃうんじゃないの。
「咲恵、教師が怖い顔で見てるから戻りなって」
「大丈夫、だ~いじょ~うぶっ!」
「藤島ぁっ!!サボってないではよ戻らんかあ!」
ほらあ。
「う~っす。さーせーん♪」
軽く謝って、咲恵は私に「ねっ」と一言。教師に頭を軽く何度か、まるで反省の色が見えない感じで下げながら戻っていった。
大丈夫っていうのは本人には心理的ダメージ少ないってことなのかな。
「川田姉も見学だからって喋ってないで、ちゃんと見学レポートは書いてるんだろうなあ!?」
手元には白い記述欄が。しかし、短距離走で何を書けというんだ……。みんな走ってるだけだしね。個人についての感想くらいしか書けない気がする。
結局「弟の理久が群を抜いて早かったです」「清水くんが四十メートル時点で息切れしていました」とか「藤島さんは走る気が感じられませんでした」などしかけなかった。
狙って休んだわけではないけど、私のような低い身長と大きな胸、そして筋力の弱い身体。、これではおそらく、走るという行為は向いていないので、休みで良かった。……ということは流石に書かなかった。
理久と咲恵がデートというのが気になって、その後の授業が上の空のままショートホームルームまで来てしまった。こっそり付いていこうかな……。でも一人でそれはあまりに怪しすぎる。いや、どうかな、ラブコメ作品のシチュエーションに毒されすぎかな。二人であることのメリットってなんだろう?それとも一人にリスクがある?
……、後者だね。一人だと追ってる相手の目線がこっちに向きそうなとき、誤魔化しづらいと思う。二人なら話してる振りでもなんでも出来る。
よしそれでは早速パソコン部に行って清水にでもお願いを——。私はすぐに立ち上がり、向かおうとした。
「川田さん?まだ号令掛かってないのに、何を立っているんですか」
担任の教師の言葉に教室中のクラスメイトがどっと笑った。いや~!恥ずかしい!
「理香しっかりしてよ~」
なぜなのだろう、咲恵に言われると腑に落ちないのは。
あと1つ連絡事項がったあと号令がかかり、今度こそパソコン部へ向かおう。……いや待って、清水にお願いするのは理香だと変かもしれない。あまり理香と清水は接点なかったし……。となると咲恵が一番仲のいい相手となるけど、そもそも咲恵と理久を見にいくのだから除外。
理香の友好関係が分からないなあ。陸上部ばっかりで教室……、同学年には深い付き合いの友人が居なかったりして。
となると私が把握していて、付き合いがあるのはパソコン部と綾ちゃんしか居ない。そして清水は除外……。パソコン部後輩はあまり話してないし除外。まだ自然なのは……、綾ちゃんと、私に気がありそうな多賀先輩くらいしか残らない。
多賀先輩もそういう意味で危ないけど、綾ちゃんもなあ。百合本とか見てるし……、考えすぎか。
創作物の好みと現実はまた別。私だってTSして嬉しいかって言ったら、正直嬉しくない……。さらにここ数日で男子は気楽だったなと思っているし。
待ち合わせの時間や場所は咲恵に確認したし、とりあえず多賀先輩にお願いしよう。心に決めるとパソコン部へ向かった。
「おお、今日も来てくれたのかい、川田さん。否!理香!」
「……ええっと、黒子頭巾でも被って自動ドアの動力でもやっといてもらえます?」
来るなりそんな対応されたら、決めた心も消え去っちゃう。
「ようこそ姫」
「姫、今日は来てくれたんですね」
「体調崩してたんだよ、姫は。ね?」
一年二人と清水にまで姫と呼ばれて早くも疲れちゃう……。
「今日松川先生はいないのね」
「ああ、この前は川田さんの紹介のために来てたけど、毎回居るわけじゃないよ。あと俺まで姫って言ったのは流石に冗談な」
そう言った無表情で清水を見つめる。姫扱いされるの嫌なんだからね。
「わ、悪かったって。もうしないよ、俺は」
「ぜひ一年にも徹底して欲しいわ」
一年の二人へ目線をやると、断固として拒否の構えを見せていた。そんなのを出かける相手には選べない。じゃあやっぱり多賀先輩しかいないか。
「多賀先輩ちょっと廊下へ」
「なんだろうか」
「ついてこないでね」
他のメンバーに釘を差して多賀先輩と廊下へ出る。聞かれると面倒なので少し距離も置こうと部屋の入口から離れた。そして先輩に確認する。
「先輩って、本気で私に言い寄ってるって言ってましたよね?」
「もちろんだとも。八百万の神全てに誓おう」
当たり前だと言わんばかりに答えてくる。その気持には答えられないけれど。
「でも私は、先輩のこと全然知りません」
「なんだ、私のことが知りたいのかい?どこからどこまでを知りたい?身長体重から趣味嗜好、夜のテクニックまで教えようか?」
最後のは絶対いらない。
「一方的だとなんですから、ちょっと出かけませんか。そうですね……土曜とかどうです?」
「——んん!?ま、まさか川田さんからデートのお誘いか?」
え、そうなっちゃう?
「いや、デートっていうかちょっと出かけて街中をうろうろしたり話したり……」
「……それは、デートだろう?」
そ、そうなんだ……。あれ、おかしいなラブコメとか恋愛の作品も好きなのに。いざ自分の事になるとそういう意識が抜けてしまってるかもしれない。でも認めるのも癪。
「いえ、お出かけです」
「まあ、それでも私はかまわないが……。一般にはデートだと思うよ」
「あ、はい。デートです……」
呆れてそう言われてしまうと、なんだか自分が情けなく思い、認めてしまった。
うん……?
「どうかしたかい?」
「いえ……なんか視線を感じたような気がして」
「ははは、そんなの感じられないよ。きっと気のせいさ」
ならいいんだけど。
一応その方向を見てみても確かに誰も居ないみたい。気のせいか。
はあ、人生初デートはまさかの男子とかあ……。そういう思いは持ってないから、まだ同性の相手と出かけるみたいなものだけど。
たぶん理久もそうだろう。きっとね。




