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第20話 こだわりが、乱れ咲き

 清水が少し考えてこちらを見た。

「ちなみにさ、姫はどういう作品とか見てるの?」

「結構なんでもなんだけど……って姫って言わないで!」

「姫」

「姫ちゃん」

「姫!」

「姫様!」

 拒否したら、逆に次々と姫呼びしてくる。

 諦めて慣れるか、辞めるかしかないのかこれ……。

「……そうだね。ラノベはよく読むし、アニメも見れば、漫画も読むよ。あ、TS美少女アイドル道シリーズとか大好き!パソコンは……ゲームしたりは時々だけど、あまり詳しくないかなあ」

 現実問題変わってしまった今となっては、微妙な気持ちになる漫画だけど。

「なんか理久のやつとほぼ……いや、全く同じ趣味してんな」

 あっ、ヤバい。そうなっちゃうの忘れて素で趣味言っちゃってた。適当に言い訳しよう。

「あー。理久が見てるの見てたから。でも理久はもう興味なくなってきたっぽいよ」

 さらにはさり気なく今後の理久をフォロー。ああ、私はなんて優しいお姉ちゃんなんでしょう。

「TS、良いわよね。先生も好き。でもどうして男になるTSって少数派なんでしょうね。先生もTSして心のアレを実際のアレにしてみたいです」

 何を言ってるんだこの先生。

「松川先生。それはちょっと……」

 多賀先輩に言われちゃってるよ。

「TSの醍醐味とはそんな物理的なものではない!」

「えっ、なんか始まった……」

『あぁ……』

 一年生と清水からはため息が漏れた。

「TS物とは!そんな物理的な変化に注目するものではない!もっと内面を、心理描写を重視したものこそが良きTS。だから『TS美少女アイドル道』は無印しか認めぬ」

 無印は序盤の日常生活表現において身体の変化をネタにした部分はあるけれど、その後は内心部分の表現が多い。アイドルとしての成功を重ねていくほど、元の男性としての気持ちと女性アイドルとしての気持ちが矛盾し、心のなかでぶつけ合う部分は私も好きだ。しかし……。

「認めないは言い過ぎでしょう!続だって少しはそういう部分もありますし、何より男性化TSの外面表現は他にあまりなくて好き」

「ですよね~!先生も『続』は好きですよ~」

「ふん。あんなものは所詮まがい物だし、そもそもあの男性化は普通ではないだろう。男性化というよりは男性に戻った説があるではないか」

 あ、でたでた。前作の主人公説。

「公式が肯定してないものを議論の場に持ち出さないでくれますか?先輩は信憑性の無いデータでも鵜呑みにしてしまうタイプですか?あ~、意外と残念な方だったんですね~。それもあって所詮副会長なんですね」

「なっ、川田さんと言えどもその言い分は見過ごせんぞ!だが……、それすらも私はあなたへの愛を持って正しく導いてみせようではないか。その言い分も、『続』への見解もね」

「そもそもその愛とやらを私は受け付けておりませんので。どうも愛を受け付ける窓口の営業時間ではないようです。あ~、残念ですねえ」

「川田さんってこんな人だったかな……?」

 おや、いいね。諦めてくれるかな?

「なんだか川田が理久に見えてくる……」

 まずい、話す内容でそう認識されるのは予想外。

「だが、それもいい——!」

 多賀先輩は先輩で何を言ってるのよ……。

「しかし、窓口など私の愛を持ってすれば、いとも容易く崩れよう!」

「多賀先輩って、これって本気で私に言い寄ってるんですか?それともそういうネタ?」

「本気だ!以前から言っているではないか!?」

 私自身は理香の以前をすべて知っているわけではないのでなんとも。

 それに、TS作品に対する考え方は割ともうどうでもよくなってきている。なぜなら内面はどの作品よりも強くこの身を持って感じているのだから。身体の変化もね。

「ストップ、ストップ」

「なんですか先生」

 松川先生が多賀先輩を止めて先輩が不機嫌に答えた。言い争いを止めるだなんて、なんだかんだ言って、先生なんだね。

「それ以上姫ちゃんに言い寄るのはだめですよ~。この部全員の姫ちゃんですからね?」

 ああ、ダメだ。これは松川先生と多賀先輩で堂々巡りを繰り広げることになるんじゃないだろうか。この場は逃げる方が良さそうなので今日のところは退室することにする。

「私は文芸部にも行きたいので、今日の所は失礼しますね。次はできれば松川先生と多賀先輩が居ないときに来たいです」

「ああ、そういう日がありそうなら、俺から理久に伝えておくよ。割とあるから、安心してくれ」

 ありがとう清水。

「じゃあお先に失礼しま~す」

 そう言って出入り口の方へ振り向くと。

 ガラッ、スパァーン!

 また自動ドアだ。それもすごい勢いで開いた。

「なんなの……。えっ?綾ちゃん!?」

「理香先輩……、いつになったら図書室来るんですか?ずっと待ってるんですけど」

 バン!

 入口前の廊下に居た綾ちゃんが、開けた扉を拳で叩きつけた。

「理香先輩は私と二人っきりよりも、こんな変な先生と、残念イケメンな副会長と、その他男子に囲まれているほうが良いんですか?」

「えっ、何言ってるの。ちょっと綾ちゃん怖いんだけど」

 言ってる内容が怖いのに、顔は笑っていて余計怖い。満面の笑みな綾ちゃんとか初めて見たかも。

「君、初対面で残念イケメンとは……、言ってくれるね?」

「わ、私も変ではありませんよ!プン!!」

 2人よりも、その他扱いされた3人のが可哀想だと思うけど。

「私は、理香先輩しかお話できる相手がいないんですから、私のこと優先してくださいよ……」

「私はおしゃべりなんかより、本が読みたいのだけれど」

 それが、私の一番好きな時間なのに。

「ハハハっ、君も相手されていないじゃないか」

「いや~!いい気味ですね!!」

 多賀先輩はともかく、松川先生はどうなの先生としてその言葉。

「ふ~む、松川先生にはまた教育者について説かないとだめですか……」

 綾ちゃんの後ろからまた別の声が。

「あ、そうだ忘れてました。私、ついでに、教頭先生が松川先生を探されていたので、お連れしましたよ」

「ありがとう宮本さん。……松川先生、あなた教師以前にそもそも大人としても怪しいですよ。はい、会議の時間ですから行きましょうね」

「あ……、はい」

 二人は職員室へと向かい、その場から消えていった。

「じゃあ今度こそ私も」

 ガラガラ——。

 扉を閉じて綾ちゃんと図書室へ向かう。ここに時計は無いけれど、ここへ来てからまだ三十分も経っていないと思う。

「今日は静かに本読もうね」

「はい!」

 本当に分かってるのかなあ。理久だった時とはまるで違う、昨日今日の綾ちゃんを見てると、とても信じてあげられない。

 

 しかし図書室についた綾ちゃんは、先程までとは違い静かに本を読んでいる。よかった、私も本を読もう。

 綾ちゃんは先週と同じ本を読んでいるようだ。恋愛ものって言っていたっけ。私は今日、古そうなラノベを。

 しばらくすると、綾ちゃんがすっと退室した。本は置いているから……トイレかな?

 そういえばなんて本を読んでるのかな、文庫サイズだけど。恋愛って言っても新書が文庫になった物からラノベまで幅広いだろうし……。

 私は、良くないと思いつつその本を手に取ってしまった。

『禁断の3人~百合、乱れ咲き~』

 え~と……。百合?

 見なかったことに……いや、まだそうと決まったわけじゃない。

 適当なページをめくってみる。

『お姉ちゃん……、私でいいの?

 そう言った真里の頬は赤く染まっていき、目は潤み始めている。

「もちろんよ。でも……、あなただけじゃないの」

 その言葉に驚いた真里の後ろで扉の開く音がした。扉の音に続き、床を叩くヒールの音が聞こえてくる。誰だろうかと振り向くとそこには——』

「きゃあああ——!」

「ひぃぃぃぃぃい!?」

 何、何!

「理香先輩!何人の本勝手に見てるんですか!変態!スケベ!」

 ご、ごめんなさい……。

「綾ちゃんこれ……恋愛っていうか……」

「ええそうです、百合物ですよ。恋愛には変わりないじゃないですか、いいじゃないですか。異性との恋愛はいいのに同性はダメとか誰が決めたんですか?ましてや創作物ですよ、楽しく見れるならそれでいいじゃないですか。だめなんですか?どうなんですか?そんなこと言ったら理香先輩だってどん……」

 そう言う綾ちゃんは、すごい早口でまだ喋り続けている。その事自体に驚いてあまり内容が入ってこない。

「お、落ち着いて綾ちゃん。誰も悪いなんて言ってないから」

 世の中の男は百合とTSが大好きなんだよ。(私比)

 

タイトル変えてみました。

とりあえずTSって分かったほうが良いよね……

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