第2話 何したの、無責任な神様
気持ち余裕出てきたので予定から繰り上げます。
次回は遅くとも6/6更新予定(希望)
視界がひらけたとき、私は、暗闇の中にいた。それでも視界がひらけたとわかったのは、眼の前に鳥居が1つあったから。隣に兄が居たから。
その鳥居がゆっくりとこちらへと動き、前から後ろへといったタイミングで急に目に光が入ったと思ったら、そこには社と左右対称のサイドポニーテールのお姉さんとお兄さんが立っていた。
「私は双子の神。二人には謝らねばなりません」
「そちらも二人いますけど、どちらが双子の神様なので?」
「二人ではありません。私はこの姿で一柱の神です。ところで、今日おかしなことがありましたでしょう?あれらは私による問題なのです」
神様は兄の問いに対して答え、さらに重要なことを付け加えた。
「神様のせい……?」
「正確にいえば、今日のことは追加の失敗であり、最初の問題は17年前です」
双子の神様が説明を始めようとしたところで、その顔が青ざめていくのが見えた。
「え……ちょっと?えぇ!いや困るんですけど、最低限説明させてくださいよ!ここじゃダメ?」
私たちが一人で慌てたり騒いだりしている神様を見ていると、その顔が改めてこちらを向いた。
「すみません、説明するつもりだったんですが、時間が無いようです。とりあえずあなた達を元の記憶と人格に戻しますが、身体が変わってます。そしてそれが正しい姿で、今言えるのはそれだけです」
「つまり私はやはりこの低身長ではなかった?」
制服的にも、なら納得がいく。
「まぁ、えぇ」
しかし神様はあまり歯切れのよい返事を返さない。
「それではまた。いずれ説明できる機会と場があれば良いのですか……」
そう言う神様の姿は消えていき、視界が元へと戻っていく――。
「無責任がすぎる!……ん?」
そこは図書室だった。自分の責だといいつつ何も話してくれない神様ももう居ない。
曖昧に感じていた違和感が、記憶が晴れていくことで確信に変わっていく。
そうだ、私は高身長でスレンダーな体型だった。中学から誘われたから始めた陸上を5年間続けていたことで、かなり体力がついていた。コロッケはクリームより牛肉派で、ご飯と合わせず単品でいただくのが好み。運動に力を入れすぎた結果勉学は得意でないし、高校だってギリギリで入れた。
ましてや図書館に入るようなことはこれまでなかった。
慌ててガタリ音を立ててと立ち上がる。目の前の女の子に睨まれたので謝っておく。
「今日はもう帰られるんですか?」
「え……?」
話しかけられるとは予想外。でも確かに、とりあえず兄に会わないと。帰るねと一言告げてその場を去り、走った。
グラウンドに向けて走った。
とても速かった。かつてこんなに早く走れたことがあるだろうか、まるで全身の筋肉が数段階強くなったかのようだし、ストライドも大きく走れる。速すぎて流れる景色に怖さを感じるくらいだ。これよこれよ、これが本来の私!
「お兄ちゃんどこー?」
叫び、呼び掛けながら走る。叫べるくらい体力に余裕もある。下駄箱の、ちょうどグラウンドの入り口が見えたところでこちらを見ている女の子の姿が目に入った。部活のジャージを着ているが見慣れない子。誰だろうと思いながら横を通り抜けるこにした。
「おい理香」
後ろから、可愛らしい声が私を呼ぶ。振り返ると先ほどの子がこちらを見ている。
「理香、俺だよ。理久だ」
「お兄……ちゃん?女子……?」
なんだか女の子にしか見えないけれど、その子は兄だと名乗った。
「お前……、気付いてないのか?俺はどうしたらいいのかと頭抱えてるのに」
「元に戻ってると思ったけど、お兄ちゃんは違うね、かわいいよ?」
そう言った時、男子生徒が一人脇を通った。
それをみた兄(?)はため息をつき、声を潜めた。
「俺のことは里香と呼べ、俺はお前をお兄ちゃんと……呼ぶ」
言いながらうなだれていく。えぇと、私が兄で兄が私?
男子?私今男子なの?
「え!本当に入れ替わり的な?」
兄は首を横に振る。まあ入れ替わりではないかなと私も思う。全然姿が違うし。変わらないのは双子であることがある程度わかる似た顔つきくらい。
「たぶん違う。けど、とりあえず今日は帰ろう。帰り道は黙ってな」
この話をするなということだろうか。幸いにも鞄は手元にあるのでこのまま帰れる。
あっ。
「理香、部活に帰るっていわなくていいの?言わないとだめだから、あの子にこう言ってほしい。ちゃんと女子っぽい感じでね」
自分の名で相手を呼ぶとかなんだか歯がゆい。後半からは声を潜めて言った。それを俺が女の口調で言うのか、と顔しかめた兄、もとい理香である元の私でもない別の姿の女子が、部活仲間の方へと向かっていく。
「咲恵ー」
俺は理香の友人に呼びかけた。理香以外の女子の名前を呼び捨てで呼ぶのは初めてのことなので、変に力が入る。
「あ、理香。もう始まってるよ?先輩怒ってるかもね~」
呼びかけた咲恵という女子は地面に座って柔軟体操をしながら、冗談めかしくそういう。
「そ、それなんだけどさ……」
「もしかして今日やっぱり体調悪い?今日は帰る感じ?」
「あ、うん。そうなの、帰ろうかしら」
こんな口調でいいんだろうか。
「え…………?」
柔軟を中断した咲恵が怪訝そうにこちらを見上げえくる。何かまずい事があったろうか?
「理香、なんかやけに女の子っぽいね。いつももっとガサツな感じじゃん」
ええ……。俺の頑張りは一体なんだったのか。
「あ、体調悪くて気持ちまで弱ってるのかな?」
そう言ってきた咲恵に適当に肯定の意を示してそそくさと戻ることにした。これ以上ボロが出る前に逃げよう。
「しっかり休むんだよー!」
「あ、ありがとう~」
そそくさと元いた下駄箱付近へ向かう。戻ると俺の知らない姿の俺が笑いをこらえていた。
「ふふっ、すごくなよなよしてたね」
「うっ、うるさいな!早く帰るぞ」
やりたくてやってたんじゃない!ところで気になることがあるけれど、このあたりに鏡ないかな……。
自分の姿が見てみたい。
「お、お兄ちゃん、鏡って学校にあったっけ」
俺が男子だった頃よりも遥かにガタイの良い相手に問いかけてみる。
おい、理香……?
こいつ、俺がお兄ちゃんと呼ぶって言ったこともう忘れてないか?
「お兄……お兄ちゃん……!お、おい。理香!」
「あ、私。私じゃない俺がお兄ちゃん……。何?」
「鏡ないかな、自分の姿が見てみたい」
興味津々みたいでちょっと恥ずかしい。間違いなく気になっているんだけれど。
「あぁー。手鏡ならその鞄の中に入ってるけど、顔くらいしか見れないよ?大きいのとなると、お手洗いかなあ。下駄箱の近くに姿見くらい置いてくれていいのに」
トイレかあ。すぐそこにあった気がするし見てこよう。
「ちょっと待ってて」
そう言ってトイレに向かおうとすると呼び止められた。
「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん。間違って男子の方行ったら駄目だよ?」
「駄目ってお前。じゃあ女子トイレにってなるけど、なんか悪い気がしないか?」
といってもこの先ずっとこれなら慣れるしかないだろうけど。今日のところはやめとくか。
「うーん、そこのガラス戸に映る姿で我慢するか」
そういって下駄箱から出口へと向かい、開いたままの校舎の扉の前に立つ。
「ちっさ……。ちんちくりんじゃねえか!」
そこに映っていたのは正直高校生にしては小さく細い女子の姿。でもよく見るとアンバランスに胸は大きい。
「ロリ巨乳じゃねえか!」
「ロリ……、何?」
「あ、いや……」
なんでもないです。しかし顔つきはあまり変わらないな。髪は、なんだか元の理香より短いような。長さ的には元の俺よりちょっと長いくらい。
髪以外も、元々俺は、男子にしては小さく細く筋肉もあまりついてないし骨格も丸めだった。なので胸以外はあまり違和感ないなあと感じる。
そう思いながら男子の姿の理香を見ると、元の俺より高身長だった。いや、他の男子と比べても高いのではないだろうか。さらにはその体つき。関節部には骨が主張し、脂肪が少ないのか筋肉が細かく見て取れる。
アスリートか?俺の元の体とはかけ離れている。髪が長くて邪魔そうだけれど。
「なんだか、すごい体してるな、お前」
そう言って改めて足元から顔まで見ながら言うと、理香はニヤリと笑った。
「わかる?すごいよ、この身体。これは走るための身体だよ。神様に会うまでの身体のままだったら絶望だったね」
「待て待て理香、お前その状態で陸上続ける気じゃないだろうな?」
当然でしょ、とばかりに走るポーズをしてこちらに笑顔を見せてくる。
諸問題を何も考えずに、自分のやりたいことだけ考えてるんだろうなと思う。とりあえず帰ろう。
俺も今は何も考えずに帰ることにした。
「あ、ちょっと!お兄ちゃんなんで無視すんの」
……イケメンボイスでお兄ちゃんって呼ぶなって。




