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第18話 元親友は、肉食獣

 月曜日。

 週の初めだと言うのに俺はもう頭がフラフラしている。

 昨日は朝起きてからご飯やお風呂などと言った時間を除けばほとんど、お姉ちゃんによって勉強させられた。

 幸いにも俺は勉強が嫌いなだけでやれば出来る方だったらしく、お姉ちゃんほどでは無いと思うけれど、理解はどんどんできていった。

 ただ、一日中勉強していたその影響が今朝にも出ているらしく、イマイチ頭がシャキッとしない。それでも、以前の理香の身体より優れていて、以前より伸びしろも感じられる。朝練にもしっかり出たいので起きるしかない。

 キムチ納豆玉子かけご飯を胃へ流し込み、お父さんの用意してくれた弁当を持って家を飛び出る。

 駅までの道をしばらく走り、駅が見えてきた所で、電車が来ることを知らせるメロディが鳴っているのに気づいた。慌ててペースを上げて改札をくぐると、丁度電車の扉が開いた。セーフ!

「あっ、理久く~ん!」

 すると、咲恵が乗っていた。

「いや~理久くんと一緒だなんて嬉しいなー。あ~し」

「……藤島さんが俺とそんな話すことあった?理香と話してたのはよく見たけど」

「ち、ち、ち。本当は理久くんと話したかったから理香に話してただけだよ、なぁ~んて」

 こら。

「そうだ。一週間後にはテスト前で部活休みだし?二人で勉強会しよーよ」

「それならたぶん、お姉ちゃんに教えてもらったほうが良いと思うんだけど」

「え?理香の成績って壊滅的じゃなかったっけ」

 そうですね。その壊滅的な頭脳は今ここにありますけど。まあ昨日でだいぶ改善されたけど。思い出したくもない詰め込みで。

「最近急に勉強に目覚めたみたいで、次は手応えあり、とか言ってたよ」

「もしそれが本当で、仮に奇跡的に理香の勉強が人類のソレにようやくたどり着いたとしても、あーしは理香より理久くんがいいの!」

 酷い……。俺、泣いてもいいかな……。そこまで酷いつもりはなかったんだけど。ちょっと平均の半分も取れないくらいじゃない。

「まあ、俺はいいけど。どこで?教室、図書室、ファミレス。どこでもいいけど」

「あーしの家はだめ?」

 へ?こっちは男ですが。

「えっと、他にも誰か呼ぶって事?」

「二人だけのつもりだよ、邪魔者とかいらないし」

 もしやこれは……!

「藤島さん、もしかして、いや外れたらすごい恥ずかしいから言いづらいけど……。俺のこと狙ってる?」

「えーっ!やだもう!理久くんてば!」

 照れながらバンバン叩いてくる。痛くはないけどさ……。そして「もう」と言って咲恵は続けた。

「狙うだなんて生易しい、食べちゃうんだよ?がお――っ!」

「肉食系……?」

「安心して、い・た・く・し・な・い・か・ら♥」

 本気で寒気がすること言わないでほしい。こっちは女子をそんな風には見られないというのに。

「そういう問題じゃなくてさ……。いや、そもそもこれまで俺にそんな事言ってなかったじゃないか」

 これまで俺、というのはつまり数日前の、性別が変わる前、お姉ちゃんが理久だった時ということ。

「いやあ、接点なくて話しづらかったからさぁ。でも陸上部入ってもう一気に大接近?みたいな」

 大接近しすぎでしょ……、距離感の掴み方壊れてるんじゃないの。野球なら牽制死、車なら追突事故だよ。

 とはいえ、咲恵と話している間はリラックスできるので、勉強一緒にしたりするのが嫌ということはない。

「まあ、勉強自体はいいから、場所はまた考えといてくれる?」

「だからあーしの家……」

 さっきのやり取りしたあとでその選択肢は取る訳ないでしょうに。ああ、でも。

「勉強中にカメラおいてくれるなら良いよ、防犯カメラ」

「えっ!撮影とかしちゃうの!?やーん、理久くんやることが高次元ね♪」

「そうじゃないだろ……!」

 なんだろう、咲恵に反論ばかりしていると、奇しくも自然と男っぽい口調にできる。

 咲恵と頻繁に絡むこと自体は今の状態では都合がいいかもしれない。

 ただ、勉強会かあ。咲恵は俺に教えてもらえることを期待しているだろうし。家ではまだまだお姉ちゃんに叩き込んでもらわないとな……。


「と、いうことがあってね」

 昼休み。お姉ちゃんと昼ごはん。人に聞かれるわけにはいかない話をするから人気のない所を選んだけれど、もし見られたら高校生にもなって姉弟仲良すぎだよな……。

「よかったあ……。理久の時にそんな事されたらあっさり負けてたわ」

「え、なんで?」

 そう言ったお姉ちゃんに何故かと問うと、お姉ちゃんは顔を両手で隠して俯いた。なにその可愛い仕草。でも足開いてるよ。

「お姉ちゃん、足」

「あっ……」

 所作はまだまだ男子だね。

「んー。口にするのもまた恥ずかしいのだけれど。高校生男子の頭は大小あれど下心とエロでいっぱいなんだよ。だから……食って貰えるならはいどうぞ、と」

 なるほど?このまま男として生活して男子と絡む毎日を過ごしていると、俺もそうなってしまうのだろうか。

「そういえば、そういう感情はまだ残っている感じがするなあ。でも相手が男って思うとそれは寒気するけど」

「清水くんとか」

 冗談で言ってみる。

「寒気するって言ってるでしょ!」

「あ、清水くんはともかく。前も言ったけど、理香にすごい惚れてる先輩がいたから、何度か断ってるけどまた来るかもね。……その先輩、顔は格好いいからなあ。お姉ちゃん、コロっといっちゃったりして」

 うん……?

「お姉ちゃん……?どうしたの考え込んじゃって」

「いや……私達の異性への、いや異性じゃなくても恋愛的な好意を抱く感情ってどうなるのかなって思って」

「どうって……?」

 変わるかもってことを言いたいのかな……。

「理久から見て咲恵は元友人で、今は……なんだろう?って感じでしょ。でもさっきも言った通り、以前の理久に対して咲恵がさっき言ってたみたいな態度を取っていたら私はイチコロだったわ。つまり……」

「この先恋愛対象になるかもってこと?」

「下品な言い方すると性的興奮しちゃうかってこと。ああダメだ、男子高校生なんてすぐダメージ受けるんだった」

 ダメージって……。でも、今のところないかな……。

「俺は今のところそんな事なかったかな。お姉ちゃんは?」

 どうってことはないので、逆に聞いてみた。

「お姉ちゃんは。次の体育の時間の着替えで周りの女子に興奮してしまわないか心配です……」

 そういうところはまだまだ男子のままなわけね。

「ダメじゃん」

「もし私が罪悪感でいっぱいになってたら、優しい言葉で癒してほしい」

「最大限罵倒するね」

 にっこり笑ってその場を後にした。

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