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第15話 こまったね、技能差異

「う、臭い……。何?」

 何やら焦げ臭い匂いで目が覚めた。

 もしもがあったら大変なので臭いのもとを探すことにした。

 部屋から出ると少なくとも階下から匂いがきていることが分かった。ということは、キッチンの可能性が一番高いのかな?

 リビングに出ると一層臭い。テーブルには焦げが散乱していた。誰かパン焦がしたって事ね。

「それにしても、テーブルくらい拭きなさいよね……」

 なんて呟きながら布巾を水で濡らして絞る。ああ。自分の適応力が恐ろしい。独り言すらもう口調がしっかり切り替わっている。

「ん?」

 布巾が全然絞れてない。

「うーんっ……!」

 ポタ……ポタ……。

「はぁっ、はぁっ。非力すぎる」

 そりゃあ、理久の時からそんなに筋力ついてたわけじゃないけど。この身体とんでもなく非力だ。

 仕方がないので水気の多い布巾でテーブルを拭き、仕上げにティッシュで水気を取り除いた。なんて勿体ない。

 やれやれ。

 もう一眠りしようと思い、部屋へ戻り布団に入るも、眠れる気がしない。

「頭冴えちゃったよ……」

 もう起きることにした。体を起こしパジャマを脱ぎ、まずは下着をつける。

「…………」

 カップに収めようとした胸を、ちょっと上下に両手で揺すってみる。おお……すごい。適度な重みを感じつつ、その重みで不規則に形を変えている。

 でもなんだかあまり楽しくない。まだなんだか自分の胸とはいえ、胸を触るなんて悪いことをしている気分になる。これ以上はやめておこう……。

 TSモノの醍醐味なはずなんだけど、なんだかいざ自分の身となるとイケナイ事をしている気分になる。

 男だったうちに人の胸を触って見たかったかもしれない。今となってはもう叶わない夢と化しているけれど。

 クローゼットにはお母さんが適当に買ってくれた服があるんだけれど、正直サイズもちょっと大きいし趣味もバラバラ。とりあえずパンツスタイルのほうが落ち着く。中でもそこまで大きくなくて、シルエットもストレートなズボンを手に取る。上は……適当な長袖Tシャツでいいや。

 服、自分で選びたいなあ。ちょっとまだ可愛すぎるのは抵抗ある。

 着替えた後もクローゼットの中を漁っていたけれど、誰かが帰ってきたような音がしたので下に降りることにした。

 降りると理久が汗だくでこちらを見た。

「ああ、お姉ちゃん起きたんだ」

「理久こそ朝早くから走ってたの?朝ご飯は?」

「もう食べたよ。焦がしちゃってマズかったけど」

 散らかして片さなかったのはあなたか。

「帰ってきたなら丁度いいわ。私今からご飯食べたいのだけど……」

「ああ、俺が作ろうか?」

「それでもかまわないのだけど、休みで時間もあるから教えてほしくて。お母さんもまだ寝てるし、他に誰もいない今がチャンスかなって」

 そう言った私を理久が驚いた顔でみている。

「これまでそんな素振り無かったじゃん。料理だなんて」

 それはそうなんだけど、今は事情が違う。

「出来ないと困るのよ、この先……」

「この先……?」

 別に女だから出来ないとダメとかそう言う話ではない。

「あー、お嫁に行った時困る?」

「違う!そんな先の事じゃないし、結婚とかつまり男と……」

「その前に彼氏とか出来て漫画みたいにお弁当作ってあげたりとか……。あ、清水とかどう?」

「ひっ、恐ろしくて考えたくもない!」

 じゃあ何なんだという目がこちらを睨んでいる。

「理香ってさ、お母さんが料理してるの手伝ってたでしょう。……以前の理香ね」

「うん、それが?」

「今の私は出来ないのよ。嗜好が変わるのは不自然じゃなくとも出来たことが出来なくなるのは不自然でしょう」

 恐らく、ここは理香に対する認識として維持されていると推測している。仮に外れたとしても、そうだったときに備えておいた方が良いと思う。

「なるほど、確かに。それなら出来るようになった方が……」

 そこまで言って、理久は言葉に詰まった。そしてしばらく考え込んだかと思えば、急にその顔色は悪くなりオロオロとしている。

「ね、ねぇ。お姉ちゃん」

「口調」

「あ、うん。いや、それよりお姉ちゃん。理久って勉強できるよね……?」

 ずっと学年一位だとか、そんなことはないけれど。悪くはなかったと思うし、何度かテスト合計点も上位一桁だったこともある。

「まあまあかな」

「理香はね、ボロボロなんだよ」

 それは……。

「教えてあげるから、頑張って」

「イヤだあああ!」

 でも、それはそれとして。

「とりあえず今は私の料理をみてほしい。……と言っても、調理実習程度の内容はできるんだけど」

「それだけ出来たらあとは回数重ねるだけだよ。積極的に手伝ったり、一人の時に見様見真似で適当に作ってたりしたら出来るようになる」

 それはいわゆる『出来る人の理論』では?説明が感覚派すぎるのよ。

「まあ、やらずには先に進まないから」

 なる程、それは確かに。でもそれは――。

「勉強も、やらないと積み重ならないわよ」

「あああああああああ!」

「しかも勉強はやればその分確実に積み重なっていく。他の事だって、そうかもしれないけどね」

「分からないから!0が積み重なってもなにも増えないから!……あれ?でも待って、教室で周りに聞かれることもなかったし、教師に変に当てられまくるとかもなかった。もしかして理久は頭悪い認識なんじゃ」

 それは、勘違いさせてしまったかも知れないなあ。

「普段から、『俺に聞くな』って言って断り続けてたら、誰も来なくなったから……。でも教師にはよく当てられてたわよ?」

「勉強できるからって当てられるわけじゃないから。当てられるとしたら、回答できる人が少なそうな難問とか」

「ダメじゃん!」

 まぁ、実際のところどういう認識に現在なっているのかは分からない。けど――。

「だから勉強はやっておいた方がいいよ」

「はい」

 すごく慣れ親しんだスマホを受け取り、メッセージアプリを開き清水くんを探す。ああ、清水くんだなんてむず痒い。

 そしてメッセージを送る。

『俺の成績がどんな感じか知ってる?』

 ポチ。

「はい、そのうち答えが返ってくると思うわよ」

 そしてスマホを理久に返す。受け取った理久はすぐに画面を確認した。

「なんて送ったの?うわあ!もし勉強できたら滅茶苦茶嫌味なやつになってしまうじゃんか、なんてことを……」

「そして出来ないという認識ならなんとも可哀想な子に」

 大丈夫かなこいつ、的な……。

「なんということを……」

 ヴヴッ、ヴヴッ——!

 おそらく返事が来たのかそのスマホが連続で震えた。

「なんだって?」

 理久は私にも見えるようにリビングのテーブルにおいてくれた。

『嫌味なやつだな、お前はいつも俺らから見たら雲の上の存在だろ』

『次こそ1位』

 ヴヴッ——!

『楽しみに』

 ヴッヴッヴッヴッ——!

『し』

『て』

『る』

『♥』

「キモっ!」

「うぜえぇぇぇぇぇっ!」

 お互いに、つい元の口調が出てしまうほど、腹の立つメッセージが返ってきたのだった。

メッセージ系アプリで一文字ずつ送信するやつ、私は

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