第14話 つくろう、男の外面
その夜の就寝後に、突如意識があるのに訪れた暗転。
たぶんこれはまた、神様の登場ではないだろうか。視界が開けるとそこには、4人に見える3柱の神様がいて性別の神様の女性のほうが口を開いた。
「えー。それではー。本日の反省会を始めたいと思いまーす」
「また双子の神様の反省ですか?」
隣にはお姉ちゃんがいて、そう神様に聞いた。
「いいえ?こいつにはそもそもの責任があるのだからこの場に居てもらってるだけです。空気みたいなものだと思ってくださいねぇ」
「…………空気です」
双子の神様ちょっと可哀想。
「では誰が反省するんですか?」
「私達でしょ。特に理久は反省すべき点多いと思うけれど?」
「羞恥心不足のお姉ちゃんに言われたくないけど!?」
「ハッハッハッハ……、面白いことを言う」
そんな俺達姉弟のやり取りを見て、性別の神様の男性の方はわざとらしく笑った。
「……両方ですけどねえ。まあ理香の方はまだ許せますが……。理久、あなた男としてやっていくつもりあるんですか?」
口調のことかな。
「別に、こういう男だっていると思うんですけど」
「それは否定しませんがね。ただそれは最初からそういう人物だった場合ですよ」
「あなたはあくまで今、これまで理久だと認識されていた者、その認識の一部をなんとかしてその肉体だけでも違和感の無いようにしている状態です」
「ですのであまり以前とかけ離れた印象を与えると、綻びが出てしまうかもしれませんよ?」
性別の神様が口々に説明してくる。それに加え、空気と言われた神様も口を開いた。
「その上私のやった残滓が中途半端に残っているらしいので……申し訳ありません……」
「ほんとにねぇえ?……と、まあそういうわけです」
つまり?
「つまり、せめて表に出る部分……特に言動なんかには気をつけるように、ということですか?」
俺がよくわからないでいるとお姉ちゃんが神様に確認をした。
「そうです、理香はよく分かっていますね。理香は若干口調が女性らしくなりすぎていますが、まあその程度なら問題ありませんし、それより内面からくる咄嗟の動作みたいな方を気にかけたほうが良いでしょうね」
「恥ずかしいと思う気持ちとか、そういうことでしょうか」
「まあそれも1つですね」
あれ、でも。
「お姉ちゃん、さっき下着見られて恥ずかしがってたじゃない」
「あれは……、下着姿を見られたのが恥ずかしかったのではなくて、下着姿で鏡の前で自分に見入っている事を見られたのが恥ずかしかったから。どちらかと言うと男のときにやって居ても恥ずかしいからということよ」
「その通りです。理香の内面はまだまだです。理香は自分の事が良く理解できていますね。しかしそれは些細な問題です、気がついた頃には身につくでしょう」
神様はお姉ちゃんには問題がないと言い、視線を俺に移した。
「問題なのは理久です」
「人間のために色々と辻褄を合わせてやったのは、こちらの不手際だったからなんだが……主にこのポンコツの」
「はい……」
わざわざパワハラ弄りされるためだけに呼ばれたのだろうか、双子の神様は。
性別の神様の男性の方が目線を俺に戻して続ける。
「ただ、その恩情を受けて現在の状態に馴染もうという努力が見られないのは、どうしたもんだろうなあ、理久?」
「主にどのようなところがですか?俺って言ってるし、理香の頃にあったような恥ずかしさとかも捨て去ってるんですけど」
「外面」
「口調」
「会話内容」
「お話される相手」
性別の神様の男性の方、お姉ちゃん、双子の神様、性別の神様の女性の方が次々に指摘してくる。
「つまり先ほども言いましたが、以前の理久とかけ離れた印象を与えると綻びが出るんです。印象を与えるのは内面よりも外面です」
「ちなみにだ、綻びが出ると急に認識上だけ女性に戻ったり、社会的な扱いだけ女性に戻ったり、姿だけ戻ったりする。それはそれで、まあ楽しみではあるがなあ」
どれもこれも、されちゃ堪らないのだけれど!?
「なんとかならないのでし……、こほん。なんとかならないか?」
さっそく口調を直してみる。
「なんとかするのはあなたです。私達は関与しませんし、どうなろうが知りません」
「ま、このまま綻びが出たら可哀想だから伝えるだけでもさせてくれと、このポンコツが言うから、今回は伝えに来ただけだ。なあ?」
「はい……私のせいで嫌な思いをさせるのは避けたいので……」
双子の神様優しい!
「ご忠告、ありがとうございます神様。理久にはよく注意いたします」
お姉ちゃん……優しい……。
「ではな、もう姿を見せることはないだろう」
性別の神様がそう言って去ろうとした。
「いえ、でも私は」
「あなたは情を入れ込みすぎです」
そういって性別の神様の女性の方が冷笑して双子の神様を見る。
「ひっ」
そこで暗転したかと思うと、朝が訪れた。
最後にあんな怖い笑顔見せないでほしい。思い出してしまいそう。
はぁ、とりあえず挽回しよう。今日は登校時から誰にも違和感を与えないくらいの心づもりでいく。
なんならまずは家族からだ。これまでの逆の立場と違って、お姉ちゃんの部屋に入るなんてだめだし、とりあえず着替えて下降りよう。
「おはよう~」
階段を降りきって、廊下からリビングに差し掛かるところで朝の挨拶を。しかし様子がおかしい。
いつもより部屋が暗いような?あれ?電気がついてない?
「おお、理久か。おはよう」
お父さんが居た。お父さんだけ?
「お父さんだけ?お母さんは?」
お姉ちゃんもまだだし。
「まあ今日休みだからな、俺はちょっと急ぎの仕事だから一人出ていくが」
「あ、ああ。そっか……お父さん頑張って……」
どどど、土曜だった――――!
一人出ていくところだった朝に息子が降りてきて表情が少しやわらいだ様に見えるお父さんに対して、俺は朝からどっと疲れた。
せっかく起きたのでこのままお父さんを見送ろうかな。
「何時くらいに帰ってくるの?」
「ああ……?そうだなあ、また終電に滑り込む感じだろうなあ。金曜と土曜の終電は嫌なんだよな~、お前にはまだわからんだろうが」
「何が違うかは想像付くけど、それがどんな感じなのかは分からないかも。あれでしょ、遅くまで飲んだりしてる人がいっぱいなんでしょ?」
「ま、そんなところだ。こっちは安飯で深夜まで働いているというのに」
お父さんの会社ブラックなのかな……。
「ああ、飯で思い出した。今日3人で外食でもしなさい、お母さんにも言ってあるから」
「えっ?やったあ!焼肉が良い!」
「何でも良いが、何にするかは相談して決めなさい」
きっと2対1で焼肉となるに違いない。以前理香だった時はそうだった。
でも、今のお姉ちゃんだとどうなのかな……。
「俺もこのまま朝飯食べよ」
キッチンに向かうとお父さんが「出来るのか?」と言ってきた。いやいや、それくらい何度もやってきてるし余裕……。違う。そういう所だ、言われているのは。余裕だったのは理香で当時のお兄ちゃんがご飯の用意してるのなんか見たこと無いかも。
「まあ適当にすればなんとかなる?」
「分からなかったらパンとバナナそのまま食べて牛乳だけ飲んどけ」
そういうお父さんの朝食もトースト、牛乳、コーヒー、ヨーグルト、バナナと手の込んだものは無かった。
まあそんな感じでもいいか。理香の頃なら料理はある程度出来るし、朝食で簡単だとしても卵焼いたり、ちょっと果物剥いたりくらいはするんだけど。
「さすがにお父さんと同じくらいのものは用意できるかな」
そういって食パンをトースターに放り込む。そんな俺に対してお父さんは、成長したなあとか言ってるけど、こんなことで……?
もしも、お姉ちゃんが料理下手だったらまずい事になるんじゃ、後で聞いてみよう。
料理に関しては以前の理久と同じ扱いだった。以前の理久と認識異なっているのは、身体に依存してる運動神経だけなのかな。
「じゃあ俺は行ってくる、戸締りしといてくれ」
「いってらっしゃーい」
さっと扉を閉じてキッチンに戻ると焦げ臭かった。
ああ……朝食は炭トーストか……。




