第13話 得たり失せたり、羞恥心
――ガチャッ。
お姉ちゃんと家に帰り、着替えていると部屋の扉が急に開いた。
「いやあ、すごいわねこれ。重さがだいぶマシになったわ」
「ちょっとお姉ちゃん!恥じらい持って!あと勝手に入ってこないで!……で、何?」
「いや、これよこれ」
そう言って服も着ずに丸見えとなってるブラを指差す。
「……お姉ちゃん。もしかしてブラって言うの恥ずかしいの?弟の目の前にそんな格好でいることに恥を感じた方がいいとおもうよ」
日中もそうだったけど、お姉ちゃんは恥ずかしがるポイントがおかしい。おかしいというか、たぶんそこに関してはまだ男のままという感じがする。その思いは一旦忘れて、お姉ちゃんの胸を見る。ようやく普通になったし、背中側もぴったり。だけど。
「お姉ちゃんこれ、着ただけでしょ。カップはピチってなってないと。着るっていうかちゃんと付けないと、横とかにバストがはみ出てるよ」
「こうか……?」
そのまま俺の前で付け直すお姉ちゃん。だから羞恥心をさあ……。
「ああ、そう……。うん、それでいいよ」
しかしデカいなあ。
「そりゃ重さが楽になるとか言うよね。私ブラなしでも重さとか無かったもん。ちょっと下から持ち上げていい?」
「かまわないけど?」
ではお言葉に甘えて。
「ふむふむ……」
すごいねこりゃ。そりゃ重いとか言うわ。そうだせっかくだし……。
「上から突いて良い?」
「いいけど……」
「おお……、揉んでいい?」
「良い訳ないでしょ!」
「うん、お姉ちゃん。人に簡単にそんなことさせちゃだめだよ。羞恥心持とうよ羞恥心」
「羞恥心か……。これ買いに行くことのほうが今より恥ずかしかったけど」
「それは多分、男の子が女性下着売り場に行く自体の恥ずかしさだよね。そういうのじゃなくて……う~ん、なんて言ったらいいのだろう。自分を見せる恥ずかしさというか?」
理香だった時もそこまで持ちあわせていなかった感情なので、うまく説明できない。
「まあ、前向きに検討するわ」
「また徹夜してでも身につけるとか無茶しちゃだめだよ」
油断するとすぐ無理しそう。
「理久は無茶してでも口調整えたほうがいいわよ。俺、お姉ちゃんって言ってる以外何も変わってないから」
そういってお姉ちゃんは自分の部屋へと戻っていったけど、そんな簡単に変えられる方がどうかしている。今日の放課後だってそうだった。
陸上部は部の単位こそ分かれているものの、練習する場所はどうしたってグラウンドの各所になるので、咲恵がいる。俺はその咲恵にいつも通り話しかけてしまった。
咲恵はなぜか「え、理久くんお話してくれるの~」とか言って喜んでいたけれど、しまったと気づいた俺は理香だった時のように話すことも、理久として何を話したらいいのかもわからない。結局、咲恵の話に「へ~」「そうなんだ」「いいね」とか適当に返して、先輩に女子と喋りすぎと怒られてなんとか危機を脱した。
……そもそも。咲恵にとって理久と話するのは嬉しいことだった?
あ、咲恵で思い出した、清水くんだ。
清水くんのオタク会話に全くついていけなくて大変だった。お姉ちゃんがそこまでオタクだったことにも驚きだったし。単に本や漫画ばっかり読んでるだけじゃなかったの?文句の1つでも言いたい。
言おう。
――ガチャ、バン、ガチャ。
「お姉ちゃん、ちょっと言いたいことあるんだけど!」
テンポよく扉を開け、閉め、開けて文句を言うと、そこには姿見の前で下着姿のまま胸を持ち上げたり体を捻って背中側まで見たりしているお姉ちゃんの姿が。
「あ、理久。何」
持って、羞恥心を。
「お姉ちゃん、何してるの……、半裸じゃない」
「ん……?ひぃゃあああああああ!?理久こそ勝手に入ってこないで!」
「お、いいね。それだよ羞恥心」
「何呑気に言ってるのよ!出てって!」
押されるが理香の身長と細身で俺が押し出されるわけもなく……。
「はいはい、出るから。入って良くなったら呼んでね」
自分から出て、廊下の扉と扉に挟まれた場所で待っていると、下からお母さんの声がした。
「理久?お姉ちゃんになにかしたの?」
「ちょっと用事があって入ったら、お姉ちゃんが下着で鏡見てて悲鳴上げただけ……」
「バカ!ちょっと来なさい」
素直に階段を降りていくと、お母さんが待ち構えていた。
「いきなり入ったんでしょう」
「そうだけど……」
「理久あんたね……双子とはいえもう高校生なんだから……。そんな事しちゃだめでしょう、せめてノックなさい。高校生に言うことじゃないわよこんなこと」
以前は、理香の状態で当時のお兄ちゃんの部屋に入っても問題なかったような。
「お姉ちゃんは俺の部屋入るけど……」
「あんたはともかく、女の子のお姉ちゃんの部屋に無断で入り込んで良いわけ無いでしょう」
そういえばさっきもお姉ちゃんの悲鳴に対して羞恥心が良いとか言って、もっと羞恥心持てとか言っていたけど、それを気にかけるの忘れていた。
「あんたはそんな事無いでしょうけど、恥ずかしいものなのよ?」
確かに、今日部活を行うときにも、グラウンドで上を着替えても何も思わなかった。以前なら無理だ。
「分かったなら今後は気をつけること」
「はあい……」
「待って」
返事をして二階に戻ろうとすると、呼び止められた。
「あと十分くらいしたらご飯できるから、お姉ちゃんにもそう言っといて」
「はあい」
階段を登り、今度こそノックする。
「理久?入っていいよ」
入ると、スウェットのズボンに半袖Tシャツ、さらに一枚長袖を羽織ったお姉ちゃんが椅子に座って待ってた。
「ちょっとだけ分かったみたい、羞恥心」
「俺は忘れちゃったみたい、羞恥心」
ちがう、本題はそこじゃなかった。
「そうじゃなくて、お姉ちゃん!オタクだったの!?知らなかったんだけど……隠していたの?」
「……知らなかったの?別に隠してたわけじゃないけど、言う必要も無いかなと思って」
「別にこれまではそれでよかったけど、せめて昨日の夜か今朝教えてほしかったなあ。清水くんに漫画の話されて困ったから」
これから俺がオタクにならないといけないのかなあ。興味ないこと見るとか、勉強と一緒じゃない。興味ある教科のある勉強のがマシかも。点数が高いわけではない。
「理久からは清水くんじゃなくて、清水、な。そこは慣れたほうがいいよ」
でも、といってお姉ちゃんは続けた。
「オタク話はついていく必要ないと思うわよ。もう読むのやめたんだ、とか適当にオタクやめていく感じにしたらいいでしょ」
「ええ、大丈夫……?」
不審に思われないだろうか。
「たとえ、こんなことがなくても、誰もがずっと1つのことに興味持ってるわけじゃないんだから。大丈夫よ」
「じゃあそうしようかな……」
「それに、清水の話の相手は私がするから大丈夫よ。私、パソコン部も入ったから」
あのオタ部と噂の!でもあそこ男子しかいなかったような……。
「あそこ男子だけだよね、姫じゃんお姉ちゃん」
「やめて!松川先生にもそれ言われて気分悪いんだから……」
「あとあそこは……、まあいずれ分かることだからいいか」
理香のときに何度も話しかけてきていた先輩がいたけど……。
そんなことを考えていると階下からお母さんの呼ぶ声がしてきた。
「そういえば、十分で夕飯って言われてたんだった!」
「先に行ってよ!はーい!!」
「今行くー!」
お姉ちゃんは、急いで降りるあまり階段をガニ股で降りてしまう。さらに数段飛んだ事により、購入したブラにより納められたはずの胸が揺れた様に見えた。結果、お母さんに「恥を知りなさい」と咎められたのだった。
羞恥心だよ、羞恥心。
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