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第12話 ふたたびの、下着指南

「あ、お姉ちゃん」

 後ろから理久の声がする。

「ああ、理久……」

 大丈夫かな、おそらく綾ちゃんとは初対面だけど理久としては面識あるんだよ。

「川田先輩?」

 綾ちゃんも振り返る。

 その先には半袖体操服姿の理久が。まだ4月なのに肌寒くないのかな。

 理久は綾ちゃんの方をみて少し固まり、私の方を見てきた。どう反応すればいいのか、困ってるのかな。

 どう言おうか……。説明的すぎると露骨だし、かと言ってぼかしすぎても伝わらないし。

「えっと、誰?」

 悪い寄りのパターンで来たかあ。

「……もう忘れちゃいましたか?同じ文芸部で図書室に居たでしょう?」

 合わせて私もコク、コク、と首を縦に振り、理久に合図を送る。

「ソウダッタナー、ワスレテター」

 だめだ言い訳に無理あるし棒読みすぎる……。ちらりと綾ちゃんの方を見る。

「まあ、どちらでもいいんですけど。もともとあまり話したりもしませんでしたし」

「ソーダネ」

 理久は、いっそ黙っていたほうがいいんじゃないだろうか。

 ん、そうだ。

「理久!そういえば今日用事があったでしょう、早く帰らないと。走ろう」

 綾ちゃんから逃げてしまおう。

「用事……?」

 嘘だよ、用事なんてないよ。

「ああ!あれね!俺もお姉ちゃんに付き合ったほうが良いの?」

 ……あれとは?というか私だけの用事なの?

「ああうん、そうね、そう。時間勿体ないし急ごう。ごめんね、綾ちゃん。また明日」

 そう言い残し、私と理久は駅へ向かい走っていった。

 ……走れたのは理久だけだった。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「お姉ちゃん遅い~、帰るの遅くなっちゃうよ」

 とにかく急ごうとする理久に、なぜ走ることにしたのかを、息を整えながら説明する。

「ぜぇ、はぁ……用事っていうのは理久がこれ以上ボロ出さないように……。はぁ、はぁ、走ってとりあえず綾ちゃんから離れるためだけの、口実だったんだけど……」

「え?ブラは?」

 ああ~、それかあ。

「もう、サラシとかじゃだめかな……」

 女性用下着とか、買いに行くの恥ずかしいんだけど。

「駄目に決まってるじゃん。学校でも着替えたりするのに、絶対悪目立ちするよ?ほら、だから急ごう?」

「急ごうっていっても、ごめん、走れない」

「体力なさすぎ~。あ、聞いてよ、今日男子陸上で百メートル測ったんだけど、男子でも部内最速だったんだよ」

「それ今聞かないといけない話かなあ……」

「ごめん。あ、ここで良いよね。駅前のスーパーかここになるけど」

 駅前のスーパーとは、2階より上に食品以外のものを扱うタイプの総合スーパー。ここは誰もが実はどこかに身に着けたそうな超有名店。

「ま、ここのほうが良いよ。ちょっと高いけど使用感に不満はないと思う。可愛いのは別の店がいいかもね~。どっちにする?」

「じゃあここでいいや」

 そう答えを返して店に入ると、弟に連れられて女性下着コーナーへ。はたから見ると情けないし、普通であれば理久のが恥ずかしい立場じゃないかな。

「はい、ここ。好きなの選んでって言っても分からないだろうから、まあとりあえずここ3つくらいあればいいんじゃない?」

「サイズは……?なんか種類いっぱいあるけど。アルファベットだけなのかと思ってた」

「これだから女子初心者は」

 そっちも男子初心者でしょうに。

「アンダーとトップのサイズを測って、そこからカップサイズを出すんだよ」

 なるほど?

「サイズ知ってる?……訳ないよね。メジャー借りて測ってくるといいよ。スーパーの下着コーナーや、下着屋だと測ってくれたりするんだけど……」

「わかった。メジャー借りてくる」

 全然店員が見つからないので、レジ付近に立ってる店員へお願いした。無事メジャーを借りられたので、戻って理久にメジャーを渡す。

「測ってもらえる?」

「は!?お姉ちゃんのバカ!こんなところで測る訳無いでしょ……、恥じらい持ってよ!」

 恥じらい……。それはまだ会得できていません……。ん?ということは。

「その恥じらいとやらがあるのに、今日の理久は体操服によく着替えられたね」

「私は男子なので」

 口調は直せないのにそこは捨てられるんだ。

「でも試着室とか使うにも、一人じゃどこ測るとか分からないよ?」

「あ~……。じゃあ俺が測ろうか?」

「……よろしく」

 姉弟で試着室とかそれこそ恥ずかしいけれど、私一人では無理なのでお願いすることにした。

「あの、サイズを測りたいので試着室借りてもいいですか?」

「どうぞ~」

 店員さんのさわやかな返答を受けて奥へ入る。理久もそれについてくる。

「うんんんっ!?お、お客様?あの、お連れ様ですか?」

「あー、弟です。測ってもらおうと思いまして」

 関係ない人がついて行ったと思ったのかな。私の弟だと説明する。

「……えっ、弟さんと?あの、もしよかったら、普段はしないのですが、私がやりましょうか?」

 心配したかのような、困ったかのような表情で聞いてきた。

「いやいや、それは結構です。やめてください」

「……そうですか?弟さんになんて、恥ずかしくないです?」

「はい、そうです。大丈夫です」

 そんな事は勘弁してほしい。きっとそちらの方がとても恥ずかしいとおもう。

「ま、普通は女性が男性にサイズ測定なんかしてもらわないよね。身内だとしても」

 試着室に入った理久がそう耳打ちしてきて、続ける。

「今回は私が測るけど、次からは自分で測ってよね。だから覚えるように」

「はあい」

「じゃあとりあえず脱いで。ブラも外してね」

 男だったら気にならなかったはずが、今はなぜか少し恥ずかしい。これは多分見られるのよりも自分の胸が出るのは恥ずかしいのだと思う。昨日の風呂でもそうだった。

「そうは言っても名前言い換えたらすぐ覚えると思うよ」

 私の思いを他所に、理久はそう言いながら腕を上げさせてメジャーを回してくる。

「ここ、これがアンダーバスト」

 へ?

「バストとか言いながら肋骨一周してるだけじゃないの」

「うん、まあ……そうだね。で、次」

 『アンダー』だから胸の下ってことで、間違ってはないのか。

「ということはトップはここか?ここか?」

 といって胸の天井を向いているところや鎖骨あたりを指差す。

「残念、ここです」

「ひゃん!」

 変な声でちゃった。

「はい、測るよー……ウェスト細いな~。えっとアンダー70センチで、トップが……。でっか!お姉ちゃんこれFカップだよFカップ!」

 理久の声も大きい。やめてほしい。

「まあ、ありがとう、あとはさっと買って帰ろう」

 母の下着をまた無理やりつけ、制服を着て試着室を出ると、周りがやたらこちらを見てくる気がする。

「70のF……」

「Fか……」

「細……羨ま……」

 周りの大人の女性や若い男性、女子学生などが私をみて呟いている。

 絶対私のこと言ってるじゃない!

「理久……」

「ごめん」

 このあと、明るめの色のものを3つ買った。理久は肌に付いてるやつも便利でいいと言っていたけれど、サイズの問題で合うものがなかった。

 神様、非力で体力がないのは元の理久からだから分かるのですが、どうして女性化するだけで私の胸はこんなに大きくなったのですか……。

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