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第11話 おしゃべりな、文学少女

 午後も無難に過ごし、ようやく迎えた放課後。私は早速図書室へ向かうことにした。

 クラスメイトに、陸上辞めたなら遊び行こうよと誘われたが、断った。あまり断りすぎると気がついた頃には一人、なんてことになるかもしれないから、そのうち付き合うとして。ラノベや漫画の読みすぎかもしれないけれど、そういうの断りすぎるとハブられたりいじめられたりしそうだから……。

 図書室の前に着き、その扉の向こうは静まり返っている。きっといつも通りほとんどの時間は後輩しか居ないのだろう。同じ部に居ながら名前は忘れてしまったけれど。お互いほぼ本を読み続けているだけだから仕方ない。

 ――ガラッ。パタン。

 扉を開け、図書室に入るとやはり後輩だけが座って本を読んでいた。以前は小さい子だと思っていたけれど、今は私より大きいのでそんな印象を抱けない。今の私が圧倒的に小さいのだけれど。

 さて、読書の邪魔するのは悪いし相手は後輩だけれど、理香としては今日から入部。一応自己紹介でもしないと駄目かと思う。

「すみません」

「…………」

 うん、想像ついてたよ、いつもお互い読書に没頭していたからね。

「すみませーん」

「すみませーん!」

「はじめましてえ!」

「……」

 駄目だ。全然気がつく気配がないのでいっそ本を取り上げようか。

 そう思い、後輩が読んでいる本を奪おうと手で掴んだ。

「なんですかあなたは!」

 こちらを見上げた後輩は強く批判してきた。

「人の読書の邪魔……を……」

 しかしその後、こちらを見た彼女の言葉は力を失っていった。

「あ、え、えっと。何のようでしょうか」

 あまり話さなかったとはいえ、こんなに口下手だったろうか。

「はじめまして、今日から文芸部に入部させていただいた2年の川田理香です。よろしくおねがいします」

 初対面の体を繕い挨拶する。

「あ、はじめまして……。もしかして川田先輩のお姉さんでしょうか?私は宮本綾です。1年なので敬語はいらないですよ」

「そうよ。逆に弟は退部したみたいですけど」

「えっ、部長だったのに……どうしよう……」

 そういえばそうだった、かなあ。

「顧問の先生は?」

「私のクラスの担任です。……あ、じゃあ明日聞いておきますね」

「お願いね。さ、本読もう……」

 そう言って私は本棚のラノベコーナーへ移動した。

 うーん、何読もうかな。今男主人公で一人称なのは避けたいし……。一夜漬けの女子口調が抜けてしまいそうで。

「――ライトノベル、よく読まれるんですか?」

「わっ!」

 急に後ろから宮本さんの声がしてびっくりする。いつもずっと読みふけってるのにどうしたの。

「そうね……ライトノベルが多いかな。その他の本も読むけど、あまり堅いのは読まないというか。……宮本さんはどんなのを?」

「あっ!」

 宮本さんは慌てて持っていた本を後ろに隠した。

「えっと……秘密です……」

 人に聞いておいてなぜ……。

「え~、いいじゃない教えてよ~。あ、もしかしてちょっとエッチな恋愛小説とか?」

 秘密にされると気になるので、ちょっとからかってみた。

「あ……。そ、そう、それです。なので恥ずかしくて」

「そ、そう……。ごめんね」

 なんだかこちらも悪いこと聞いてしまったようで恥ずかしい。後でタイトルだけこっそり見せてもらおう。そう考えながら、適当に読んだことの無いラノベの第1巻を取って中身をさっと確認。男性視点ではなさそうだったので、その本を持って椅子に座った。

 4ページくらい読んだところで。

「あ、あの」

 宮本さんに話しかけられた。ページをめくる手が加速しだしたところで一体何の用……、と少し苛ついてしまう。

「なあに?」

 しかし悪態はつかない。まだ口調が染み付いてないうちは優しいお姉さんを演じるつもりでやっている。

「川田先輩だと、弟さんと被るので、下の名前で呼んでもいいですか?」

 なるほど確かに、じゃあこちらもそれに合わせようかな。

「良いわよ。その代わり私も綾ちゃんって呼ぶわね」

「ひゃっ」

 えっ、何。

「い、いいんですか。ありがとうございます、理香先輩」

 先程の小さな悲鳴はなんだったのかわからないけど、互いに名前で呼ぶことになった。なんだかちょっと百合っぽいなと感じる。……この思考はオタク的だろうなあ。ちょっとそういうの抑えていかないと。

 ぺらり、ぺらり。

 更に2ページくらい読み進めたら。

「理香先輩」

 またあ?

「……なあに?」

 いや、笑顔笑顔。

「あ、えっと。恋愛小説とかって読まれますか?」

「ラノベのラブコメじゃなくて一般のってことよね?たまにならね」

「なるほど……」

 綾ちゃんはそうつぶやき、それ以上は話してこない。

 今日だけでもう、以前とは比べ物にならないほどに話をしている気がする。

 そんな事がこの後も続き、結局その日は五十ページも読めないまま、下校を促す音楽が流れてきた。

「ふう。片付けようか」

「そうですね」

 お互い、読みかけた本の貸し出し処理を行い、私たちが使ったものと、誰も使っていないものも含めて椅子を全て整える。

 窓の戸締りも行い、最後に図書室の鍵を締める。鍵は職員室に持っていくのだけど。

「なんだか、理香先輩手慣れていますね」

 し、しまったあ。知っているからつい片付けを聞くことなく行ってしまった。

「もしかして川田先輩から聞いてましたか?」

「あ、そう。そう。」

 そういうことにしておこう。

「鍵も持っていくんでしょう、私がやっておくわよ?」

 理久の時もそうしていた。どうせこの子は先に帰るだろう。

「あ、じゃあついていきます。一緒に帰りましょう理香先輩」


 綾ちゃんの感じが全然違っていていちいち驚かされる。二人で行ったからといって何も変わらないけれど、二人で鍵を返し、靴を履き替え帰路につく。

「今日、よく話しかけてくれたけど……」

「あ、はい」

「もしかして、私と話がしたかったの?」

 お互い読書に没頭しようよ。と付け加えて言いたいけれど、そこはぐっと堪えて聞いてみた。

「そうですね。たまにはおしゃべりもいいかな、なんて」

 たまにも何も、お互い初対面というはずだけれど。

「例えばどんな話を……?」

「そういわれると……、思いつかないですね。普段から人とあまり話さないので。親くらいです、兄弟も居ないので」

 他に居ないのかなあと考えていると、とても話しかけてくる自分のクラスメイトのことが思い浮かんだ。

「クラスの子は?」

「教室ではずっと本を読んでるので、誰も話しかけてこないですね」

 ザ・文学少女って感じだった。

「理香先輩は、すごい可愛いけど、髪の毛は何もヘアアレンジとかしないんですか?」

「お互いさまでは?」

 私の髪は肩より長いくらいで、綾ちゃんも腰くらいまでのロングヘアだけど、お互いただ下に落ちてるだけだ。

「理香先輩は身体が小さくて可愛いから、一本か二本にまとめるだけでもいい感じになるんじゃないですか?」

「そうかな、考えてみるね」

 ヘアスタイルかあ……。そこまでこらなくても身だしなみとして身につけないとだめかもしれない。

「私には、どんなのが合うと思いますか?」

 この質問はつらい。え~っと髪型髪型……。

「なんかこう、横の方の髪の毛を後ろでまとめて止めて、他の髪と一緒に下ろすやつ……とか?」

 名前とかさすがにわかんないよー。髪型の名前とかポニーテールとツインテールくらいしか知らない。

「あ~、ハーフアップ……かなあ。私もよくは知らないんですけど持っていき方とか、纏め方とか、アレンジパターンがいくつもあったような」

「そうなんだ。じゃあネジネジして後ろに持っていってるやつも平たく後ろに持っていってるやつも仲間?」

「だったと思います。理香先輩意外と知らない……?」

 うっ……。やはり口調だけどうにかすればなんとかなるなんて甘い考えだったようだ。

次回更新は6/15までの予定

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