84:ジョルグとルナシア
ラマルに「最後まで口を挟むな」と言い含め、兄妹に目を向ける。
「取り敢えず座れよ」
言うと、二人は床に座って俺半目。
仕方がないので俺も二人の前で胡坐をかいた。
二人の左手の甲には、軽罪人を示す焼き印の痕がある。
「名前と歳を教えてくれ。俺はイオリ、二十二歳だ」
「ジョルグです。十六歳です」
「ルナシアなの…です。十六歳です」
「まさかの双子?」
二人が頷いた。
ジョルグが兄だとばかり思ってた。いや兄なんだろうけど、俺より年上の線もあると思ったが、獣人は幼年期の成長が早いんだっけか。
「リリアーナが珍しいと言ったのは、異種族の両親から生まれたからだよな?」
「双子も珍しいです」
「双子のルグ…双子の兄と妹が異種族特性なのも珍しいの…です」
なるほど、リリも双子と知ったら驚きそうだ。
「ホランドン錬金工房では何をしてた?」
「俺…私は重い物の運搬と組付けを。シア…妹は術式の陣化と刻印をしてました」
素晴らしいじゃないの。
「普段どおりの言葉遣いでいいぞマジで。工房で何年働いた?」
「俺もシアも八年です」
これもいい。二人とも即戦力になりそうだ。
「なぜホランドン工房を選んだ?」
「働いてたジョゼフ錬金工房が買われたんです」
ホランドンことジェフリーは立て続けにM&Aを仕掛け、工房を一気に拡大したと思われる。二ノ竜の構成員を潜り込ませるには良い手だ。知らない顔がいても、職人たちは他所の工房の職人だと勝手に思い込んでくれる。
「錬金工房を選んだのは、シアが錬金術を使えるからか?」
「そうです」
「シアは系統魔術も使えるか?」
「火を使えるの」
「闇と風も使えるか?」
「……」
「あの、刻印できる錬金術師が系統魔術を使えるだけでも凄いんです」
あ、そうね。周りが錬金と六系統ばっかだから忘れてた。
「ルグはブースト使えるだろ」
「はい」
「アームレスリングしようか」
「強化してですか?」
「最初はブーストなしで、俺が合図したら全力ブーストな」
「……分かりました」
ルグとうつ伏せに寝そべっていると、シアに感知をかけられた。
なかなか巧いじゃんと思いながら目を向けニヤリと笑めば、シアが驚いた表情に変わった。
「よっしゃカモン(おほ、流石はタイガーマン。強ぇわ)」
(この人間、細いのに強い…)
ルグの手を握り始めただけで、素じゃ勝てないと判る。
感知かけっぱだから、全力ブーストもほぼほぼ判ってる。
俺の七パーセントブーストが、ルグの素の筋力。
魔力量と強度の大差を考えれば驚異的と言える。
「ココア合図して」
「うん。いくよ? 用意、スタート!」
ガッと力を込められた瞬間に腕が持ってかれそうになり、慌ててブーストを十パーまで上げ引き戻す。更に一パー上げて漸く拮抗した。こいつやべえな。
「くっ、どこに、そんな力が…!」
「年下に負けてられるかよ。ブーストしろ、全力だ」
「おぉおおおおおおおっ!!!」
ルグの魔力流量と流速の上昇に合わせ、ブーストを率を上げていく。
三十三、三十四……三十五………三十六…………三十七…………三十八。
四割予想がほぼ的中。ルグの魔孔が開いてるのは下半身と両腕だから、循環の熟練度を上げれば俺の六割くらいまで上がりそうだ。俺も臍から上の胴と首から上はまだだから、一生勝ちは譲らねえけどな!
「どうしてなの……魔力がないのに……」
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
瞬時に五〇パーへ上げて、おら!
バシン!
「ナイスファイトだ」(サムアップ)
「人間に負けた……」
「ルグが負けたの……」
(と、虎人に膂力で勝るとは……)
ココアたちへ顔を向けると、ココアとカノンがサムアップした。
追うようにユウトも親指を立てる。
当然だが俺の勝利に立てられた親指じゃなく、ルグとシアを雇おうという意味。
「黒須さん、何パーセントのブーストで勝ったんですか?」
もとい。なんつードアホな天才だこいつは。
「カノン、後で説教しとけ」
「うん、きっちり詰めておくよ」
「ユウトがアホすぎてキモイ」
「え……え?」
ほらみろ、ルグがどんよりしてんじゃねえか。
シアなんて泣く寸前だぞ。
「ということでルグ、シア、うちの錬金工房で一緒に働かないか?」
「アデーレの錬金工房は…」
「三つあるの」
「シルバラッド錬金工房だ」
「「シルバラッド様の!? 雇ってくれるの(んですか)!?」」
「おう。働く気があるってことでいいな?」
「「はい(なの)!!」」
「オーケー決まりだ」
残る問題は、犯罪奴隷がどういう扱いになるのか。
「ラマル会長、犯罪奴隷の買い方を全く知らないんだが、どうすればいい?」
「ご説明いたします、ハイ」
犯罪奴隷を買う場合は、購入者が賠償金を肩代わりしなければならない。二人の食い逃げをヴォーリッツの国法に照らせば窃盗に該当し、犯行回数は九回。七回が食堂で、二回は露店の果物屋らしい。
食堂七軒の内で被害届を出したのは三軒で、露店は二軒とも出していない。購入者は被害届を出した食堂に対し、飲食代金の十倍を慰謝料込みで支払う責任を負う。支払われた食堂は、被害届の取り下げ手続きをする義務がある。賠償金の支払いは、最寄りの商工業者ギルドに依頼しても良い。
また、犯罪奴隷は再犯の懸念があるため、購入者は闇系統の【隷属】で奴隷を縛らなければならない。購入者が施術を奴隷商に依頼する場合は、奴隷の代金と併せ一括で支払う義務がある。
買った奴隷を売る場合は、全ての支払い義務を果たした上で、施術証明書を持参して奴隷商会へ行き、奴隷商に買い取り交渉をする。
「どこの奴隷商会でも構いませんが――」
「売る気はないからもういいや。施術費用を含めていくら払えばいい?」
「虎人が五十万、エルフが二百万、施術費用が二十万ですので、締めて二百七十万ユルグでございます、ハイ」
安いのか高いのか判らんなと思いつつココアたちへ目を向けると、三人も判るはずがないので首を傾げた。
「現金がないから証札でいい?」
「証札!? ももも、もちろんでございます! ハイ!」
「会長は魔力持ちだけど魔術師じゃないよな? 施術は依頼する感じ?」
「契約している魔術師に依頼いたしますです、ハイ」
「今すぐ呼べる?」
「今すぐは――」
「今すぐ呼べる?」
「それが今すぐは――」
「今すぐ呼べる?」
「呼びますです! ハイ! ブルーノ!!」
ぎょろ目の大男が扉を開けて顔を覗かせると、ラマルはゼーゲンなる魔術師を今すぐ走って呼んでこいと命じた。
ラマルが魔術契約のために魔力導入は修練したと言うので、証札にお互い署名して切り離し手渡す。が、証札の換金は未経験らしくユウトが無駄に詳しく説明していく。
そうこうしていると、魔術師ゼーゲンが息を切らせ入ってきた。
重病を患っているような顔色の悪さだ。走れねえ魔術師は使えんな。
ゼーゲンが詠唱の後に『【隷属】』と呟いた瞬間、俺と二人の間にパスが繋がった。俺は「繋がった」としか感じないが、ルグとシアは少し苦しそうな顔になるも、数秒で苦しさは消えたようだ。
「さて行くか。会長、世話になった。二人と同じ境遇の奴隷が入ったら報せてくれ」
「承知しましたです、ハイ」
裸足で貫頭衣なので工房へ直行し、ココアは二人を採寸すると服のデザイン画を描き始めた。ルグにはTシャツとモスグリーンカモのツナギ作業服、シアには魔法少女でしかないリボンブラウスとローブと各種装飾品を作ってやるようだ。
俺たちがココアを横目に万年筆を組み立てていると、観察していたルグが『これすごい…』と何度も呟きながら、組み立てを手伝い始めた。飲み込みが早い。
シアはココアのデザイン画に目をキラキラさせているだけだが。




