83:ラマル奴隷商会
屋台メシを買い込み、歩き食いしながら皆で奴隷商会へ向かう。
「リリは借金奴隷になんか思うとこあったりするか?」
「例えばどんな? あむ」
「何となく怖いとか」
「(もぐもぐ)ないよ。ギルドの同僚にも借金奴隷だった人いるもん」
「「「「へぇ~」」」」
俺らも見る目を変えなきゃいかんな。
アデーレは西側に住宅と小売店が多く、東側には工房や工場が多い。
なのだが、奴隷商会は東門近くの外郭沿いに、ひっそりと店を構えている。
軽罪の犯罪奴隷も扱ってるからだろうか。
「この辺に夜来るのヤダ」
「奴隷商会はギルドより終わるの早いから、夜はやってないよ」
「そうなん? どして?」
リリが言うに奴隷売買は基本的に予約制なので、翌日の予約客の要望を満たす奴隷を洗体したりとやることが多く、奴隷の入れ替えも暗くなってからやるため、営業時間は比較的に短いそうだ。
だから東門近くの外郭沿いにあるんだろう。
東街区は陽が落ちると真っ暗闇で人気もなくなる。
「黒須さん」
「ん?」
「予約してませんよね?」
「してるわけねえな」
「入店できないのでは?」
「言ってる意味がわからん」
「えぇ…」
((あ‟?ってやるやつだ(笑)))
(商工業者ギルドの思い出が…)
工房や工場を覗きながら歩いて着いた奴隷商会は、「どこがひっそり?」とクレームを付けたくなるほど派手に装飾してある。しかも建屋が長い。外郭沿いとは聞いたが、平屋の建物は目測一〇〇メートルくらい長い。そして明り取りの窓には鉄格子。
「お絵描き魔術のキャンバスにしていいんじゃね?」(笑)
「あたしも同じこと考えてた」(笑)
「奴隷商会はどこもこんな感じみたいだよ」
「リリさん、何か理由があるんですか?」
「知らなーい」
流石だ。俺のカノジョはこうでなきゃ。
「少しでも入りやすい雰囲気作りかな?」
カノンの意見を採用することにして、ゴツイ鐵の扉を叩いた。
すると、シャコンと音を鳴らして小窓が開き、ぎょろ目が俺たちを見回す。
「どちら様で?」
「シルバラッド錬金工房だけど、見学させてくんない?」
「ししし少々お待ちを!」
小窓が閉じられ、中から『会長ぉー! シルバラッド様のご一門がぁー!』という絶叫が聞こえてきた。
「予想どおり」
「あ‟?って言う思ってた」(笑)
「私も」(笑)
(僕も)
(私も)
たまにチェックしろと言うくらいだから、ルーカスがチェックしていたのは当たり前。ならルーカスが何者か知ってるわけで、俺らを拒否るはずがない。
ギギィィィ
「これはこれはシルバラッド錬金工房の皆様、ようこそお越しくださいました。ラマル奴隷商会の会長ラマルでございます、ハイ」
「急に来て悪いね。イオリ・クロスと愉快な仲間たちだ」
「承りました。ご案内いたしますのでお入りください、ハイ」
メタボで最後に「ハイ」を付けるラマルに案内され、娼館の待合室ってこんな感じじゃなかろうかと思わせる、蝋燭の炎が揺らめく薄暗い応接室へ。
(おぅ)
((((!?))))
スッケスケのミニワンピだけ着た綺麗処が現れて紅茶を淹れ始め、形とサイズが丸判りな薄フンドシ姿のガチムチも現れ、淹れられた紅茶を配膳していく。
「イオリの勝ち」
「うむ」
筋量は完敗だから…うん、聞こえなかったことにしよう。
「そ、そうなの?」
「恐ろしいでしょう? 痛い痛い痛いですっ! ごめんなさい!」
手応え的にユウトの耐久が上がってきてる。
次回からブーストしてやろう。
「そ、それで、どういった奴隷をお探しでしょうか、ハイ」
「あぁえーと、言うたらルーカスと同じ」
ルーカスは錬金の助手になれるような奴隷を探していた。
錬金の才能は必須じゃなく、手先が器用で機転が利いて、作業を先読みしたアシストが出来るような賢い者だ。
「シルバラッド様は借金奴隷に限られておりましたが、クロス様も同じでございましょうか、ハイ」
「犯罪奴隷なら条件に合うのがいるって意味?」
「食い逃げを繰り返し、南の宿場町で捕縛された者がおります、ハイ」
そういう噂、王都と帰り道でも聞いたな。
「ホランドン錬金工房だったり?」
「ご明察でございます、ハイ」
「センパイなんで分かったの?」
「私も噂で聞いたよ。二ノ竜じゃなかったから放免されたけど、どこにも雇ってもらえなくなった技師とか錬金術師でしょ?」
「それ」
ホランドン錬金工房は、材料在庫から何から全部を宮廷に接収された。
従業員は全員が取り調べと鑑定を受け、闇系統の活性術式が検出されなかった者は放免されている。
しかし、二ノ竜と無関係だと証明されたわけではないため、放免された者も要注意人物リストに載せられ、国内の商工業者ギルドに廻状が送付され、各地のギルドは工房や工場に注意喚起の書面を配布した。
「そういえば受け取りました」
「どんな内容だ?」
「新しく雇用する際は、念のためギルドでリストを確認してくれと」
商工業者ギルド限定なのは温情か?
でもまあ、技師や錬金術師が食堂で働くのは辛いよな。
月給もダダ下がりだろうし。
「ここにいるのは一人か?」
「年若い兄妹がおります、ハイ」
「会って話をしたい。あと人払いを。会長はいてくれ」
「承知しました。暫くお待ちを、ハイ」
「ああ、洗体とかしなくていいから。でも服は着せといてくれ」
「貫頭衣でもよろしければ、すぐに連れて参ります、ハイ」
「それでいい」
「承知しました、ハイ」
俺も含めて、錬金チームが期待感を抱いている。
出来れば技師が欲しいものの、刻印できる術師ならそれでも構わない。
ものの数分で連れて来られた兄妹は、確かに年若い。
ちょっと驚いたのは、妹を庇うような体勢の兄が獣人であること。
一方で、妹の方にはエルフの特徴がある。
「めっちゃ睨まれてんだが、どういう兄妹だこれ」
「父親が虎人で母親がエルフだよ。すごーく珍しい」
「「!?」」
ココアの隣に座っているリリがそう言うと、兄妹がリリへ目を向け驚いた。
「は、白亜様…なの?」
「白亜様…ですよね?」
「うん、リリアーナ・ブランだよ」
「「ブラン宗家の姫様!?」」
俺とココアがジト目を向ける。
いや見えてるのは後頭部だからココアがジト目か確証はないがジト目だろう。
「ブランて聞いてないんだけど姫様」
「俺も聞いてねえな姫様」
「どうなの姫様」
「どうなんだ姫様」
「「姫様」」
「あはは、それ言いたいだけでしょ」
「笑って誤魔化すな爆乳姫」
「ココアが酷いよイオリ!」
「爆乳姫はイオリスペシャルで今夜おしおき」
「やった♥ 明日は休息日だし♪」
「よろこぶなし!」
夜までにイオリスペシャルを考案せねば。
「あのお、話を進めません?」
「リリさんの昼休み終わっちゃうよ?」
「わ!? 私先に帰るね!」
「あいよ」
「そうだ、イオリたちは良い人だからちゃんと話すんだよ!」
「「はい!」」
リリは風のように去って行き、俺は『イオリスペシャルってナニ。あたしだけ知らないとか不公平』とココアに詰められた。俺も知らんのだが…




