81:ブーストへの道のり
引き続きブースト修得しようぜ!の会会場。
「リリは簡単に修得するって、魔力操作得意なん?」
「習ったことないよ?」
「リリはフィジカルブースト使ってるけどな」
「「「「えっ?」」」」
ほんと無自覚属性だよなあ。
自分が超絶カワイイことすら自覚してない。
「助走なしに余裕で窓口の上を跳び越えるじゃん。あれ無意識にブーストしてる」
「私すごい?」
「ぶっちゃけ俺の理想形って感じですごい」
「イオリの理想の女だって♪」
「あんたナチュラルに頭幸せだよね」
ココアはナチュラルに核心を突く。
「俺の経験をなぞればいいとは思わんけど、はっきりしてる事実が二つある」
一つは魔孔という言葉を知らなかった時、感覚的に魔力漏れを確信し、ブーストらしきことが出来るようになったのも同時期だったこと。
もう一つは、魔力漏れを起こした部位が両手の指先だったこと。
今だからそう理解できるだけで、当時は「魔力スゲー」くらいにしか考えていなかったのだが。
「ホレン草かな」
「魔術薬ですね」
「この手の気づきが早いのは流石だ、当たり」
「魔力導入ってこと?」
「その手前な」
「魔力循環だよココアちゃん」
「ルーカスさんが、魔力循環による魔力路の分岐と延伸について話してくれましたね。雇ってもらって一ヵ月と経っていない頃でした」
ココアと顔を見合わせた。お互いに「はて?」って顔。
「何にしろ、とにかく循環あるのみって話だ」
「普通にずっと循環してるよ?」
「そこは負荷の問題だな」
何も考えずにやってる常時循環は、ウォーキングみたいなもの。流量と流速を上げればジョギング、更にどんどん上げていけば一〇〇mスプリントを常にやってる状態へ持っていける。
一〇〇mスプリントにも慣れてくるから、更に流量と流速を上げていくと、「な、なんなんだこの力の漲りは…!?」ってなる。それがブーストの入り口に立った合図だ。
「イオリの循環魔力は多くて速いもんね」
「それそれ、お前らも常に魔力感知をかけるようにするといい」
俺のように広域展開しろという意味じゃなく、半径二mくらいの感知でいい。感知にも当然だが熟練度があり、感知対象の内包魔力量だけじゃなく、流量と流速が判るようになってくる。
内包魔力量、流量、流速と総魔力量は比例関係にあるはずなので、魔力循環には魔力器官を発達させる効果もあるに違いない。
「何よりお互いの刺激になる。ユウトとカノンなんて負けず嫌いだから、感知して自分が劣ってると、おのれ!ってなるだろ?」
「うん、自覚してる」
「僕も否定できません」
「あたしあんまり負けず嫌いじゃないんだけど」
「ココアは流量と流速のコントロール精度が高いから大丈夫。カノンと比べれば三倍、ユウトと比べれば五倍は精度が高いし速くて滑らかだ」
「聞いたか愚民ども!」(ドヤ顔)
「うぅ、負けてられないよ」
「僕らと黒須さんたちの違いは何なんでしょう」
「違いっつーか、余計なことを考えすぎなんじゃね?」
思考に意識を向けるか、感覚に意識を向けるか。その程度の違いしかないだろう。でも二十年以上そう生きてきたんだから、いきなり感覚派になれと言われても無理だ。俺とココアが術式理論に弱いのと同じ。
「リリは魔力循環してないよね?」
「うん、やり方も分かんない」
「なんでブースト出来るの?」
「わかんない」
「ココア、そこは便利な言葉があるだろ」
「ファンタジー?」
「ネタか?」
「ガチだが?」
病んでやがる。確かに便利な言葉ではあるけども。
「種族特性だよ」
「「「「あ~」」」」
「リリまで感心すんなよ。自分で血統継承技能って言ってたじゃん」
「そゆこと?」
「そゆこと」
初めて窓口を跳び越えた時は獣人スゲーとしか思わなかったが、あんなこと出来る獣人を見かけたことがない。で、常時感知をするようになってから謎が解けた。窓口を跳び越える瞬間のリリは、驚異的な超高速循環を経てブーストする。
あれはもう生まれながらの本能的な業、それこそ血統継承技能としか思えない。
何が驚異的って、リリの魔力路は全身を網羅している。これが白ネコならぬ白亜の種族特性でないなら、何だと言うのかって感じだ。
「リリのブーストについてはリリの考えに任せる。危機的状況になれば血統継承技能が仕事すると思うし、リリは素の運動能力が高いからな」
「夜のリリってすごい跳ねるもんね」(笑)
「それな」(笑)
「うぅ、なんか恥ずかしいよ…」
循環の効果って、魔術師界隈だと常識なのかもしれない。
ミレディが魔術講座の時、双子に同じようなことを言ってた。
「ってことで高速大量循環のお時間だ。圧縮の熟練度も上がるから頑張れ」
「ねえイオリ、私も一緒にやりたい。でもやり方が分かんない」
リリが一番強くなりそうで怖いんだが…
「俺の手に手を乗せてみ。両方な」
「こう?」
「そう。目を閉じて、自分の体の中に意識を向ける」
右手からリリの左手に魔力を導入し、リリの体の輪郭をなぞるように循環させ、リリの右手から魔力を引き取る。魔力路が全身を網羅してるからスムーズだ。
「イオリの魔力が流れてる…」
「これが循環。もっと判りやすくいこうか」
魔力波動に変調をかけ、リリの固有波動とシンクロさせていく。
完全にシンクロさせるには俺の熟練度がまだ足りてない。でも、リリの魔力を牽引する感じで循環させるくらいは出来る。
「あ…私の魔力…循環してる…」
「(感度高えなあ)流れろ、巡れって、魔力に意識を乗せてみ」
「うん」
ほぉらごらんなさい。もう意識的循環をマスターした。
邪魔にならないよう俺の魔力を抜き取って完了。
「上出来だ」
「やった♪ イオリありがと♥」
「早いんだが! でも負けないし!」
「私も負けないよ!」
「僕もです!」
循環、魔力路延伸、魔孔発生、フィジカルブースト、ブレインブーストまで進んで漸く皆の安全度は高まる。一ヵ月かそこらでどうなるもんでもないし、リリ以外は錬金術への応用が出来てナンボって話もある。
ココアは年内にイイ線までいきそうな気がする。
カノンの年内は無理だろうし、ユウトは下手すると一年がかりって線もある。
ピンポンパンポンピンポ~ン♪ ピンポパンピンポ~ン♪
「俺が出るからやってていいぞ」
ドアノッカーはイラっとするので、ドアチャイムを造った。何気に来訪者が鳴らしたのは初めてだが悪くない出来だ。
「誰だ?」
「ダンカンですぞ!」
カチャ
「なんなの休息日狙って来てんの?」
「居ても立っても居られず。ともあれ入らせもらいますぞ」
何を言いに来たのかは察しているので、玄関脇の小部屋へ背を押して入らせた。
「クロス殿!――」
「この距離で声張るな万年筆だろ?」
「然り! ライカに入られてはこのダンカンの立つ瀬がありますまい!」
怒ってる(笑) 随一の取引先を自負してるらしいから分かるけども。
「落ち着けって。ライカが国内で売るのは王都圏だけだ」
「は…? それは真で?」
「真だ真。不義理はしねえから安心してくれ」
「信じておりましたぞクロス殿っ!」
「唾飛ばすな顔近えわ!」
「これは失敬。されば注文を請けてもらえるのですな?」
「ああ、うちの書式で注文くれればいつでも請ける」
「やれやれ、安堵しましたわい」
「売って終わりの商品じゃねえから、暇見つけて工房へ来てくれ」
「インクとペン先の交換ですな?」
「よくご存じなこって」
「されば明日の午後に工房へ伺います故、今日はこれにて」
「はいよ」
現金なおっさんだ。ウチもそろそろ事務方の従業員を雇うべきかもな。




