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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第1章:出逢い編

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8/61

08:借り=貸し



 ユウトを治療院に担ぎ込むと、医者兼魔術師の爺さんがユウトに何かの魔術を使ってから、


「下顎の左半分と右肘が複雑骨折じゃ。肋骨もズレとる。普通の治療じゃ治らん」


 と言った。顎は凹んだ上に歪んでんだから見りゃ分かる。


 打撲や内出血は【治癒】の魔術薬で治るが、なるべく早く【復元】の魔術薬を使わないと、肋骨や顎の骨、歯列、右肘は歪んだままになる、と。

 合気柔術には整形外科技術があるから多少は知ってる。

 ズレた骨を正常な位置に戻す整復とか、現代医療の鋼線やネジで直接固定する技術がないんだろう。


「その魔術薬って二つでいくら?」

「【治癒】は常備しとる低級で構わんから十万。じゃがのう、【復元】は二百万くらいみておかんと手に入らん。どっちもシリンじゃぞ?」

「ボッタクリーンかよっ!」

「あのねイオリ、【復元】は作れる人が少ないからそれくらいしちゃう」

「医療保険は神だったのか…」


 医療用魔術薬には治癒系と治療系があり、薬効の度合いは低・中・上・最上の四種に分けられているそうだ。

 治療系の上級魔術薬が【復元】で、そんな物を常備している病院は王都の王立治療院くらいだと。


「分割払いあり?」

「ないのぉ。そもそも領内で【復元】を作れる人物は一人だけじゃ」


 確実にルーカスだな。

 合計で二百十万シリン……はぁ、仕方ねえか。


「リリ、悪いけどカノンと一緒にいてやってくれる? 無理?」

「それは構わないけど、何するの?」

「ルーカスに頭下げるしかない」

「あ、前借り?」

「どの面さげてって感じだけどな」


 働く前に借りるなんて我ながらあり得ねえと思う。風俗嬢じゃねえんだし。

 が、四の五の言っても進まないので、病院からルーカスん家へ走った。

 バイクとは言わんけど、せめてチャリがほしい。


ドンドンドン!


「ルーカスくーん! あーそー」


バンッ!


「それは止めろ! 早く入れ!」


 出てくんの早いじゃん。次回も遊びに誘おう。


「今日は来ないと思っていた」

「なぜに」

「友人が見つかったのだろう?」

「わお、実はネットとSNSあったり? ユウト悲惨がトレンド入りか?」

「意味が分からぬ」


 聞けば朝イチで代官府へ行ってくれたそうだ。

 その場に警備隊総隊長が呼ばれ、ユウトとカノンの風貌を伝えて全面的な協力を取り付けたと。


 その二時間後には新人隊員が息を切らせやって来て、それらしい人物がトラブルに巻き込まれたと報せた。

 ルーカスは文化の違いでひと揉めしたんだろうと思ったらしく、戦士ギルドのリリアーナに伝えてやってくれと頼んだらしい。


「実はユウトがボッコボコにされてさ。【復元】の魔術薬が要る」

「喧嘩沙汰であったか。掻い摘んで話せ」


 斯く斯く然々、以上。


「イオリは戦えるのだな」

「ケンカだケンカ。でさ、働いて返すから頼むよ。このとおり!」

「デイン老は幾らと言った?」

「医者で魔術師の爺さん?」

「老はアデル・デインという名だ。して?」

「二百万シリン」

「妥当だ。手持ちを渡す。原材料費の五十五万でいいが貸しだ」

「ルーカス愛してる!」

「ばっ!? 止めろっ! そこを動くな! 一歩も動くな! いいな!」


 んだよ、ほっぺにチューしてやろうと思ったのに。

 数分で戻ってきたルーカスからショート缶サイズの瓶を渡され、ご丁寧にも借用書にサインさせられた。


 更に患部を詳しく説明しろと言われて説明する。


「肋骨はいいとして、顎と肘の複雑骨折か。ならばもう一つ要るな」


 ラボがあるんだろう扉の向こうへ入ったルーカスが、既視感ありありな物を手に戻ってきた。


「まんま注射器じゃん。クソデカいけど」

「既知とはさすがだな。使い方も知っているか?」

「使ったことはない。つーか、医者の爺さんに頼めばよくね?」

「デイン老は見たこともなかろう。これは帝国で造った特注品だ」


 茶色い紙に羽ペンでカリカリと使い方を書いてもらった。

 ちょいちょい聞く帝国に行ってみたいなと思いつつ、布に包んだ注射器を受け取り玄関へ。


「マジで助かる。ありがとな」

「明日は四人で顔を出せ。注射器もその時でいい」

「わかった。じゃあな」

「落として壊すな」

「はいはい」


 そういえばガラス製の注射器を初めて見たような?

 医者コントで使うようなデカさだし、これもこれでお高いんだろう。


「ほぉほぉ、シルバラッド殿の知己じゃったか」

「ん?」

「ルーカスさんの家名だよ。代官様の甥なの」

「なーるほど。俺ら明日からルーカスん家で働くんだよ」

「そうじゃろうのぉ」

「なにその言い方。あ、爺さんも魔術師だから魔力が分かるんだ?」

「魔術師なら誰でもということはないの。特に未覚醒は判らんはずなんじゃが…」


 爺さんのトリビアを聞き流しながら、リリに手伝ってもらい注射器で薬を吸い上げる。

 デカいもんだから片手じゃムリだ。


 先ずは右脇腹にブスリと刺してプランジャーを押し込む。

 ズレた程度なら内服でも治るらしいが、本番前に練習は必要だ。


「……なあリリ、魔術薬ってキラキラ光ったりしない系?」

「しないけど、光る方がいいの?」

「イオくん、それアニメの視覚効果だと思う」

「む、そういうことか」


 針をズっと抜いて触診すると、逝ってた第七と第八肋骨が繋がっていた。

 そういう物だと分かっていてもスゲー。かなり感動する。


 またリリに手伝ってもらい、残りの薬を全部吸い上げる。

 そして右肘と下顎周りと上唇にブスブスさしてヂュ~。


「おぉ~! こりゃすげえ!」

「私も見るの初めて!」

「アニメみたい…」


 凹み歪んでいた下顎がうねりながら元に戻っていく。

 折れていた前歯も、まるで植物が成長でもするかのように生え揃った。

 でも光ったりはしない…光れよ。


「爺さん、後はよろしく」

「なんじゃ、治癒薬は持ってきておらんのか?」

「ルーカスがそっちは爺さんから買えってさ」

「相変わらず義理堅いのぉ」


 先に【治癒】薬を飲ませると骨折箇所の癒着が始まるため、【復元】した後に【治癒】するのがセオリーらしい。

 なんとなく【復元】は時間の巻き戻しで、【治癒】は早送りのような感じだ。


「私はココアに伝えてからギルドに戻るね」

「分かった、ありがと。リリにも借りばっか増えてくな」

「その言われ方は寂しいよ?」

「あぁうん、ありがとう。リリが困った時には俺がどうにかする」

「その言われ方はすごーく嬉しい♥ じゃあまた後でね」


 横では看護師がユウトの上体を起こし、爺さんが器具を口に突っ込んで喉を開き、【復元】の瓶とは形が違う薬瓶を傾け飲ませた。


「ごほっ…ぅ…」


 覚醒していくユウトがむせているが、爺さんはお構いなしに薬を流し込む。


「うむ、これで大丈夫じゃな」


 爺さんが一気に器具を抜くと、看護師も「はい終わり」といった風情でユウトを手放した。

 後頭部から落ちたユウトの瞼がぴくぴくと動きだす。


「うぅ……え…? えぇっ!? 黒須さん!?」

「よお、久しぶり?」

「川瀬さん!? 大丈夫だったのですか!? あれ…僕は確か……」

「岩崎さんが気絶した後に色々あって、イオく…黒須君が助けに来てくれたの」

「そ、そうでしたか……あの柄の悪い二人組は?」

「あの人たちはその…」


 そんなに言いにくいことか?

 相変わらず奥ゆかしいというか、遠慮がちというか。


「俺がリベンジしておいた。どっちも立派な身体障害者だ」

「え? 身体障害者?」

「えーと、お金がないともう普通の生活は無理かなって…」

「取り敢えず帰ろうぜ。ココアも待ってる。爺さんには十万シリンな」

「【診察】術式代と処置代の三万ユルグが足りんぞい」

「きっちりしてやがる」

「仕事じゃからの」

「そりゃそうだ。三万もユルグねえからシリンで払う」


 心のメモ帳に「ユウト貸し:六十五万シリン+三万ユルグ」と書いて病院を後にする。

 そろそろ昼時なので屋台メシと白ワインを一本買い、ユウトに経緯を説明するカノンの言葉を聞きながらリリのアパートに帰った。



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