78:フラグの呪いを知ってるか
「ふふっ、ふふふっ」
「やけに楽し気であるな」
「そうでしょうか」
「余に話せぬ秘め事とはけしからん」
「陛下は確証がない話をお嫌いになられますでしょう?」
「此度は許すゆえ話せ」
「イオリ・クロスは実力の半分も見せておりませんわ」
「俄かには信じられぬが、根拠を申せ」
「園遊会で赤子の手を捻るように御した二名、いずれも二等級探索者でしたの」
「ほぉ、なれば余は見事に謀れたということか。師といい弟子といい小癪な」
「陛下、あの者は大事になされませ。必ずや大いなる益を国に齎しましょう」
「其方がそこまで言うとは珍しきことよ。されば心に留め置くとしよう」
「さあ陛下、イオリ・クロスの献上品を検めましょう♪」
(余程気に入ったとみえる)
◇◇◇
「上出来であった」
「だろ?」
ラダトゥールという大男は近衛騎士団長で、ヴォーリッツ周辺では魔剣士として名が通っているらしい。
彼が『師に勝るとも劣らぬ練魔は見事!』と言ったので、国王から賞賛され、立ち並ぶ貴族や夫人たちからも拍手を浴びて謁見はお開きになった。
一つ気になるのは、王后が羽団扇で口元を隠し笑ってたこと。
あの王后、その辺ですれ違ったら二度見するくらいの魔術師だったりする。
第一王女と第三王女を園遊会に連れて来てたのも、居並んでいた王子や王女たちの中で、とび抜けた魔力量を誇るからに違いない。
王后の手玉に取られた気がして癪だけど、もう終わったことだ。
「港に行こうぜ。魚介オンリーの食堂」
「悪くない」
小汚いくせにやたらと人の出入りが多い食堂は、やっぱり抜群に美味かった。
どことなくタイやマレーシア料理に似ているのは、気候が似ているからだろう。
「宿へ戻るとしよう」
「俺はその辺ぶらついてから帰るわ」
「土産でも買うのか?」
「当然」
「大通り沿いの商会にすべきであろう」
「分かってねえなあ。いいから帰れ帰れ」
辻馬車に乗ったルーカスを見送り、味のある土産を探す。
商会で売ってるようなモノなんて、自分たちで作った方が万倍良品になる。
そんな物より、貝殻を使った手作りのアクセとか小物の方がらしくて良い。
「おい」
やっぱり俺狙いかと思いつつ、目を細め肩を掴む手を払いながら振り向く。
ん? コイツの緋色の目はどこかで見たような……あ!
「顎カチ割ってやったなんちゃって国賊」(指差し確認)
「なんちゃって国賊って何だよ。やっぱり判っててやりやがったのか」
「ナンノコトカナ」
「片言になってんじゃねえよ。俺はジェノだ」
「イオリ。んなトコで荷物抱えてなにしてんの」
「出航待ちだ。迷宮都市に戻るんだよ」
ほほぅ、探索者か。結構いい動きしてたもんな。
「船が沈まないことを祈る」
「縁起でもねえこと言うな!」
フラグの呪いを知ってるとはやるじゃないか。
「で、何の用だよ。ずっとつけてたろ」
「いつ気づいた」
「食堂に入るちっと前」
「チッ、最初からかよ。自信なくすぜ」
「はいはい、それが本題じゃねえんだろ。とっとと話せ」
「…真面目な話、俺たちのパーティーに入らないか?」
「無理」
「即答かよ!」
「規定的に無理なんだよ。八等級なもんでな」
「は?」
「八等級イエーイ」(サムアップ)
「はぁぁぁぁ、どこまでふざけた奴なんだ…」
「ふざけちゃいねえけど、面子が足りねえの?」
「解散したから妙な依頼受けて顎割られたんだよ! 今は相棒と二人だ」
「あの斥候っぽい奴か」
「ぽいって言うな。一流とは言わねえが、二流でもそこそこ上の方なんだぞ?」
へぇ、俺ってそこそこ潜れるんじゃね?
「ま、縁があればまた会うだろ」
「迷宮都市に来るのか?」
「欲しい迷宮素材が手に入らない時はな」
「欲しい素材? イオリが素材を使うって意味か?」
「錬金工房で働いてっから」
「は?」
「イエス錬金術師」(サムズアップ)
「俺は錬金術師に顎割られたのかよ……」(四つん這い)
「強く生きろよ? じゃあな」
「ジェノとフェルドだ! 忘れんなよイオリ!」
「忘れなきゃ憶えとく」
「忘れんなっつってんだよ!」
「忘れなきゃ憶えとく」
「忘れんなっつってんだよーーーーーーーっ!!!」
あいつ四つん這いのまま叫ぶとかセンスありすぎて怖いわ(笑)
こっちの奴は最後まで乗ってくるから面白い。
「お、これカワイイな。お、これもいいな。しかもお安い!」
「お兄さん買って?」
「キミを?」
「高いよ?」
「破産するから無理だな(笑)全部キミの手作り?」
「そうだよ」
「心がこもってる感じがする」
「ほんと? 嬉しいな♪」
「んー、コレとコレと、あとコレを二つもらう」
「ありがとう! お兄さんの恋人が二人とも幸せになりますように! はい」
「願ってくれてありがとな。釣りは取っといて」
「やった♪(お兄さん善い人だあ!)」
プライスレスな土産は、一つじゃない方が俺は嬉しい。
安い物でも選んでくれた感があって、それが二つ三つだと尚嬉しい。
ココアには赤いピアス。リリには白いピアス。そんで青いイルカモチーフのブレスレットをお揃いで。これを入れる小物入れも探そう。ユウトとカノンは何を喜ぶだろう。干物? それ俺が欲しいヤツ。
「おっちゃん、干物ってアデーレに送れるか?」
「もちろんだ。九月から年末までは生も送れるぜ。送り賃がやたら高いけどな」
寒い時期だからか。ん? 干物は自分で塩水に浸けて干せば良くね?
「運賃って幾らくらいだ?」
「この大きさの魚が四本入る箱で五十万ユルグだ。縦積み四箱まで五十万なんだが、ちゃんと氷が入るぜ。それもあって送り賃が高い」
へぇ、冷凍魔導器もってんだ。箱の面積が五十万なら四箱買うしかないだろ。
「ちゃんと発送してくれよ?」
「兄さんちっと考え違いしてるぜ」
干物にしろ鮮魚にしろ、早馬引き継ぎ輸送が出来る商会に魚介を買う店を指定して金を払うのだと。すると「明日荷積みする」と連絡が入った上で商会の従業員がやって来て、店前で荷積みしそのまま王都を出発する。
但し、街ごとに馬を変えるため早いが、日持ちしない品の荷積みは出発直前に回され、馬車が満載になる日も判らないのでいつ届くか判らない。当然ながら荷積みする日にどんな魚介が水揚げされるか判らないため、届いてみないと何が入ってるか判らないし、魚介の値段も判らない。なんてスリリングな宅配便だ。
「ライカ商会はイケる?」
「はっ、政商様の名が出るとはな。もちろんイケるぜ。にしても兄さん上等な衣装を着てるはずだ。まさかお貴族様じゃありやせんよね?」
「まさか。新鮮なモンを確約してくれるなら、おっちゃんの店を毎年指定する」
「おぉ! 積む日に上がった魚の中でもとびっきりのを選ぶぜ!」
「んじゃあ、魚四種の二箱と、デカい海老と美味い貝を詰めた二箱で」
「四箱か!? こりゃ港を駆けずり回ってでもとびっきりを出すしかねえな!」
「頼むぜおっちゃん」
「任せてくれ兄さん! 商会ではレビ噴水前のマルコって言ってくんな!」
「了解だ」
確かにマルコって名はよく聞くと思いつつ、夕方まで土産を探し回り、辻馬車を拾ってライカ商会本店に寄ってから宿へ戻った。
◆◆◆
長かった。誰に会ったか殆ど憶えてねえ。名刺は漏れなく渡したからよし。
「遅くとも九月三十日には戻る故」
「分かった。気が済むまで探しゃいい」
カーン! カーン! カーン! カーン! カーン! カーン!
「西行き航路の船が出るぞぉーーーっ! 西行き航路の船が出るぞぉーーーっ!」
「ではな」
「船が沈まないことを祈る」
「感謝する」
フラグの呪いを知らないルーカスが、沈むかもしれない船に乗り旅立った。
さて、俺は帰るとしますかね。俺さ、帰ったら結こ……シャレにならん(笑)




