75:国賊となんちゃって国賊
平民街と貴族街を別ける内郭前のデカい宿にチェックイン。
悔しいが銀の車輪を圧倒する豪華さを誇る宿は、辺境伯の奢りらしい。
短くとも二十日間は泊まるので、一体お幾らの支払いになるのやら。
夕食には早すぎるので、ルーカスの要望で外出した。
向かった先はホランドン錬金工房の正門が見える街路。
「二人ともいる。つーか、あの出荷指示してるデカいのが片割れだ」
「やはりタガートであったか」
「やっぱ知ってんだな」
「ジェフがベルンの貧民街で命を救った男だ。以来従者が如く付き従っている」
「へぇ、かなり鍛えてるよな。強そうだ」
「戦力は関係ない。ジェフのためなれば、タガートは歓喜して命を捨てる」
「信奉者タイプかよ。めんどいわぁ」
「イオリよ、ジェフについて話しておきたい故、聞いてくれ」
(聞いてくれって、お悩み相談か?)
頷きを返すと、ルーカスも一つ頷いて語り始めた。
大したインパクトがある話を。
ジェフリー・ホランドンはヴォーリッツ王国先代国王、トルドバート・ヴォーリッツが晩年に侍女を孕ませ生まれた私生児。
先王は侍女を第五妃に迎えジェフリーも認知しようとしたが、婚姻証明と王族籍証明にサインすることなく急逝した。そして当時の第一王子が即位し現国王となり、ジェフリーは母親と共に王都を追放されたという。
侍女だった母親の性根も良いとは言えなかった。
追放された後も自分は先王の第五妃でジェフも第七王子だと喧伝し、その事実を知る貴族家や、信憑性の高い噂として知る大手商会から、かなりの額の借金を繰り返していた。
「私とジェフが出逢ったのは、領都ベルンの魔術学院であった」
ルーカスは系統魔術なら光系統との相性が最も高く、ジェフは闇系統との相性が最も高かった。が、二人は共に錬金術を最も得意としていた。
才能豊かな二人は互いを認め合うライバルとして意気投合し、ベルンの魔術学院では学びが足りないと考えた。しかし、ジェフは王都を追放された身の上であり、王都の魔術専修学院に入学することは出来ない。
そこでルーカスはルベリオン帝国皇立アカデミーへの留学を提案し、ジェフもそれは最良の選択だとして帝都へ赴いた。
アカデミーは五年制なのだが、二人がアカデミー生としての五年目を目前に控えていた頃、ジェフは母親の訃報を知り休学して帰国した。帰国したジェフが知ったのは、母親が国家反逆罪に問われ、大罪人として王都の中央広場で公開処刑された事実だった。
これは、王族を詐称し莫大な借金を繰り返している事実を知った現国王が、国の威信に係わる重大事として処罰した結果だ。放置すれば、ジェフを担いで反乱を企てる者が出ないとも限らない。
「その頃であろう。二ノ竜がジェフに目を付けたのは」
ジェフがアカデミーへ戻って来ることはなく、ルーカスは異国人として初の首席卒業を果たし、帝国の国家認定魔術師となった暫くの後に帰国。現国王に帰国の報告と、帝国の認定魔術師になったが故郷に貢献したいと伝えたルーカスは、按じていたジェフを探し出し邂逅する。
どちらかと言えば恰幅が良い部類だったジェフは痩せ細っており、優しかった目元に数年前の面影はなく、更にジェフリー・ホランドンと名乗られた。
「ホランドンって誰」
「判らぬ。判らぬが、ジェフは王都にホランドン錬金工房を構えていた」
大罪人の息子という過去を消すための偽名か、二ノ竜に存在するホランドンという人物の養子になったか、真偽の程は判らないがその辺りだろうと。
「十中八九、ここが二ノ竜の拠点にして資金源となっている」
「あぁなるほど、資金源としては優良だわな」
「イオリよ、私は葛藤しているのだ…」
だろうな。この世界の命は軽い。
裁判制度はあるらしいが、権力者が黒と言えば黒になるんだろう。
もし国王がジェフリー・ホランドンに纏わる話を知れば、面子に懸けて潰しにかかるのは間違いない。
「ジェフでもジェフリーでもなく、ルーカスがジェフリー・ホランドンを許せるかどうかなんじゃねえの」
「イオリは物事の核心を突く能力が高いな」
「ルーカスは物事を難しく考えるのが好きだな。ユウトと気が合うはずだ」
「イオリが私の立場なればどうする」
なに迷走してんだか。
「たら、れば、に意味はねえだろ。俺はリリとココアを守るためなら、ホランドンを徹底的に潰す。目に付く二ノ竜も即潰す。ついでにユウトとカノンとルーカスも守る奴の中に入れてやる。咽び泣いて感謝しろ」
「フッ、お前という奴は実に単純だ」
「そりゃ誉め言葉だな。シンプル イズ ベストって言葉を脳に刻んどけ」
「そうしよう。されば戻るか、我が心は決まった」
◆◆◆
君主制の国家権力がヤバすぎる。一昨日の今日で宮廷魔術師団の上位六名、正騎士隊二十名、正規兵二百名がホランドン錬金工房に突入するらしい。
俺も行くと言ったんだが…
「イオリ様は背が高くていらっしゃるのね♪」
「(だから!?)畏れ入りますシスティナ殿下」
「殿下だなんて他人行儀ですわ? どうかシスティナと♥」
「(他人だろ)流石にそれは不敬がすぎるものと」
「イオリ様、わたくしともお話いたしましょう? 姉上とばかりはズルイですの」
「(ウザ!)私如きでよろしければ何なりと」
「我儘は見苦しくてよアイリーン。システィナも少しお控えなさい」
「申し訳ございません、母上。(品定めなんて面倒ですの~)」
「失礼いたしました、母上。(嫌々来ましたけど好みですわ♥)」
園遊会ぃぃぃぃぃぃぃぃぅがあ!!! 生贄か? 俺は生贄なんだな!?
「クロス殿の衣装は斬新で素敵なことね」
「お褒めに預かり光栄に存じます陛下。工房で仕立てた品にございます」
「あらそう。女性の衣装はどうなのです?」
「ドレスやアクセサリーにも手を広げる計画はございます。もしデザイン画やサンプルなどご覧頂く機会を賜れるならば、幸甚の至りに存じます」
「それは楽しみだこと。(意外に弁えている。見栄えもするし悪くないわね)」
招待されてる貴族連中は遠巻きに観察しては、ヒソヒソと批評を繰り広げてる。
ルーカスによれば、食事に招待する価値が俺にあるか否か品定めをする場だと。
俺だけのことならテキトーでいいものの、クロス工房の先行きが懸かってるとか言われちゃあ耐えるしかない。あとは、辺境伯が半笑いで言ってたイベントがあるのかないのか。
(料理も濃い味の肉ばっかだし、ワインは美味いが酔うわけにもいかず…)
数人の貴族家当主や令息、令嬢に話し掛けられつつ三時間ほど経つと、王妃と王女らに挨拶して帰る貴族がチラホラと出始めた。すると…
「賊が侵入した! 目視二名! 陛下方を守護せよ!」
どこからともなくフルプレートの重装兵五名が王妃たちを取り囲んで大盾を構え、更に十名の騎士が円陣を組み抜剣した。
(イベントってこれ? 萎えるわぁ。頭数を教えたのは優しさか?)
招待された貴族たちは知らされていないようだが、中には「あーはいはい」みたいな余裕を感じさせるオッサンもいる。
何より、視界の端に見切れて映る王妃たちに余裕がありすぎる。百歩譲って王妃は気合い入ってるとしても、第一王女は十六歳、第二王女は十二歳。その余裕は流石に無理ってもんだろう。騎士や重装兵も構えが緩い。要するに出来レース。
「ま、ストレス発散させてもらえるってことで」
上着を脱いでネクタイを緩め、黒ずくめの賊に襲いかかる。賊を襲うて(笑)
「キッチリお開きにしてえから覚悟しろよゾッキ―」
「チッ、こいつは任せろ。お前は王后をやれ」
「応」
ズバンッ!
「なっ!?」
「はい残念。抜け駆けするには遅すぎだ」
格闘ゲームよろしく舞うステップを踏んでの側頭ハイキックでワンダウン。
後遺症が残らないことを神にでも祈れ。ついでに、
ゴキン!
「ばっ!?」
白目剥いてる賊の大腿骨を踏み抜いておく。
「さぁてお前はどうしてやろうか……そうだ、顎粉々の刑で」(サムアップ)
「ままま待てっ! これは――」
ゴギャゴキゴキゴキィィィッ!
ガゼルパンチで粉砕して終了。王宮なんだから上級治療薬くらいあるだろ。
ガゼボへ歩み寄れば、騎士と重装兵たちが「コイツなんてことしやがる!?」みたいな顔で道を空け、王妃と王女たちも顔を引き攣らせている。
「陛下、殿下方、賊は錬金術を駆使し倒しましたのでご安心ください」
(((((((((((((((ふざけんな!)))))))))))))))
「…ふふっ、ふふふふっ、見事な錬金術、大儀でした。(面白い子だこと)」
「錬金術師はお強いのですねイオリ様!」
(姉上のこと大好きですけど、頭がお花畑ですのよねえ)
上級治療薬もあるみたいだし、お開きになったからヨシ。




