74:真相
鍵を壊した裏口に来られたら戦るしかないと腹を括ったが、マーカーは店舗の方へ動いて行く。暫く待ってみたがマーカーが一定速で街を歩いて行くため、ブーストをかけたまま遠目で後をつけていく。それにしても賑やかな街だ。
魔術師はローブを着てフードも被っているため判然としないが、かなりの瘦せ型。もう一人は大柄でロングソードを佩いている。
(マーキングチャレンジ)
剣士の方は安牌だが、魔術師は直感タイプ臭いのでちょっとドキドキ。
(念のため変調しとくか。どうよ…………おけ。つーか串肉の匂いがヤバいな)
三人は南門方向へ表通りを歩いて行くため、これは好都合だと露店で串肉を三本買って歩き食い。食うと余計に腹が減ってくるというね。
(宿か。この時間ならそうだよな)
宿の対面の露店で焼き鳥っぽい串肉を追加購入しながら脳裏でマーカーを追うと、男二人はさっさと二階の奥まった部屋に入り、女は部屋を取ってなかったのか、暫くして三階の部屋へ入った。折角だし、男たちの会話を聞いておきたいところだ。
「ホント用心深い奴だな。逆にバレバレなんだが、わざとか? まぁいいや」
魔力波がダダ洩れなのでサクッと部屋を特定し、好都合なことに路地側の最奥なので足場で上り窓際の外壁に背を預けた。ちょっと簡単すぎる気はするが。
「いずれにしろ、今ヴォーリッツを捨てるのは惜しい。戦勝すれば大国の一角だ」
「大勝するだろうって理由は判るが、この依頼を続けるなら――」
「いや、元々深追いする類の依頼ではない。私の勘も手を引けと言っている」
「だが依頼人の準男爵は知己なんだろ? 何て言う気だ。竜の面子もあるぞ」
(はい確定)
「昔の単なる顔見知りに何を言う必要もない。殺して終わりだ」
(おいおい)
「依頼人ごと依頼を揉み消すのか。殺るのは構わんが俺か? 俺は目立つぞ?」
「あの愚物は明晩にも私が殺る。お前にはイレイアの始末を任せる」
(こいつ容赦ねえな)
「イレイアもか。確かにその方が万全だな。分かった、任せてくれ」
「片付次第で王都へ戻る。そも標的がルーカスだと知っていれば請けていない仕事だ」
(は?)
「そうだよな。ま、どんな道を行くにしろ、俺はジェフに従うまでだ」
何なんだこの展開……女を助けるべきなのか?
こんな判断、俺には出来んぞ。
取り敢えず空をダッシュで代官府へ戻り、屋上から入って通りすがりの侍女にルーカスの居場所を尋ねる。
「晩餐まで少し時間がありますので、貴賓室におられるものと存じます」
「案内してもらえますか」
「畏まりました」
コンコンコン
「シルバラッド様、クロス様がお越しでございます」
カチャ
「どうぞお入りください」
「(うわぁ、正気かよ)どうも」
侍女も邪魔だが奥の壁裏と天井裏にも誰かいる。
ガチで狙ってる割に頭が悪すぎるぞ。えーと…
「師匠、晩餐前に申し訳ありませんが、魔銀の鑑定をお願い出来ませんか」
「よかろう。時がないゆえ直ちに案内せよ」
「ありがとうございます(そりゃ気づいてるよな)」
実は準男爵って切れ者じゃなくアホじゃねえのと思いつつ、俺の部屋前で控えてる侍女にげんなりしながら入り、ルーカスをデスクチェアに座らせる。
「すみませんが外してもらえますか?」
「畏まりました」
退出する侍女が扉を閉めたところで、念のため声を抑えて話す。
「先にどうでもいいことから。どこが切れ者なんだよアホだろ」
「全くだ。内政手腕に限った噂であろう」
ともあれ、準男爵が二ノ竜の依頼元であること、二ノ竜の魔術師が明日の夜にも準男爵を殺しに来ることを伝えたら、ルーカスが『イオリは諜報に長けているのだな』などと、すっとぼけたことを宣った。
続けて二ノ竜が女魔術師も始末するつもりだと伝え、助けるべきかと尋ねたら、自業自得だし、仮に助けたとしても早晩自死するぞと返され、ご尤もと思い忘れることにした。
「ここから核心な。ジェフって学友はいるか?」
「ジェフリー・ホランドン」
「はっ……はぁぁマジかぁ。ひょろっとした痩せ男?」
「ま、まさか、魔術師の愛称がジェフであったのか!?」
唇に立てた指を当てながら一つ頷きを返し、伝え残しを口にする。
ジェフが準男爵と顔見知りであること。片付けて王都へ戻ると言ったこと。標的がルーカスだと知っていれば依頼を請けていないと言ったこと。
「何と愚かなことを……」
「なあ、ホランドンって工房主なんだよな? 裏家業に手を出す暇があんのか?」
「ホランドン錬金工房は、魔術師と技師の総勢が二〇〇名を超える大工房だ。私やイオリのように全てを差配する必要はない。それにジェフの身の上は……」
聞いてねえことまで話さなくていいっつーの。
「全部を知りたいわけじゃない。今回の一件は準男爵と女を殺して終わりにするつもりみたいだから、ココアたちも大丈夫だろ。大丈夫って伝えるのはアデーレに帰ってからにするけど。何にしろ、俺の手が必要な時は言ってくれ」
「すまぬな」
「らしくねえこと言ってんなよ。ほれ、準男爵の最後の晩餐に付き合ってこい」
「辛辣なことを言うものだ」
ジョーク寄りなことを言ったんだが。
ま、こっちに最後の晩餐なんて壁画はないからな。
翌朝、女魔術師は姿を見せなかった。パーティーリーダーはテキトーすぎる言い訳で詫びを入れ、報酬を減らしてもいいから最後まで続けさせてくれと頼み、ルーカスはわざと難色を示しながらも、最後には承諾してシュミッツを発った。
色々あったが旅程どおりに着いた王都は、「シュミッツ代官が毒を煽り自死した」との噂で持ち切りだ。聞こえてくる分には尤もらしい憶測が飛び交っているものの、二ノ竜が何もなかったことにするため噂を流したのだろう。
客観的に見れば三流ミステリーだが、係わっていたことを考えると空恐ろしさを覚えてしまう。皆とバカ話をしてる方がいい。早くココアとリリに会いたい。
「どっちか言うと王都よりシュミッツの方が…おおっ!?」
「何事だ!?」
あ、思わず馬車から跳び出してしまった。
「ルーカス見ろよ海だ! なんかもうキレイな海だぞ!」
「…驚かせるな。イオリの故国は島国であろうに。何も珍し――」
「バッカお前島国だからこそだろ! 海だ! 魚介だ! 海鮮料理だ!」
「海の前に宮廷で到着報告ぞ。三十九日は王后陛下ご主催の園遊会ゆえな」
「うん、庭園で遊ぶにはいい季節だもんね。ってドアホか! 聞いてねえわ!」
「予定表を渡したであろう」
「んなもんイチイチ見るワケねえだろ! 恥を知れ!」
「常に恥を知るべきはお前だ。乗れ」
「くっ、海のバカヤローーー!」
最近言うようになったルーカスにユウト臭を感じながら、こんなもんかなといった風情の王宮へ、もとい宮廷へ。王宮と宮廷の違いを初めて知りつつ到着報告を済ませ、次に向かった先はライカ商会というヴォーリッツ王国の政商本店。
モノ造り関連はちゃんと憶えてるので、流石の品揃えに感心しながら必要な材料をピックアップしてお会計。初老の店員があたふたしてるなと思っていると、息を切らせた恰幅の良い…まぁデブが階段を下りて来た。
「ふぅ、過日以来ですなシルバラッド殿、無事なる来訪祝着至極にて」(大汗)
「ご丁寧に痛み入る会頭殿」
(やっぱり会頭か。儲かってる体形してるわ)
「部屋は用意しております故、参りましょうぞ」
ルーカスに目で促され付いて行った先は応接室。
「先ずは我が一番弟子を紹介させて頂く」
「おぉ、こちらが若いながら工房権を継承するという。ライカ商会会頭、オーベルン・ライカと申す。見知り置きくだされ」
「シルバラッド錬金工房のイオリ・クロスです。こちらこそどうぞよろしく」
儲かりまっかボチボチでんな的なジャブを打ち合いながら女性従業員がお茶を淹れるのを待ち、彼女が退出したところでルーカスが目を向けた。
「イオリ、万年筆の製作をご覧に入れよ」
「はい、師匠」
この展開は予定どおりで、今日やるか明日の夜かの違いだけ。
アデーレ代官と辺境伯にはプロモーション用に贈呈済みで、国王と王后に贈呈するゴージャスバージョンも持参している。今回は王都圏で販売してもらうためのプロモーション製作で、概要はルーカスが手紙で既に伝えている。
「【造形】【造形】【塗装】【鍍金】【定着】【添加】【封入】【刻印】」
「な、何たる技巧…!?」
「我が弟子ながら呆れる腕前でしてな」
キリキリカチッ カチッ キュッ カチッ カチッ クルクルキッ
「完成です。これの商品区分は高級品になります。書き味を試してください」
「さ、されば……っ!? 素晴らしい! この艶、造形、装飾、全てが極上!」
「基準、高級、最高級、別注の四種があり、分解しようとすれば自壊します」
「なんと!? 是が非でも売らせて頂きたい!」
諸々の詳細を資料で説明し、王都圏独占販売権付き売買取引契約を結んだ。




