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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第4章:立身出世編

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73:交易都市シュミッツ



 鳩は煮るなり焼くなり好きにしていいが、逃がしたら辺境伯が激怒する。


 そんな戯言を宿の主人に吹き込んで宿場町を発ち、今日の目的地は唯一の楽しみと言っても過言じゃない交易都市シュミッツ。途端に馬車の行き足を遅く感じる自分の期待値が高すぎて笑える。


「あの女、今日にもバックレそうだぞ」

「であるな」


 昨夜ルーカスの部屋でざっと聞いた話によると、一ノ竜と二ノ竜は、大陸規模の懸案事項になって久しいそうだ。


 王侯貴族の暗殺も平気で請け負うため殺害された人数は増える一方で、貴族が依頼を出して敵対する貴族を暗殺したと思しき事案も増加の一途を辿っている。


 そんな状況に一石を投じたのは、大陸西方の雄にして、世界最大最強国家と謳われるルベリオン帝国。先代皇帝は即位後の初仕事として、帝都にあった一ノ竜の拠点潰しと構成員の殲滅を命じ、見事に成功を収めた。


 結果、一ノ竜は勢力を弱め、ここぞとばかりに西方諸国が一ノ竜征伐に動いたため、一ノ竜残党の多くが二ノ竜に吸収されたと推定されている。


 一方、大陸東方にはこれといった強国がなく、それこそ帝国貨幣価値の三分の一しかないヴォーリッツが有力国の一つに数えられる状態。東方各地で戦争が起こっているとあって、二ノ竜にとってはウマい稼ぎ場と化している。


 過日に起きたジャンによる鉄塊の横流しも、ほぼ間違いなく二ノ竜が暗躍していたと目されている。とっ捕まえた双剣使いの構成員は、牢にぶち込まれたその日に自死したそうだ。


 そんな彼是が起きてるもんだから、ヴォーリッツ王都にも二ノ竜の拠点はあると推察され、国は何とかして潰したいと考えている。二ノ竜の構成員を是が非でも捕縛して情報を吐かせたいわけだが、自死を止める方法がないという。


「逃げたらどうすんの」

「捕らえる。いや、頼めるか? 昏倒させてもらわねばならん」

「構わんけど、自死の方法は判ってんの?」

「イオリとユウトに施した【誓約の楔】の上位であろうが、実のところは未知だ」


 過去に捕らえた構成員は漏れなく自死していて、漏れなく吐血している。解剖してみれば、これまた漏れなく心臓と両肺の内側が引き裂かれていた。しかし外傷はない。心臓を覆うように闇系統の術式が施されたと推察されるが、自死の意識、もしくは、囚われた意識で自動発動する術式は未知の領域だと。


「ミレディの領分か」

「彼女も知らぬと答えた」

「あれま。契約の楔と言えば、帰ったら錬金溶液作らないと。憶えてねえけど」

「私がアデーレを発つまでに調液、調剤集の写本を譲る」

「マジか! それ助かるわあ」

「対価としてシュミッツに安値で薬剤を供給してくれ」

「お安い御用だ。半値でいいぞ」

「重畳だ」


 複合魔導具の複数術式が魔力遮蔽しなけりゃ相互干渉で機能しないのと同じで、心臓周辺ごとがっつり魔力で覆えば発動しない気がしなくもない。女が逃げたらとっ捕まえて試してみるか。


 まあ、逃げるとしたらシュミッツに入った後だろうから、魔力線でマーキングしとくべ。


「今何をした」

「くっ、気づかれるとは!」

「これだけ近ければ気づく。しかし何をしたか判らぬ。何をした」

「あの女に魔力線飛ばしてマーキング」

「……それだけのことを為せて、なぜ系統魔術に手を出さぬのだ」

「なんでだろな?」

「はぐらかすな」


 面倒くせえ。


「自制心の塊みたいなカノンがはっちゃけるんだぞ? 俺が修得すっと何するか分かんねえだろ。ぶっちゃけ造水とかすげえ魅力的だけど、一つでも覚えたら自制できる気がしねえ」

「確かに」

「即肯定かよ!」

「フッ、イオリは自身を深く理解しておる」

「爺さんに説教されてただけ」

「良き師であるな」

「まあな。鬼だけど」



 そんなこんなでやって来ました交易都市シュミッツ。


「いやシュミッツいいわ~。絶景だわ~」

「先程交差した街道は、帝都まで繋がっておるからな」


 だから色んな人種や種族がいるのか。

 つーか、俺的にはデカい湖の真ん中に都市があるって光景がたまらん。


 上物の重量を考えれば、浮島じゃなく楕円ドーナツ型の湖なんだろうが、橋か船でしか都市へ渡れない。だから魔獣対策の外郭がない。

 敷地が限られてるから既に開発限界にきたのか、ちょっとした街が対岸の湖畔を取り囲んでる。魔獣上等って感じでチャレンジングなとこも嫌いじゃない。


「流れ出る川しかねえのに水が綺麗だな。湧水湖?」

「然り。強いて難点を挙げれば、水脈が深く岩盤があるため井戸掘りがな」

「ルーカスが掘ってやればいいじゃん」

「そのつもりだ」


 腕利きの魔術師が代官ってのはアドバンテージだな。


「話は変わるんだけど、アデーレに早く手紙を送る方法ってある?」

「二日で届ける方法はあるが、何を急ぐ」


 独り身のルーカスは思いつかないかもしれないが、俺は二ノ竜に手を出した。

 拘束した十六人は既に死んでるんだろうが、リーダー格の言葉が頭を離れない。


『我らの死は、貴様らを地獄に落とす序章となる』


 俺が実行したかどうかは、二ノ竜にとってどうでもいいだろう。

 俺の面が割れてて、アデーレに恋人と友達がいるって時点でヤバい。

 一番ヤバいのはココアだ。


 リリは本気を出せば掛け値なしに強いともう判ってる。ユウトとカノンもそうそう負けやしない。でもココアは違う。西広場の工場へも、当面は独りで行かせられない。


「警告か」

「ああ、後回しには出来ない」

「シュミッツ代官府から辺境伯府を経由し、アデーレ代官府へ魔鳥便を飛ばせる」

「もうじき陽が暮れっけど飛ばせるか?」

「鷲型と梟型を揃えておる故、心配は無用だが…」

「だが、なに」

「これから会う代官が黒幕の可能性は低くない。準男爵だが切れ者との噂だ」

「マジかよ面倒くせえな」


 ルーカスがシュミッツ代官になるのは、前任の男爵代官が若くして急死したから。彼には子供がおらず親族も妹だけなので領主は準男爵を代官に据えたが、交易都市が上げる利益を考えれば、色気を出すなと言う方が無理だろう。


「閣下の命として私が直々に飛ばす故、入府次第にて急ぎ認めよ」

「分かった。頼むよ」


 代官府に入って挨拶もそこそこに部屋へ案内してもらい、手紙を書いている最中に女魔術師が動いた。書きながらマーカーの動きを感じていると、シュミッツから出て行く動きじゃない。


(隠れ家でもあるのか? 何にしろ好都合だ)


 書き終えて着替え、案内してもらうと、ルーカスは準男爵と歓談していた。

 ぱっと見は普通のオッサンだが、人は見掛けに寄らないともいうし。


「ご歓談中に失礼いたします。師匠、デルリング閣下への贈呈品追加上申を纏め終わりました」

「さればファーガス殿、魔鳥を拝借いたします故」

「お好きに使ってくだされ」

「真に有難く。ではまた後ほど」


 屋上へ続く階段を上りながら女が動いたことと、シュミッツ内に隠れ家がありそうなことを伝え、上着とベストを預けて街の灯りを頼りに足場で空を駆けた。


「ベタっつーか何つーか…」


 言うたら少しばかりオシャレな店構えの酒場。

 中は結構賑わってるが、女のマーカーは地面の下。地下室だな。


 路地に入って店の裏手へ回ってみると、これまたベタな鐵の扉。

 軽くノックしてみたが反応なし。引き戸だが施錠されてる。


バキンッ!!


「おじゃましまーす…」


 暗い。ほぼ真っ暗。ブレインブーストで夜目を利かせてコソッと侵入すれば、またまた怪しい鐵の扉。マーカーの位置は斜め下。人数は三人。一人は魔術師。感知かけてやがる。用心深いくせに施錠してないのはなぜかしら?


キィ…


「判らないわよ!」

「要領を得ねえな。魔術師込みの十六人だぞ? 誰にそんな芸当ができる」

「だから判らないって言ってるでしょ!」

「喚くな落ち着け。シルバラッドも護衛も動いちゃいねえんだな?」

「ええ、工房を継ぐ若い男が用を足しに行っただけよ」

「そいつじゃねえのか?」

(ご明察)

「男にしては長かったけど、前と後ろを始末できるような時間じゃないわ」

(十分くらいかかったもんな)

「嫌な感覚だ。お前、尾行はされていないだろうな?」

(魔術師も鋭い)

「そんなヘマしてないわよ。かなり歩き回ってから来たもの」

「ジェフの嫌な感覚は当たるからな。引き上げるか?」

「そうしよう」

「私も一緒に行くわよ!」

「好きにしろ」


 今じゃないと感じたため扉をそっと閉め、裏口を抜けて身を潜めた。



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