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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第4章:立身出世編

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70:挨拶回り


 六月九日、昼休憩のリリもルーカス宅へ来てくれた。


「イオリ超カッコイイ♥」

「センパイって身長あるから何着ても似合うよね…」

「なぜジト目?」

「スケコマしそうだから」

「コマさねえし変な動詞作んな」

「でも本当に似合ってる。ね?」

「ええ、見栄えがします。危ない若頭みた痛いです!」


 確実にユウトが調子に乗ってきている。

 確実にDTを卒業したからだ。帰って来たら調教せねば。


「んじゃ苦行してくる」

「ユウト、カノン、留守を頼む」

「「はい」」

「あたしが入ってねーしー!」

「キレるなキレるな。ココア、リリ、いい子にしてろよ」


 二人にキスをして抱きしめた。


「「はーい♥」」


 言うて今夜はすぐそこの代官府なんだが。どこから調達してきたのか偉そうな馬車に乗り込み、何度も言うがすぐそこの代官府へ。


「晩餐なんだよな? 早すぎじゃね?」

「伯父上だけに会えば良いというものではない」

「さいですか」


 「あ」っと百回くらい言う間に代官府に着いて降りると、証札の時に絡んだ偉い方の官吏が、数名の手下を連れて待っていた。


「ようこそお越しくださいましたシルバラッド様、クロス殿」

「世話になる」

「どーもー」


 ルーカスにメンチを切られたんだが。

 まだ地元なんだからいいだろうよ。顔見知りだし。


 連れて行かれたのはパーティーホールのような部屋で、奥の扉前には長蛇の列ができあがっている。


「ウソだろ? アデーレでこの人数って正気か?」

「居住地なのだから道理であろうに」

「あ、減ってくわけね」

「王都はあの人数に数倍するがな」

「増えんのかよー」(白目)


 一気に挨拶というか顔見せするのはアデーレと領都ベルンで、王都は面会希望の貴族連中と個別に会うそうだ。どうやら王都では、俺らのことが噂になっているらしい。魔術薬と魔導具を大量に造ったわけだし、分からんこともないが。


 ともあれ、見世物席にルーカスと並んで座らされるや否や、会計局長だの鉱山管理局長だのと名乗りながら挨拶されていく。自分の名前をこんなに名乗ることなど、日本にいたらまずあり得ない。


「イオリ・クロスと申します。今後ともよろしくお願い致します」

「私こそお見知り置きください。ではシルバラッド様、これにて」


 第一部完。


「第一部かよ! つーか名刺くらい作れや! んな挨拶意味ねえだろ!」

「メイシとは何だ?」


 え、名刺が翻訳されないってことは、概念がねえの?

 侍女さんに紙とペンを持ってきてもらい、工房主の名刺を書いてみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クロス錬金工房

≪魔術薬製薬・魔導機器製造承ります≫


工房主:イオリ・クロス


ローメンス辺境伯領北部 鉱山都市アデーレ

東大通り中央を北へ一本入り右手角地

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんなん。言うたら連絡先カード。ファイリングしとけば忘れても平気」

「良い。これは良い。私なればどうなる。叙爵の後だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

シュミッツ郡政代理官府


郡政代理長官:ルーカス・シルバラッド男爵


ローメンス辺境伯領南部 交易都市シュミッツ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんなん?」

「郡政代理長官……うむ、素晴らしい官職名である」

「テキトーだけど、代官の正式名称ってなに」

「領政代理官だ」

「いやシュミッツは郡だし、トップなら長官だろ」

「尤もである。領都にて閣下へ上申いたそう」


 工房主になると決めた頃から、要るんじゃねえかと考えていた。

 何をするにも現地に行かなきゃならないし、例えば先日のバラッカ商会にしても、行った先で道往く人に場所を尋ねないと判らない。


 今はシルバラッド錬金工房だから、名が通っていて誰でも知ってるが、クロス錬金工房になった直後に、『クロス錬金工房に配送して』では通じないだろう。


 それもあって、ユウトとカノンには測量と併せて番号付けを頼んだ。

 例えば、東大通り沿い北側の、代官府に一番近い建物は「東大:北1」とか。

 路地通りも大通りを基準に一番街:北1とか付けていけば、上水道利用料の集金や、未払いが発生した際に浄化施設から止水する管もすぐ判る。


 こういうのは後付けすると訳が判らなくなるため、新設する時にやっておかないと、上水管の老朽化で交換する時も大混乱になるだろう。


「シルバラッド様、再開してもよろしいでしょうか」

「構わぬ」

「はぁ…」


 第二部は中堅以下の挨拶だった。企業なら課長、いや係長級だろうか。

 スリーピーススーツの評判が良いのはちょっと鼻が高くなる。


 そして晩餐の直前、代官の執務室で。


「お目通りの機会をくださり、真に有難く存じます。イオリ・クロスと申します」

「アデーレ領政代理官、ラシンド・シルバラッド男爵である。漸く顔を合わせることができ嬉しい限りだ。早期に会わせよと言うておったのだが、ルーカスに焦らされておっての」

「男爵閣下が軽々に市井の者と面会しては、周りに示しがつきませぬ」

「この調子じゃ。はっはっはっ」


 やたらゴキゲンなのは、このところ領主から褒められっぱなしだからだと。どうやら俺をお抱え錬金術師にしようと目論んでいるらしく、ルーカスには『私が叙爵されるまで安易に返答するな』と釘を刺されている。


 今はルーカスも平民なので、真正面から断るのは不敬になるそうだ。

 取り敢えず、早くメシ食って独りになりたい。




     ◇◇◇




――ユウト視点――


 食卓が暗い。まだ初日だというのに、会話が弾む気がしない。

 依存していたのだと、改めて思い知らされる。


「イオリがいないと寂しい…」

「あたし二ヵ月も耐えられる気がしない…」

「イオくんがいないと不安になるよね」

「黒須さんに『ユウトやるじゃん』と言われるだけで自信を持てます」


 そうなんだ。彼に言われると、自分が間違えてないのだと確信できる。

 この安心感は大きい。

 祖父が「もっと自信を持て」と僕に説いていたのは、これなのだろう。


 自信の源泉は何なのだろうか。なんて、そんなことは判り切っている。

 独立独歩で物事をやり遂げた回数だ。例えそれが失敗に終わるとしても、自身の信念に従い踏み出す一歩の意味は大きい。僕には踏み出す勇気が不足している。


 居酒屋で初めて会った時は、何て粗野な人だろうと思った。

 だが違った。黒須さんは揺るがない信念を持っているから、僕のように周囲の人たちの顔色を窺う必要がない。


 だからと言って、彼は他人に冷たい人ではない。

 むしろ他人に優しく、自分に厳しい人だ。

 黒須さんという見習うべきお手本が身近にいるのだから、僕はもっと努力しなければいけない。例え失敗するとしてもだ。……よし。


「皆で一緒にお風呂に入りましょうか!」

「え、嫌だ」

「今死ね」

「意図は判るけど完全に間違えてるよ」

「も、申し訳ありませんでした…」


 た、例え失敗……したぁあああああああっ!


――カノン視点――


 同じことをイオくんが言ってたら、笑い声に変わったんだろうな。

 でもねユウトさん、私は頑張って空回るユウトさんが大好きだよ。

 イオくんを目指すんじゃなくて、ユウトさんとして大きくなってほしい。

 もしユウトさんがイオくんみたいになったら……うん、ないね。


――リリ&ココア視点――


 イオリ帰って来て~~~。ユウトが怖いよ~~~。

 カノンがそんなユウトも好きみたいな顔しててウケる。(笑)



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