69:この世界で生きていく
日没後なもんで、アデーレの外郭門は閉まってる。
だから?って感じで外郭の上空を歩き、階段を下るように西広場へ着地。
いやこれマジでイイ! 何がイイって、ソールが減らないのは助かった。
たぶん時速二〇〇km超で走れたんじゃなかろうか。
「ただいま」
「「「早っ!?」」」
「お帰りイオリ~、チュ♥」
「リリはトマト味。腹減った。俺の分あったりする?」
「「「「……」」」」
んな目ぇ逸らさなくてもいいっつーの。
帰着日未定だったんだし、俺の分まで作ったら五人前余るし。
ってことで背嚢を下ろし、徐に弁当を出す。ほら、もういい匂い。
「めっちゃいい匂いなんだけど!」
「スパイシーな香り…」
「黒須さん、まさかそれは…」
「ハシュアは香辛料を栽培してるもんね」
「リリ正解。ハシュアはスパイシーなギリシアだった。ババーン!」
「「美味しそう(です)!」」
「センパイ、交換しよっか」
「殆ど残ってねーじゃん」
「ぶぅーーー」
唇を尖らせブーイングなココアの口にスパイシーチキンを放り込み、リリの口にはスパイシーポークを放り込み、魔石一五〇〇個を確保したと報告する。
仕入れ値はアデーレの五割増しだが、おそらく不良品はなく、品質はアデーレで仕入れる物の倍は良い。一ヵ月後にはルーカス宅に届く予定。以上。
「在庫をそんなに持っているのは凄いですね」
「ウェルニアの政商だからかな?」
「それもあんだろうけど、バラッカは帝国に太いパイプがありそうだな」
ルーカスに確認してみないと断言できないが、魔導工学の祖は中村さんだろう。
なんせ、魔導工学と魔導製品はルベリオン帝国が発祥地らしいから。
ルーカスが魔導工学を学んだのも帝都のアカデミーだろうし、同輩ホランドンの腕が良いのも納得できる。
「中村さん言うてる」(笑)
「親近感が湧く面白いもん見つけたもんでな」
背嚢から魔法式が消えた魔導書を出してテーブルに置き、「読んでみ」と顎をしゃくっった。
「ちょっ、ユウトまだ捲るなし」
「おっと失礼」
ユウトは速読できるからな。
「おけ。えっ!?」
「中村遼太郎…」
「これはまた…」
「ジャパンの字だよね?」
「そう。リリはリョウタロウ・ナカムラを知ってるか?」
「不老長命のすごい魔術師?」
「そんな感じなんだけど、実は――」
「えぇーーーっ!? これ黒須さんのことですよね!?」
「お前ほんと読むの速えな」
「うそっ!? イオくん重力魔法を継承したの!?」
「読む前に判ったんだけど! これマンガなら超ヒンシュクだし!」
「申し訳ない…」
「ココアちゃんごめん…」
「イオリどういうこと?」
「こういうこと」
立ち上がって階段を上るように宙を歩いてみる。
「すごーい!?」
「「うわぁ…」」
「なんなのセンパイ人外カテ?」
「変なカテゴライズすんな泣くぞ」
これ照明取り付ける前だったら超便利だったのにと思いながら着席し、ココアたちに「最後まで読め」と再び顎をしゃくった。
「「「……」」」
やっぱりココアたちも同じとこで引っかかったみたいだ。
俺が一番気になったのは、『あの日、あの時、あの場所へ帰ることさえ可能になるかもしれません』の一文。俺はリリと離れたくないし、ココアも同じ気持ちだろう。リリを連れて帰るってのも考えたが、それはリリにとって不幸だと思えるからナシだ。
「可能不可能じゃなく、どうしたい? カノンとユウトな」
「僕は…この世界でカノンさんと幸せになりたいです!」
「私も! 同じことを言おうと思ったの!」
聞くまでもなかったか。
「ココアもいいな?」
「あたしに聞くとかセンパイ失礼だし」
「だよな。俺とココアとリリは三人で幸せになろうぜ!」(サムアップ)
「あたしがセンパイのこと幸せにしたげる!」(サムアップ)
「よく分かんないけど、私もイオリのこと幸せにする!」(サムアップ)
その日、俺はココアと初めて結ばれた。
直後でリリに襲われ、リリの跳ねっぷりにココアは唖然としていた。
ユウトとカノンも結ばれたに違いない。
翌朝、肌艶の良いリリを見送って朝メシ作りを続けていると、いつもはもっとゆっくりなココアたちが起きてきた。
「おはよう」
「おはよ。あのねセンパイ、まだ大きいの入ってる感じで痛っ!?」
「なぜここで言う!」
「だって歩くとまだ入ってるみたいなんだもん!」
「え…」
「カノンがドン引いてんだろ! つーかお前は知った風な顔すんな!」
「痛っ!? 僕は公衆浴場で見てるから仕方ないじゃないですか!」
「やかましいわ! 記憶飛ぶまでぶっ飛ばすぞ!」
「そ、そんなに大きいの?」
「もうキノコ怪獣みたいで痛ーーーい!」
「誰がキノコ怪獣だ!」
「吉岡さんは上手い表現痛い痛い痛いです! ごめんなさい!」
「てめぇはどこ見てんだ!」
「あっ、ごめんなさい!(キノコ怪獣…巨大キノコ…)」
想像してる風なカノンが気になりはするが、結果的には変なフラグが立ってなくて良かった。ワイバーンが出た時は『立ってた!?』と思ったが、終わってみれば良いこと尽くめだ。
「座れアホども、食いながら年明けまでの予定確認するぞ。いただきます」
「いただきまーす」
「「いただきます」」
俺に関しては、六月九日から早くとも七月末まで挨拶回り。
アデーレ代官府を皮切りに、辺境伯府から王都へ。帰って来た俺は中途半端な貴族みたいになってるかもしれん。何気に心配だ。
ココアたちには、俺が不在の間の調達管理と下処理、下準備をしてもらう。
仕事関係だと複合魔導具千個分、魔術薬、上下水浄化インフラ関連。
複合魔導具は、魔石一五〇〇個の入荷が七月初旬、その他の材料も八月中旬には集結する。コア用ミスリル系魔銀の切り出しとか、魔力源周りの構造部品を先行して造れば早いだろうが、そこの計画と管理はユウトに任せる。
魔術薬の素材も随時入ってくるため、そっちは入荷即下処理を済ませて保存。
問題があるとすれば、上下水浄化インフラの詳細計画と上水管の製造だ。
「ユウトとカノンが測量しながら番号付けて、ココアが図面に落とすんだろ?」
「カノンさんと僕でメモリ機能付き測量魔導機を造ります。実用テストをして問題がなければ、吉岡さんの製図は在宅でも可能かと」
「ユウトさんには地下の試し掘りをしてもらって、土木工事計画書も作成しようと思ってるよ。工程表っていうのかな?」
アデーレは魔獣領域を潰した跡地に開発された街で、歴史はそう古くない。
カタコンベみたいな地下建造物はないはずだが、最初期に建てられた代官府近辺の地盤調査をしておくに越したことはない。
「そういえば、管の材料はステンレス鋼に決めたのか?」
「はい、地震の履歴がないようなので。長さと形状違いで試作もしてみました」
ステンレスは腐食に強いし、複合魔導具の外装に使っているため扱い慣れている。鉄とクロムの合金なんだが、クロムを10.5%以上にするとクロムが酸素と結合し、表面に不動態皮膜という目視できない膜を形成して腐食を防ぐ。おまけに、傷がついても酸素があれば不動態皮膜が自動再生されるのだと。
何より、鉄はそこらじゅうで、クロムは北壁方面で抽出できるためタダだ。
仕事関係はこれくらいで、重要なのはプライベートの方。
「鞣したシカとヒツジの革が今月下旬に届くから、ココア頼むな」
「おっけー。センパイ帰ってくる頃にはブーツ出来てる思う」
「最高。その後は、いよいよ九月初旬に魔晶十八本が入荷だ」
「アイテムボックス♪」
「年内に完成させたいですよね」
「それな。あとアイテムボックスじゃなくてハンガーって呼ぼうぜ」
「ハンガー? 服の? どして?」
「航空機用の格納庫って意味。たぶんこっちの言葉に翻訳されない、はず」
「あ~、アイテムボックスは翻訳されそう。じゃハンガーで」
プライベートと言いつつも、超大量に造る上下水管の保管場所がない。それにハンガーを使えれば最高という企画だ。
浄化施設用に最低二本は魔晶が必要だと見積もっているが、判らないのは、魔晶一本でどれだけ時間軸のない拡張空間を維持できるのか。実はルーカスがちまちまと空間拡張術式を解析していたらしく、最大容積は供給可能な最大魔力量、つまり魔晶の総体積に依存するらしい。
これはもう魔晶一本バージョンを試作して、最大容積を確認するしかない。
容積の確認にはユウトの【造水】を使う。造水量が判るらしいので、結果によっては残りの魔晶を全部使ってハンガーを造るつもりだ。




