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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第4章:立身出世編

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65:山脈越え独り旅



 今のブースト上限に対して八割でも、平地なら時速一〇〇キロくらい出てるような気がする。

 走り出して気づいたのは、スニーカーがもつのか。


 買ったばかりの特注パルクールシューズではあるものの、足裏の接地感覚が鈍くならないようソールは薄めでグリップが強い仕様。

 親指の腹と付け根の部分が一番早く擦り切れてくるので、ブースト率を下げて安全走行。

 とりま行きだけもってくれればいい。


「聳えてんなぁ」


 山脈の第二高峰はララックという山らしいが、中腹辺りから上は「尖ってる」の言葉がお似合いな急峻っぷり。

 八合目くらいから上は万年雪だろう白に覆われていて、この高さだとワイバーンが飛んでても目視は無理だ。


 鉱山が多いだけあって岩肌が目立つ点も、スニーカーには優しくないこと請け合い。


「判りやすい谷間だこと」


 二時間ほど走ったところで、ルートに違いない谷間が見えてきた。

 ララックの裾野を隠すように、ララックの半分より少し高いくらいの山がある。

 南側からだと谷間は見えないだろう。


「だー、小石ごろごろかよ。厄介だな」


 ブーストしてれば上り傾斜は気にならないが、足場は悪い。

 石踏んで足首ひねったら最悪なので、基本地面注視でコンパスを確認しながら進む。


 早くも腹が減ってきたので立ち止まって背嚢を下ろし、干し肉を鷲掴みにして再び駆け出す。

 ブーストしてると干し肉でも柔らかく感じる。

 あー塩っぱい。


 塩分は干し肉で補給するつもりだったので、経口補水液は砂糖多めのオーダー。

 塩っぱいと甘いの繰り返しには、やめられないの悪魔が宿っている。


「魔獣狩り行っといて良かったな」


 五リットルの肩掛け真空ボトルは、魔獣狩りに行ったからこそ造るべきと思えた産物。

 川があるので五〇リットル級の大樽と三〇リットル級の中樽は大きすぎるが、二リットル級の小樽だと小さすぎるよなと思い造った。ユウトとカノンが。

 真空ボトルの派生で造ったのが真空タンブラーだったりする。


「ちょっと休憩すっか」


 もうじき陽が山の向こうに沈む頃合いで立ち止まり、デカい黒パンを出して複合魔導具のノコギリナイフで縦横に切れ目を入れる。マンゴーを食べる時みたいに。

 切り込みにナッツフルーツバターを詰め込んで、いただきまーす。


「あーむ。(もぐもぐ)う、美味し!」


 濃厚なバターと、香ばしいクルミと甘いヘーゼルナッツの香り。

 そこへ噛みしめた時に滲み出るドライフルーツの香りと甘味。

 これ永遠に食える。いや永遠は無理。


「ふぅ、意外と食い応えがあるな。旅の必需品認定で」


 薄暗くなった頃に背嚢を担いで立ち上がり、ブースト率を少し上げる。

 更にブレインブーストを重ねると…


「あら不思議! くっきりはっきりですわ!」


 とかアホなことを叫びつつ駆け出す。

 ブーストは感覚器官の機能も高めるから、光量が少なくても視界が明るくなる。

 今のところ七割までブーストすると夜行性動物のように夜目が利く。

 でもブースト率が高いほど腹が減るので三割ちょい。




 真っ暗闇になったところでブースト率を五割まで上げ、明瞭な視界を確保して走り続ける。

 時折り動物の足音が聞こえてくるが、襲いかかってくる類じゃないようで助かる。


「そろそろキメとくか」


 ヤバい薬でもキメるかのように呟いて複合魔導具を手に取り、レバースイッチを白丸に合わせ、銃口を胸に当てトリガーを絞る。


「バキューン! うっ…あ、貴方、スパイだった…のね……ってアホか俺は」


 脳ミソと一緒にふっ飛んだ眠気をいいことに、小石からそこそこデカい岩石に変わった地面を注視しながら谷間の頂きを目指した。









「おぉ……すげー感動する……」


 谷間の頂きが目前に迫った頃、俺を追い越し走るように陽光が行先を照らしていく。

 振り返れば、デカい太陽が遠い遠い山の稜線から顔を出していた。


 砂利と巨岩だけの地を蹴って一気に駆け上れば、広々とした平野の向こうにポツンと聳える山の輪郭が浮かんでいる。

 高さはララックの半分くらいだろうか。


 コンパスを見やると、山がある方角は北西。

 間違いない。

 九合目くらいをスッパリ水平に斬り取ったような山は、嘗て八柱の神々が降臨した神山ウェルン。


 ウェルニアという国名の元になった山で、ウェルン南側の麓には湖に面した聖都ハシュアがある。

 まだ聖都には陽が差してないから見えないが。


 アデーレからここまでと、ここからウェルンまでの直線距離を比べれば、ざっくり倍くらいありそうだ。


「明るい内に麓まで降りるのはムリっぽいな。麓の森は魔獣がいる臭いし」


 アデーレ側は禿げ山って感じだが、ウェルニア側は緑が多い。

 麓には森が広がっていて、指向性の魔力感知を飛ばすとちょいちょい魔力の塊が引っかかる。


 ウェルニアは聖都ハシュアを筆頭に七つの巡礼都市があるらしく、それぞれの巡礼都市はその地で受肉した神々の名を冠しているとか。

 聖都ハシュアは主神が受肉した地で、主神の名がハシュアなんだろう。


 なんかこう、神様という存在をすんなり受け入れている自分が不思議だ。


「下り勾配の方が急? 気のせい?」


 取り敢えずお日様が昇るまでメシを食うことにして、二個目の黒パンに切れ目を入れていく。

 ナッツフルーツバターをたっぷり詰め込んで、いただきます。


「うーむ、美味いけど三個目は飽きそうだな」


 食いながら背嚢に差していた木剣を抜き、【造形】をかけて先端をピッケルのように造り変える。

 後ろ手に地面を削りながら下ればすっ転ぶこともないだろう。


「ごちそうさまでした。よし行くか!」


 ソールの踵が擦り減っていくと明確に感じながら、下るならぬ滑降していく。










「ガァアッ!」

「っしゃあ!」


ゴキィッ!


「ガァアーッ!」

「だーりゃっ!」


ゴシャッ!


「グルァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「デカ!? ちょっ!? うひっ!? んの調子に乗んなくらあーーー!!」


ドグシャッッ!!!


「………………ふぅ」


 鉄より硬い木剣で頭をカチ割ること数十回。

 森から駆け上がってくる魔獣が途切れたことを確認し、少し戻って魔獣の首を踏んで腹を上に向けた。

 【造形】で鋭くした木剣の切っ先を首元に刺し、腹の中程まで裂く。


「やっぱ使えねえな」


 分かっちゃいたけど魔石の質が低すぎる。

 これだと魔力を充填した途端に砕けてしまう。


 最後に襲ってきた群れのボスだろうデカい魔獣に歩み寄り、仰向けにするのはデカくて無理なので横から腹を割った。


「良きだ。オマエ使える」


 原種はオオカミなんだろうが、色々と混ざってる魔獣の魔石には角がない。

 真球には程遠いものの、歪なビー玉って感じで赤い色も濃い。

 これなら十回や二十回の充填で砕けることはないだろう。

 複合魔導具の製品保証は再充填十回だから、それだけもてば十分だ。


 木剣の切っ先を潮干狩り用の熊手みたいに【造形】し、心臓に癒着している魔石を剥ぎとる。

 こうゆう時にユウトとカノンが羨ましくなる。

 俺は水を創り出せないから洗えない。


 ユウトたちには「練習すればいいのに」と何度も言われたが、自分でも不思議なくらい系統魔術に興味を持てない。

 でもこの状況は想定内なので、空の革袋にばっちいまま放り込めばいい。


「八割ブーストで夜襲のイオリをやってみるか」


 西の地平へ沈みゆく太陽を見ながら複合魔導具で意識を明瞭化させ、ブースト率を八割まで上げて眼下の森へ突貫する。


「おぉらぁああああーーーっ! 出て来い魔獣どもおーーーっ!」


 あ、ヤベ、木剣が潮干狩りのままだ。



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